突入!滅び大好き世界破滅神教(下)

***


 滅び大好き世界破滅神教の教会が、ごうごうと音を立てて燃えていた。

 信徒たちの悲鳴をBGMに盗賊シフと勇者レイヴは燃え落ちていく教会を見上げる。

「……やらかしたね」

 パンパンに詰まった金貨の袋を抱えたシフが呆然と呟く。

「……悲しいことです」

 同じくパンパンに詰まった金貨の袋を抱えたレイヴが心底申し訳無さげに呟く。

 袋の中に詰め込みきれなかった金貨が、二人の足元で炎の輝きを照り返す。

 信徒が泣き叫ぶ。

 魔道士達が水を放つ。

 野次馬の一人がシフの足元の金貨を掠め取ろうとする。

「コラッ!」

「ヘヘッ、すいやせん……」

 シフに睨め上げられて、野次馬がすごすごと引き下がる。

 一方で、その様子を見た別の野次馬がシフ達に声を掛けた。


「なぁ、姉ちゃん達……アンタらそこの金貨、邪教からパクってきたのか?」

「そうだけど」

「まだ、残ってっかなぁ……」

「この炎の中ですから、やめたほうが良いと思いますが」

「でもなァ……俺、アレなんだよね。借金あんだよね」

 男の瞳は炎を反射して、きらきらと輝いて見えた。

 まるで財宝の山を目の前にしているかのように。


「落ちてる宝を拾うだけで借金で悩む必要が無くなるんだよなぁ……」

「えー……多分、死んじゃうよ?」

「知ってるかい嬢ちゃん?死んだら死んだで借金で悩む必要が無くなるんだぜ!?」

 言うが早いか、その瞬間男は燃える教会の中に飛び込んでいった。

 それに釣られるように、野次馬数人が炎の中に入り込んでいく。


「……クソ!何故だ!何故こうなってしまった!?」

 燃え落ちる教会を前に、滅び大好き世界破滅神教開祖の男は腹ばいになって、地面を何度も叩いた。その様は五体投地のようでもあった。


「やっちゃったねぇ……」


 なにゆえ、このような事態になってしまったのか。

 それは次回説明するとして、今回はポチの散歩の様子を説明する。


***

「ウウォーン!!」

 太陽が山から顔を出す頃、暗黒冥炎獣ヘルデスケルベロスのポチがツンの部屋に入り込んで、高らかな雄叫びを上げる。

「ん、んん……?」

 寝ぼけ眼のツンの右手はポチを探して彷徨う。

 ポチはツンが起きたと判断するまで遠吠えを続けるので、早めに止めなければならない。

 ぽん、とツンの右手が柔らかい感触を捉える。ポチの背中だ。

 ツンの手に触れられたポチは吠えるのを止め、リードの持ち手をツンに差し出した。

「哀れなる人間よ……我と共に歩む名誉をくれてやろう……」

「散歩の時間ね……」


 暗黒冥炎獣デスヘルケルベロスのポチが一番に目覚め、二番目はポチに起こされるツンだ。では、戦士のリキが惰眠を貪れるかといえばそうではない。

 それから程なくして目覚め、良い仕事を求めて冒険者ギルドに行くこととなる。

 冒険者の朝は早い。シフはそうではないので、かなり遅い。


 10分ほど、ポチが自分の尻尾を追い求めてくるくるとその場を走り回っている間に、ツンが限りなくシンプルに身支度を整える。

 どうせ、探索なり戦闘なりを行うことにはなるが、他の人間と会うことは避けられないので最低限のことはする。


「じゃ、行くわよ」

「グルル……よかろう……」

 散歩のコースは基本的にポチが決めるので、ルートはその日によって異なる。

 ただし、飲食店の前で足を止めようとすることが多々あるので、その際はツンが引っ張ってでもその場から動かす。

 

「香ばしいパンの匂いだ……喜ぶがいい、ツン……店主は我のために腕を上げたようだな……!!」

「行くわよ!」

「肉屋のマシューめ……なんだこの食欲を誘う香りは……!肉だけではないぞ!なんだこれは!?ツン!」

「行くわよ!!」

「グルル……!!グウォー!グウォー!」

「行くわよ!!!」

 

 食料品の蟻地獄を抜け、しばらく走っていると広間に辿り着く。

 コースがこのようになった場合は他の飼い主と会うことも多く、ツンは身支度を怠らない自らの判断に心の中でうんうんと頷く。


「あらー、ツンちゃんとポチちゃん、こんにちは」

「こんにちは」

 白くふわふわとした犬を連れた婦人である。

 犬の方は何がおかしいのか、常に笑みを浮かべたような顔をしているが、リキの言うところによれば、そういう犬種らしい。

 

「わー犬だー!」

「でっけー!」

「姉ちゃん、こいつ触っていい?」

「いいわよー」

「噛まない?」

「グルル……噛み殺してくれるわ!!」

「噛まないわよ」


 集まってきた子どもたちに白いふわふわの犬とポチが撫で回されている一方で、ツンは婦人と雑談を始める。

 しまいにはごろりと転がされて肉球をふにふにと押されるポチであったが、憮然とした表情でそれを受け入れていた。


「じゃあなーポチー」

「ありがとー姉ちゃんー」

「グルル……この代償は高く付くぞ……!!」

「じゃ、ツンちゃん、私達もここらへんにしましょうか」

「そうですね」


 飽きた子どもが走り去り、ツンと婦人も別の方向に向けて歩き出す。

 目的地は自宅ではない、冒険者ギルドの前だ。

 そろそろ、リキが今日の仕事を取って冒険者ギルドの入り口のあたりで待っていることだろう。


「んー!今日はなんかいい日になりそう……だなんて思ってないんだからね!!」

「クク……我に多めの贄を与えれば良い日になるぞ」

「アハハ、バッカじゃないの?」


 滅び大好き世界破滅神教炎上前日のことであった。

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