第19話 出来ない

 新幹線が走り出して一時間。

 その間に僕は沖矢さんと親交を深めるどころか、一言も言葉を交わしていない。

 なぜって?


「……」


 めちゃんこ体調が悪いから。

 元々乗り物酔いはそんなにしないはずなんだけど、何故か今日に限って乗り物酔いをしてしまった。

 もはや神様が僕をいじめているとしか考えられない。

 というわけで僕は外の景色を眺める他ないのである。


「……ると、……春斗、春斗」

「……な、なに?!」


 犬塚くんに何回か呼ばれていたらしい。

 すると犬塚くんの手にはトランプが握られている。

 まさか、


「トランプしようぜ」


 いやいやいやいやいやいやいやいや!ダメだから!今トランプなんて始めたら、朝食べたものを新幹線の便器に流す羽目になってしまう!

 そして沖矢さんが目の前にいる所で、吐き気に耐えているなんてバレたら引かれてしまう!


「ぼ、僕は遠慮しよう……かな」

「そんなこと言わずにやりませんか?遠山くん」


 沖矢さぁぁあん!!!ありがとう!そのお誘いはとても嬉しい!嬉しいんだけど今だけは恨むよ!


「ほら沖矢もこう言ってることだし」


 犬塚くんのやろうやろうアピールがすごい。

 僕とてやりたい気持ちはあるし、沖矢さんとトランプが出来る時なんて今回限りかもしれない。

 ならばやらない手はない。


「わかった、やろう!」


 遠山春斗。吐き気と戦う覚悟を決めるんだ!

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