新展開!新たなる強敵!
毎度のごとくノミオスの酒場――ではない、冒険者ギルドの前の雑多な人混みの中に盗賊シフと勇者レイヴはいた。
シフは眠い目を擦り、あくびを隠す気もなかった
その一方で勇者レフは期待に目を輝かせている。
「……嘘でしょ」
「グルル……とうとう動いたか、愚かなる人間」
そんな二人を見て、散歩中の魔道士ツンは愕然とし、暗黒冥炎獣デスヘルケルベロスのポチは泰然と受け止める。
「シフ!」
「も"っ"」
ツンが勢いよくシフの方へ駆ける、リードの勢いにポチの頬が一瞬もっちゃりと歪む。
「あ、ツンちゃん」
「お世話になっています」
「シフ!とうとうアンタ働く気になったのね!」
ツンの喜びに満ちた表情に対し、シフの顔は暗い。爆弾に接するような緊張感があった。
「うん、アタシわかったんだ……レイヴ君は放っておくとヤバいって。それならまだ、アタシが選んだ仕事をさせたほうがいい」
「えぇ……」
シフが身をかがめて、ポチの頭を撫でながら言った。
レイヴはポチの後ろに回り込んで、背を撫で回し、ポチは尻尾を千切れんばかりに振っている。
ツンは困惑しつつも、若干の感嘆の念をシフに抱いていた。
常に振り回す側だったシフが、導く側に回ろうとしている――成長したものである。
「クク……我のような狂獣と言うべきだな」
「まぁ、働くならなんでもいいわよ……、身体ならしたらとっととウチに戻ってきなさいよね」
「ま、のちのちね」
うにょうにょとポチの頬を弄びながらシフが応じる。
「ところで、アンタ冒険者ギルドを利用したことあったかしら?」
「冒険者登録の時だけだね、レイヴ君は?」
「恥ずかしながら、僕もそうなのです」
「ま、難しくないからアンタ達みたいなバカでもすぐにわかるわよ」
「なるほど……では、早速行ってみましょうか」
立ち上がったレイヴが、冒険者ギルドへと歩き出す。
とうとう新しいパーティーの冒険が始まろうとしていた。
「いや、待って」
「どうしたのよ」
だが、シフは動かない。
ポチの垂れた耳を上げたり下げたりをパタパタと繰り返しながら、そこに留まる。
「どうしたんですか、シフさん」
「冷静に考えてみなよ、レイヴ君」
「グルル……やめよ愚かなる人間……こそばゆい……」
「何も知らないで冒険者ギルドに行くのは恥ずかしい!!」
「は、恥ずかしい……!?」
「何言い出してんのアンタ!?」
「アタシは人見知りするところもあるから、そういうシステムとかを聞くのも結構恥ずかしいよ!!」
シフは胸を張り、堂々と言ってのけた。
ツンは唖然とした顔でシフを見、ポチは大きなあくびを一つした。
「なるほど……」
レイヴは納得したように頷き、踵を返してポチの背中を撫でる。
「言われてみれば、恥ずかしいかもしれませんね……特にこういう人が多いタイミングで質問をするのは申し訳無さもあるかもしれません」
「えっ……アンタもそれを言うタイプの人間なの……!?」
「僕も幼い頃は恥ずかしがりやさんで、はいかいいえでしか相手とコミュニケーションを取ることが出来ませんでした……そして、唯一の知り合いの心が折れている事実に僕もちょっと無理になりつつあります」
「グルル……情けない奴らだ……本当に情けない奴らなので、なんとも言えんタイプの……」
徐々に冒険者ギルドを出る冒険者の数が増えていく、順調に今日の仕事が決まっているのだ。冒険者の中にはポチに手を出そうとしてツンに追い払われる者も現れだす。
「勇者の勇気は他人に話しかける勇気を振り絞るの勇だったのかもしれませんね……」
「アンタマジのバカなの!?」
「そして、アタシはもうこの時点で家に帰りたくてたまらないよ!!」
「グルル……愚かなる人間……超絶な愚かさよ……」
「冒険者ギルドの人は優しいんだから、とっとと行ってきなさいよ」
「甘いね……アタシは他人の優しさを信じられないんじゃない、ただ自分を信じられないだけだよ!!」
「っていうか毎日飲んだくれて働いてないんだから、お金も無くなるでしょ!!」
「金はあるよ……マジで引くほどあるよ……本当にごめんなさい……ありがたく使わさせてもらいます……」
シフは顔を青ざめて後半の言葉はほとんど届かぬ懺悔のように聞こえた。
「……えっ、アンタ何したの?」
「人間同士がわかりあえないというのは悲しいことですね」
目に憂いを湛えたレイヴが物悲しげに呟く。
そんな二人の様子に、ツンは詳細を尋ねようという気力を失っていた。
「……不味いわね」
ツンはポチの顎の下を掻きながら、思考する。
(人間的に問題があることはわかっていたけど、まさかこんなところで二人が躓くことになるだなんて……ちょっと難しいことはアタシとリキが手続きをしていたことが仇になるなんて!!)
「シフ……これはもう追放よ!!」
「えっ」
「そもそもアタシとリキがアンタを甘やかしすぎてた……せめて、仕事ぐらいは自分で取ってこれるようにならないと不味いわよ!!だから、冒険者ギルドの人に一人で話しかけられるようになるまでパーティーには戻らせないからね!!」
「えぇ~将来的に戻ろうと思った時に困るなぁ」
「レイヴ、アンタもよ!!アンタも勇気を振り絞ってきなさい!!」
「そうですね……僕もチャラ・オーさんを讃える会の会長として会員に恥ずかしい姿は見せられないですからね……」
「なにそれ」
「グルル……心底関わりたくないな……」
レイヴの純粋なる瞳に勇気の炎が灯る、何もかもをも燃やし尽くす青色の炎だ。
ツンとポチは奇妙な熱を感じて後ずさった。
「じゃあ、私達は行くからね、リキでもゴウマさんでも誰に手伝ってもらってもいいけど、ちゃんと話しかけるのは一人でやるのよ、レイヴくんに付き添わせるのだって入り口まで!!」
「ぴぇー」
「嘘泣きしてもダメ!じゃあね!!」
リキの姿を見つけたツンとポチはシフ達から離れていく。
人混みの中でシフとレイヴは二人きりで取り残されたのである。
「ということですが、シフさん」
「……確かにツンちゃんの言うことは正論だね」
「ええ、そうです!頑張りましょう!!」
「……とりあえず、今日はノミオスの酒場に戻って作戦会議だよ!!」
「えっ」
「いきなり言われても無理なものは無理……そう思うでしょレイヴ君も!?」
「なるほど」
「今日は冒険者ギルドの前まで来たということで、明日からちょっとずつ距離を詰めていこうね!!」
「……それで大丈夫なんでしょうか」
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