第10話 クッキー
「うん、美味しい!」
遠山くんにそう言われた瞬間、全てが報われたかのような高揚感が私の全身を包み込んだ。
生まれてこの方、バレンタインでは、女子にはお母さんがほぼ作ったチョコを、男子には市販品を詰め替えただけの手抜き物を渡し、そういうイベント事以外では人にお菓子を渡したことのなかった私が、今日初めて渡した。好きな男子に。
「そ、そっか……!よかった……!」
現実の私はしどろもどろに答えるが、思考の中の私は、まるでオリンピックで金メダルを取ったのか、と言わんばかりの喜びようである。
お母さんからお菓子作りを教わってよかったぁ!
「ありがとう沖矢さん、残りはまた後でゆっくり食べるよ」
「う、うんそうして……」
なんか今になって急に恥ずかしくなってきてしまった。
この後一日中、彼は私の隣の席に座っているのに、授業に集中できる気がしない。
「うぅ……」
その日、私はやっぱり授業に全然集中出来なかった。
帰宅後。
「お母さん!私にお菓子作りのいろはを教えてください!」
「え、どうしたの急に?あ!上手くいったのね?よかったわね!」
「そ、そんなんじゃないからぁ!」
茶化してくるお母さんをなんとか説得した私は、夕食後、お母さんと共にキッチンに立った。
次は何を作ったら喜んでくれるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます