ぴよぴよ(敦・太)

 ぴよぴよ、ぴよぴよ


「……これはどんな状況ですか?」

「やあ、敦君。今この部屋はひよこの保育中だ。可愛いだろう?」

「確かに可愛いですけど」


 黄色い羽毛の小さな固まりに埋もれた部屋の主の朗らかな声に、困り顔で頷きながら敦は近くの床を見下ろした。

 玄関前に段ボールの箱を並べてバリケードを作ってあるが、その先は黄色いもこもこがそこかしこに動き回っている。まさしく保育園状態だ。

 下手に動くと踏んでしまいそうだ。


 隙間なくござを敷いた部屋の中央で腹這いになっている太宰の体の上でも、たくさんのひよこがぴよぴよと鳴き声をあげている


「賢治君がね、知り合いの養鶏家から飼い主を探してくれって頼まれたらしいのだけど」

「? 引退でも?」

「それならにわとりもいるだろうし……誤発注とかじゃない? 」


 恐々摺り足で太宰の側まで近寄った敦は隙間に潜り込もうとしているのか、ふとももの間あたりでお尻を振っていた一羽を捕まえて床の群れの中に放しながら首を傾げた。

 賢治は今引き取り相手を探しに出ているらしい。彼ならすぐ見つけてきそうだ。

 裾からベストの下に潜り込もうとした別のひよこをやんわり止める。


「ちなみに何羽いるんですか?」

「74羽」

 頬杖を突きながら楽しそうに水を含んで白く膨らんだ米粒をひよこに与え、太宰は横目で此方を見上げてきた。


「という訳で……敦君! 今日は一日ひよこの保育士をやってくれたまえ!」

「はあ……」

 やけにご機嫌に宣う太宰に曖昧に応えた敦は、彼の蓬髪の間から顔を出したひよこにぴよぴよと何事か訴えかけられながら、賢治の早い帰還を真剣に祈った。


〈了〉

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