転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件
雲雀湯/角川スニーカー文庫
第1話 再会した、かつての親友①
#プロローグ
ある夏の終わりの夕暮れだった。
それは彼らがまだ、楽しい日々がいつまでも続くと無邪気に信じていた時のこと。
『ひっこし?』
『うん、すっごくとおいとこ』
『もう、あそべなくなるのか?』
『……わかんない』
山奥にある神社の更に奥、古い社殿を利用した遊び慣れた子供たちだけの秘密基地。
そこで戸惑う2人の子供は、互いに
引っ越し。
その意味がわからないほど幼くはなく、そしてどうしようもない別れがあるということも理解してしまう。
頭の中はぐちゃぐちゃで、言い様のない感情が身体中を駆け巡り、彼らの胸と感情を焦がす。
大切な友達だった。
ただでさえ過疎の進む山里で、数少ない子供同士。妹とも一緒に毎日のように遊び回り、これからも一緒だと信じて疑わなかった。
だからそれは、現実を認めまいとする抵抗であり意地だった。
強引に小指を取って絡ませる。
戸惑う相手のことはお構いなし。
だけど、どうしても何かせずにはいられない。
『はるき、おれたちはずっとともだちだから!』
『う、うん! ボクたち、はなれていてもともだちだ、はやと!』
それは子供同士の小さな約束。
周囲に咲き誇る
どうしようもない別れを前にした、再会を願うもの。
だから2人は無理矢理にでも笑顔を作る。
『いってきます!』
『おぅ、いってこい!』
ゆえに、別れの言葉は交わさない。
それは今からもう、7年も前のことだった。
#1 再会した、かつての親友
そして現在。
「でっけぇ……」
目の前の高校を前にして嘆息する。
引っ越し先の転入先の高校は、田舎のうらぶれた雨漏りする木造1階建てのものと比べると、3階建ての白亜の鉄筋コンクリートのそれは随分と大きく
思わず現実逃避気味に、先のように懐かしいことを思い出していた。
ともかく圧倒されたままではいけないと、気を取り直して職員室へと向かう。
既に面倒な手続きなどは終えているようで、そのまま担任の先生と共に教室へと行く。
扉の上には1─Aのプレート。ここが今日から隼人の教室らしい。
ガラリと戸を開けた瞬間、入口からして興味の視線が突き刺さり、一瞬ビクリと肩を震わせ緊張する。当然だ。田舎の全校生徒より多い人数が一部屋に集められているのだから。
「き、
そんな自虐風の自己紹介。大うけされるほどではないが、周囲から思わず好意的なくすくす笑いが
(ふぅ、よかった)
転校初日の滑り出しの反応としては上々で、隼人はホッと息を吐く。
ただでさえ田舎から都会への引っ越し、それも6月の半ばという中途半端な時期である。隼人としてもやはり、一抹の不安があったからだ。
それでも、ワクワクしていることもあった。
幼い頃に約束を交わした相手──
「席は……そうだな、二階堂の隣が空いているか」
「二階ど──え?」
「はい」
一人の女子生徒が、ここですよとばかりに手を挙げた。
とても綺麗な女の子だった。
くりくりとした大きな
隼人は月野瀬の田舎ではまずお目にかかれない美少女にドキリとしてしまう一方で、『あぁ、この
(お調子者だったアイツのことだ、もし同じクラスとかだったなら、『同じ名字って運命だよな』と絡んで行って迷惑掛けているのかもな)
そう思うと、くつくつと笑いが零れて
「よろしく、二階堂さん」
そんな隼人の反応に、彼女は目をぱちくりとさせ少し驚くような表情を見せるも一瞬、どこか人好きのする
「よろしくね、霧島くん」
(……え?)
隼人は目を細める彼女に、何故か懐かしい気持ちを感じてしまった。
──あれ、何で懐かしいって思ったんだ?
思わず首を傾げてしまうのだが、周囲は考える時間を与えてはくれない。
「ねね、霧島君、自己紹介で言ってたことって本当?」
「どんだけ田舎なんだよ、道路に鹿とか猿が出るって……マジで?」
「でも一体そんなところから、どうしてこっちに来ることになったんだ?」
ショートホームルームが終わるや否や、隼人はクラスメイトに囲まれて、転校生に対する質問攻めという名の洗礼を浴びせられてしまう。
「あぁ、転校したのは急な親父の転勤なんだ。前に住んでた月野瀬はバスが1日4本しか無いような山奥でさ、人の数より家畜の数の方が多くて……正直ニワトリや羊以外にこんな風に囲まれたことが無くて、びっくりしてる」
肩をすくめてそんなことを言ってみれば、「なにそれ」「マジかー」「ウケるー」といった笑い声が広がっていく。
中々の好感触だった。思わず
「向こうで彼女とかいなかったの?」
「彼女どころか、そもそも同世代の人を探す方が難しいな」
「友達とかは? 遊びとかどうしてたんだ?」
「基本は1人でゲームか畑の手伝いかな……あ、でも1人だけ居た。すごく仲の良いやつだった。橋から一緒に川の中に飛び込まされたり、山で木に登っては降りられなくなって落っこちたり……あぁ、友達というより、アレはタチの悪い猿か何かの
隼人はかつての親友ことはるきとの記憶を手繰り寄せながら、そんなことを話す。
どちらかと言えば、いつも引っ張り回され振り回された思い出ばかりだった。ロクなものじゃないだろう。だけど、確かに楽しかった記憶でもある。今だって思い返せば口元が緩んでしまう。
ベキッ!
「──へ?」
「…………ぁ」
どうしたわけか、話すと同時に隣から何かがへし折られる音が響いてきた。皆も思わず、そちらの方に目を向けてしまう。
音の発信源は、隣の席の二階堂さんだった。
手には真ん中でポキリと折れたシャープペンシル。
本人も驚いた表情をしている。
大和撫子みたいな清楚可憐な美少女と折れたシャーペン。
そのよくわからない組み合わせに、隼人を囲む皆の意識も、質問よりそちらの方が気になってしまうのも無理はない。
「二階堂さん?」
「え、それ、どうして……?」
「大丈夫? 怪我はない?」
「あ、あはは。大丈夫、これちょっと不良品だったみたいでして」
注目を浴びた彼女は、慌てた様子で
「大切な友達だというのに、随分な言い方をするんですね」
「ははっ、そりゃ、大切な友達だからな」
「……へぇ、そうなんですか」
隼人ははるきのことを考えながら言葉を返す。
そして彼女は、ぷいとばかりに顔を
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