金糸雀(織・太)

「金糸雀が死んだのを見た後では間に合わない時がある、というところかな」

「―そんな浪漫溢れる評は初めてだ」

酒場の主人も席を外し、他に客もいない静かな隠れ家で、織田作之助の“天衣無縫”の制約について情報を共有した太宰治が最初にした発言が其れである。

一瞬眼を見開いて感嘆した織田は琥珀色の酒で久々に良く働いた唇と舌を労った。

織田の感嘆に、何故か数秒きょとんとした太宰がうふふ、含み笑いをする。

「……此れを浪漫と云う君自身が一番浪漫に溢れているさ」

「……そうか?」

作家を志す身としては悔しいが、今の自分には逆立ちしても出てこない言葉だった。

「そうだよ。誰かは“無惨な例えをするな”と云うかもしれない」

「うん?」

別に本当に金糸雀が死ぬ訳ではないが、人によっては無惨さを感じるのか。当事者としては異能の見せる未来の映像の中で死ぬのは大抵自分自身であるので、その点の無惨さについては既に意識するようなことでもない。

………………。

(……金糸雀?)

何故、件の表現が自分で思い付かないか判ったような気がした。

座りの悪い想像を頭から振り払っていると、少し声の真剣さを増した太宰に問いかけられる。

「ところで織田作、信頼はとても嬉しいが本当に善かったのかい? 異能の弱点まで私に明かしてしまって」

「情報は正確な方が善いだろう」

其れが敵であれ味方であれ力になるかは相手次第だが、太宰であれば間違いはない。

「大きな抗争になるんだろう? 頭の片隅にでも置いておいてくれ」

「……片隅と云わず特等席に鳥籠を用意して大事に抱えて歩きたいが……金糸雀が死ぬような場所には行けなくなってしまうね」

「極力そうして貰えると助かる」

「折角のチャンスなのにー」

二人きりの地下にはしゃいだような声音の抗議が響く。


此れは後に龍頭抗争と呼ばれる出来事の前、太宰の左隣がまだ空席であった頃の話だ。

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