寒がり太宰さん①布団

「やあ、国木田君。朝早くに足を運んでいただいたところ悪いのだけど、私は取り込み中なのだよ! 秋も深まり肌寒さに人恋しく、温もり求めて拙宅にお迎えしたのだけど、あまりに実りある一夜を過ごしてしまってね。彼女の包容力に此の儘永遠を誓ってしまいそうだ」

「そうか、珍しく寝れたのなら其れは良かったが……」

眼鏡のフレームを朝日に光らせた国木田が一歩、部屋の中へ足を進める。

「―引き篭り二人目は要らん‼ と、云うか何だ此れは!? 最高級の羽毛布団ではないか!!」

「ちょ、止めて、蹴らないで!」

籠城の構えを見せていた太宰は上掛けごと一瞬だけ浮かび上がり、其の儘器用にも羽毛布団ロールになりながら壁際まで転がった。無駄にキリッとしながら「芥川君から貰った」と云う。

「この間街中で会ったときについつい寒くなってくると社員寮の隙間風が辛いんだよねーって話したのだけれど。そしたら昨日匿名で郵送されてきたのだよね」

「太宰さん、未だ十月ですよ?」

その辺りでやっと国木田の周りの温度の下がり具合に引いて部屋の外にいた敦は話し掛ける事が出来た。ぬくぬくと羽毛布団にくるまった太宰を困惑気味に見下ろして思う。むしろ暑くないだろうか。

「……今からそれじゃ、冬になったら如何するんですか?」

「ふふふ……敦君、歳を取ると体を鍛えるより甘やかす方が健康への近道だよ。……そんな先の事は考えていなかったけど、そうだね……湯たんぽでも使おうか」

暑い。口の中で呟いて、隣で額を押さえて「マフィアから軽々しく物を貰うんじゃない……」とか「お前は俺と同じ歳だろう」と力なく云う国木田を見上げる。

彼は溜め息を吐いて太宰から布団を引き剥がしにかかった。

「兎も角、今日は朝一で往かねばならん依頼があるのだ! 出てこんか!」

集合時刻はとっくに過ぎているが、出発時刻にはまだ余裕がある。……羽毛布団は予想外だったろうが、こういった展開は盛り込み済みなのだ。慣れと悲哀を感じる。

手元の携帯電話で時刻を確認しながら、敦はとりあえず茶番の終わりを待つことにした。


〈了〉

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