あんごたんおめ
「やあ安吾! 今君に望みを尋ねたら、睡眠か休暇と返ってくるだろうね!」
「凄い隈だ」
本部地下の駐車場で待ち構えていたかの様な二人の友人に声をかけられ、坂口安吾は鈍く疲労を訴え始めていた頭痛が、認識と思考の前面に躍り出てきた感覚に眉間の皺を深くした。
一度、気を緩めてしまってはもう駄目だ。体の重さが数倍になってのしかかり
「お揃いで何か御用ですか……見ての通り僕には睡眠と休暇が必要なのでこれから帰宅するところなのですが」
「ふっふっふっ……当然、安吾を迎えに来たに決まってるじゃあないか! 君の充実した休暇の為、全て手配済みだ! 安心して我々に身柄を預け給え」
何を安心すればいいんでしょうか。というか普通に帰宅して昼まで
瞬時にそう脳裏に浮かんだが口に出す前に、聞き慣れた電子音が響いて車のドアが開かれる。
「……太宰君、人の車の鍵を擦り取るのは止めて下さい」
「安吾は律儀だねぇ」
「運転は俺がやろう。少しでも寝るといい」
その気遣いは有り難いが太宰の行動を抑制してくれないだろうか。脱力して後部座席に引きずり込まれながら思うが、間違いなく永遠に通らない要望である。
全く平常通りの顔で安吾のくぐったドアを外から閉め、運転席に付いた織田を恨めしげに見たが、「はい、お休み〜♪」と何処から用意したのか毛布をかけられて遮られた。
車のエンジンの振動が体に伝わって眠気を倍増させる。
ああ、不味い。此れは迎えに来てもらえて良かったかもしれない。
急激に意識が遠のく中で、「ふふ、誕生日おめでとう、安吾」「おめでとう」と祝福する言葉を贈られたが、礼は夢の中に留まった。
それはとても幸福な夢であった気がした。
〈了〉
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