第2話 再会した、かつての親友②

 どうやら先ほどの受け答えはまずかったらしい。

 その後の授業中も、隼人は隣の席の美少女から、どこか不満気な空気を感じ取っていた。

 もしかしたら勘違いかもしれない──だけど視線が合う度に目を逸らされてしまうと、その線は薄そうである。

(う、どうしたもんか……)

 そんな隼人の気持ちなどお構いなしに、授業は進められていく。

 当然ながら、以前の学校とは授業内容が違う。疑問はさておき、今は遅れまいと必死になって耳を傾ける。しかし、どうしようもないこともあった。

「すまん、悪いんだけど、この間のプリントって?」

「……」

 教材などで、どうしても隣の席の彼女に世話にならざるを得ないこともある。嫌でも彼女を意識してしまう。

「あーその、ええっと……」

「……これです。そこからじゃ遠いでしょう、机、近付けたらどうですか?」

「あぁ、ありがと」

「いいえ」

 幸いと言うべきか、なんだかんだと快く見せてもらえるので、完全に嫌われているというわけでは無いようだ。どちらかと言えばねているようにも見えた。

 彼女のことがよくわからなかった。

(うぅ、姫子なら、甘い物でもやれば機嫌が直るんだけどな……)

 田舎出身の隼人にとって同世代、それも異性となれば、妹くらいしか該当者は居ない。

 厳密にはもう1人妹の友達が居たのだが、どうしたわけか避けられていて交流はほぼ無い。

 いくら隼人でも、さすがに妹と同列に考えてはダメだというくらいの分別はある。

 ならばいっそ直接聞いた方が早いなと思い、次の休み時間になると同時に話しかけようと決意した。


「その、二階ど──」

「なぁなぁ霧島、今朝の質問の続きだけどさ」

「あーしも、ちょっと気になったところがあるんだけど!」

「向こうでのことだけどさ──」

 しかしそれも、クラスメイトの質問に遮られてしまう。

 学校にも慣れ始め、同じような日々に退屈を感じ始めていた彼らにとって、隼人はかつこうの餌食と言える。それを逃す彼らではない。

「……ふぅ」

 彼女はクラスメイトにみくちゃにされている隼人を見て、どこかあきれたようなため息を吐くのだった。


 質問攻めは休み時間の度に繰り返され、結局彼女と話す機会が無いままに昼休みを迎えた。

 さすがに昼休みともなれば、隼人より食事の方を優先するらしい。あちらこちらでグループを作って弁当を広げる様子が確認できる。チャンスだった。

(何とか話をしないとな)

 気にするほどのことではないかもしれない。だけど、何かが心に引っかかってしまっていた。できることならそれを取っ払いたいと思うし、二階堂は相当に可愛らしくもある。隼人も健全な男子として、嫌われたくはないという思いもあった。

「二階堂さん、ちょ──」

「──すいません、二階堂さんはいますか!?」

「あ、はい。ここです」

 またしても失敗してしまう。

 今度は彼女の方が、小柄な女の子に呼び出されて教室を出ていった。

 突き出した手と言葉が空しく宙を舞う。

 そんな姿をさらした隼人に、何人かの男子生徒がニヤニヤしながら近付き肩をたたく。

「はは、早速二階堂さんに目を付けるとはやるな、転校生。気持ちはわかる」

「うんうん、あの容姿な上に気立ても良くて勉強もできる。更に運動部にだって引っ張りだこって話だ」

「今だってあれ、生徒会か部活関係の話じゃないかな?」

「俺はそういう──いやでも、すごいな」

 話を聞くに、まるで絵に描いたかのような優等生ぶりだった。

 なるほど、二階堂は確かに美少女だ。

 しかも文武両道で、性格も見た目通り謙虚で穏やかとなれば、一体天は彼女に何物を与えているというのだろうか。都会にはそんな漫画やアニメのような人が実際にいるのだと、感心してしまう。

(同じ二階堂でもとは大違いだな……て、そもそも性別からして違うか)

 そんなことを思い、思わず苦笑がこぼれた。

「狙うのはいいけど、あれはたかの花だぞ」

「中学の時も相当モテてたらしいが、誰一人として浮いた話が……あぁ、そういやお前、入学早々アプローチするも、まったく相手にされてなかったっけ?」

「うっせ! とにかく転校生──霧島も変な期待をしない方がいいぞ」

「別にそういうつもりじゃ……」

 案の定、相当にモテているようである。

 隼人は揶揄からかわれるものの、別に付き合いたいとかそういった感情を持ったわけではない。確かに可愛いと思うしそれは否定しない。しかし今日見知ったばかりであり、よくわからないな、というのが素直な感想だった。

 それは二階堂にとっても同じだろう。

 だからこそ、余計にわからなくなってしまう。

 そんな彼女がどうして、初対面のはずの自分に、不満気な空気を出して素っ気無い態度を取るのだろうか?

「うーん、わからん」

 首をいくらひねっても答えは出ない。

 疑問と共に早く話をしないと、という気持ちだけが募っていくのであった。

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