第5話 再会した、かつての親友⑤

 そうこうしているうちに初日の授業が終わった。

 教室は瞬く間にけんそうを取り戻し、学生たちは退屈から解放される。夏至の近づく6月の空はどこまでも青く、まだまだ明るいつもりだと主張している。遊びに繰り出すには絶好の天気とも言えた。

「なぁ霧島、これから皆でカラオケに行くんだけど、一緒にどうだ?」

「そうそう、歓迎会も兼ねるしおごるぞー」

「転校生がどんなのうたうか気になるなー」

「いや、俺はその──」

 隼人は調子の良い、そして好奇心の強いグループに囲まれた。その中には先ほど質問攻めにしてきた顔もいくつか見える。彼らとしてはごく自然な誘いなのだろう。しかし田舎で同世代との交流が無かった隼人は、どうすれば良いのかわからず躊躇ためらってしまう。

(それに、カラオケ自体行ったことないし……)

 あやふやな態度でまごついていると、強引に肩に手を回され連れて行かれそうになった。

「てわけで、行くべー」

「ちょ、おいっ」


「ダメッ!」


 しかし、それに待ったと鋭い声が掛かる。

「え?」

「うん?」

「二階堂、さん……?」

「…………ぁ」

 彼らにしても意外な相手だったのか、彼女──二階堂春希に注目してしまう。

 そして春希本人も予想外な声だったのか、驚く顔も一瞬、コホンとせきばらいして向き直る。

「……えっと、その、こほん。ダメですよ、放課後案内してっているんです。ね、霧島くん?」

「そっかぁ、それじゃあ仕方ねぇな。二階堂さんが相手してくれるなんてうらやましいぞ、この!」

「え、いや、二階堂さん……っ!?」

 言うや否や羨ましそうにする男子たちの視線を背に、春希はいきなり隼人のかばんつかみ、強引に引っ張っていく。隼人を引っ張る力はその細腕からは信じられないほど強く、有無を言わせない。どちらかと言えば、引きずられていると言った方が良いかもしれない。

 そして、そんな調子で校舎を案内するわけでもなく、昇降口に直行して校外へと連れ出された。

「おい、一体どこへ連れて行く気だ?」

「いいから、いいから!」

 学校を飛び出した隼人は、春希に引っ張られる形で住宅街を小走りに進む。

 傍から見れば美少女に無理矢理連行されている図である。

 さすがに情けないやら恥ずかしいやらで、隼人の顔も熱を持つ。

 だが春希はそんなの知ったことかとばかりに前を駆ける。

 しかし、かつての子供時代をほう彿ふつとさせる構図でもあった。

(ははっ! ……まったく、変わらない、な!)

 それは隼人にとって、土手やあぜ道の代わりにアスファルトをばしている、ただそれだけの違いだった。

「どこに向かってるかは知らねぇけどさ、おせぇよ」

「むっ!?」

 隼人はあの時と同じように、早足を競って春希を追い抜こうとする。

 するとあの時と同じように、春希も負けじと足を速める。

 隼人が前へ、春希が前へ、抜いて抜かれて全力疾走。2人の顔には不敵な笑み。互いの手はつながれたまま。

「あはっ!」

「ははっ!」

 意味がわからなかった。

 だけど一緒に走る、ただそれだけで楽しくなった。

 かつての出来事と感情を思い起こされ、理屈を飛び越えて目の前の女の子がなのだと、はっきりと認識させられる。

 昔と姿形は変わってしまっているかもしれない。だけど、確かに変わらないものがある──それがなんだか無性にうれしくなってしまった。

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