第20話 花持たせ

 むむ……どうしようかしら。

 犬塚くんの提案で始まったババ抜き。私として遠山くんとトランプをする機会を逃さない手はないので、当然了承したのだけれど。

 このままでは勝ってしまう。


 現在三戦中全て一位抜けという私の戦績。

 もちろんイカサマなんてしてないし、正々堂々戦っているのだけれど……。

 私はカード越しに向かいに座る全敗中の彼を見る。

 ここは花を持たせて上げるのもいいんじゃないかしら。遠山くんも勝てた方が楽しいのでは……いや、そんなことをしたら遠山くんは怒るかもしれない。

 彼は何より曲がったことが嫌いなのだ。


 ……ま、まぁ、そういう所に惹かれたのだけれど……。


 私はさっきまでの思考を全て廃棄し、勝利だけを目指してやることにした。


「はい千聖」

「えぇ、じゃあ勝たせてもらおうかしら」


 シュバッと私は英梨々のカードを引いた。

 三枚あった私の手持ちは、ペアができたことで一枚になり、最後の一枚を遠山くんに差し出す。


「くっ……沖矢さん、強い……!」

「また一位抜け頂くわ」


 可憐なる勝利。あとは遠山くんが上がるのを応援するだけ!


「あ、……」


 遠山くんは、私から引いたカードを確認すると残る犬塚くんと英梨々に勝ち誇った笑みを浮かべ、ペアを捨てた。


「うわぁぁあ?!春斗に負けた!」

「うっそ?!また最下位になってくれると思ってたのにぃぃ!」

「二位抜けいっただきー!」


 遠山くんはよほど嬉しいのか、子供のように喜んだ。

 ……そうだ。


 私は彼の、こういう無邪気な所も好きなのだ。

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