結成!新たなるパーティー!

「とりあえず掲示板でメン募(新規パーティーメンバー募集)しようと思うんだ」

「ケヒヒ……無駄足を踏んでいたようだが、迂回路で前進したようだなァ?」

 朝のノミオスの酒場も、冒険者による賑やかな喧騒に満ちている。

 テーブル席は全て埋まっており、カウンターにも新規の客を受け入れる余地はない。

 足を止めることなく、走り続ける給仕が冒険者の酒欲を満たしていく。

 冒険者は週末に休日を取ることが多いが、結局決めるのは冒険者次第である。

 そのため、タイミングが重なれば平日ど真ん中でも休日の賑わいをみせるのだ。

 ゆえに、タイミングが重なれば追放されし冒険者無職である盗賊のシフと、武道家24時間戦えるゴウマが同じ席で酒を飲み交わすこともある。

「とりあえず、掲示板に出す紙を用意したから、これを見てほしいんだよね」

「いいぜェ、お前の無駄なあがきを見てやろうじゃねぇか?エェッ!?」

 冒険者が掲示板と言う時、大抵は冒険者ギルドの冒険者用掲示板のことを指す。

 冒険者ならば無料で利用することができ、掲示内容もパーティーメンバーの募集からモンスターの弱点に夜の店の情報、マジックアイテムの売買など多岐にわたる。

 その掲示板に、シフがパーテォーメンバーの張り紙を出そうというのである。


「まぁ、こんな感じなんだけど」


【メン募】

 当方、盗賊(13)(絶賛追放中)

 全パート募集中。

 かなり強いです。

 お金の管理が好きです。

 作曲出来ませんが、作詞出来ます。


「かなり良くないかな?」

「おいおい、こんなんで新しいパーティーメンバーを探すつもりか、笑わせるぜ!シフさんよォ!?ちょっと、一点ずつ悪いとこ言ってくから直していこうな」

「うす」

 ゴウマがメガネを掛け、羽ペンの先をぺろりと舐めた。

 血の如き赤いインクは容赦なく、シフの用意した張り紙に向かう。


「とりあえず(13)と(絶賛追放中)はいらねぇなァ!」

「えぇ~!?なんで!?若いほうがいいし、追放はアピールポイントじゃん」

「ケヒヒ……盗賊さんは見通しが甘すぎてございますねェ!?追放食らうやつの世間的な評価は最悪ゥ!追放を武器にするのは新しい仲間が信頼出来るとわかった時に、元パーティーに対するヘイトを高める時だぜェ!」

「どういうこと?」

「こんな良い奴を追放するだなんて……元パーティーの奴らは許せねぇ!!で一致団結出来るし、お前は同情を買えるだろ?」

「なるほどぉ、流石ゴウマ君だね」

「ケヒヒィ……年齢に関しても、実際に会ってからの開示で良いだろうぜェ?若い冒険者と組もうと考える人間が少ないが、優秀な冒険者が若いとわかったら、愉快なことになるだろうからなァ!」

「情報は開示のタイミングが重要なんだなぁ」

「そういうことだァ……ケヒヒ……良いところに気づいたなァ!」

下卑た笑みを浮かべたゴウマが、軽やかにペンを走らせる。

「全パート募集中」、「かなり強いです」に鋭い赤線が引かれた。

「確かに盗賊一人である以上、全パート募集中というのは間違っていない……だが、そのあまりにも受け身な姿勢は地雷もいいとこなんだよなァ!?」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「決まってんだろォ!?何が出来るかを書くんだよォ!シフちゃんよォ!盗賊なら迷宮探索ならどのタイミングでも活躍するし、ケヒィ……戦闘面でも誰とでも組めるよなァ!全パート募集はどんなパーティーでも大丈夫ですと言い換えられるようにすることだな」

「なるほどー、アタシ結構スゴイなー」

「ケヒヒ……日頃の努力が実をつけておめでたい野郎だぜ」

「『かなり強いです』はあやふやだから消したってわけだね」

「そういうことだ、シフちゃんよォ……身の程が理解できたみてぇじゃねぇか」

 舌なめずりしながら、ゴウマが「お金の管理が好きです」に赤線を引く。


「怖いなァ……?エェッ!金の管理が好きな盗賊っていうのは何考えてるかわからなくて怖くてしょうがねぇぜ……」

「でもアタシが皆のお金を管理すれば、アタシの使える金は倍になるわけじゃん」

「ケヒヒ……今度シフちゃんにはいいものをたっぷりくれてやるよォ……」

 ゴウマが道徳の教科書に思案を巡らせる一方で、シフが修正後の文章に思いを巡らせる。


「まァ、こんなところだろう……」

「作曲出来ませんが、作詞出来ますは?」

「作曲出来る人間に巡り会えるといいなァ」

「うん!」

「ケヒヒ……まァ、色々言ったが自分と組むとこんないいことがありますよ!っていうのをアピールすることが大事だぜェ……わかるかァ?」

「わかったよ!ありがとねゴウマくん!アタシ家に帰って張り紙書き直してみるね!!」

「忙しい野郎だぜ」

 シフが風のように店内を去っていく。

 残されたものは酒場の賑わいと、シフの分の支払いだけだ。

 伝票を握りしめ、ゴウマが笑う。

 下卑た笑い声は酒場の賑わいの中に溶けていった。


***

 翌日、ノミオスの酒場。

 「盗賊シフ」の旗を掲げたテーブルにシフは一人座る。

 冒険者ギルドに料金を支払えば仲間募集の際の仲介を行ってくれるが、掲示板のみで仲間を募集する場合、興味のある人間、この日、この場所に集まれという形を取ることが少なくはない。

  

「さーて、誰か来るかなー?」

 メン募の張り紙は会心の出来であった。

 

【メン募】

 当方、盗賊(美少女)

 非戦闘時は解錠、罠の解除、隠し通路の発見と、"目"か"器用さ"が求められることが大体できます。

 戦闘時も盗賊の器用さと隙を見抜く能力で、攻撃もサポートも全部できます。

 なので誰とでも組めるので、非常に良いです。

 あと魚釣りが上手なので美味しい魚が食べられます。

 作曲出来ませんが、作詞出来ます。

 よろしくおねがいします。


「アタシの仲間になりたい人間が群れをなして来てしまうなぁ……」

「おい……」

「はいはーい」

 低く吠えるような声がした。

 振り返ると誰もいない、否、その声は下から聞こえたのである。


「矮小なる人間よ……」

「ポチじゃん」

 シフの足元で激しく尻尾を振るのは、金色の毛並みを持つ暗黒冥炎獣デスヘルケルベロスのポチであった。


「美味しい魚が食えると聞いてやって来たぞ……」

「そういう意図じゃないんだよなぁ……」

 ポチの顔全体をワシャワシャと撫でながら、シフが言った。

 しばらく、そうして待っていた。

 賑やかな喧騒の中、シフのテーブルだけが静かだった。

 仲間が来る気配はない。


「あぁ……なんだ、誰も来ないなぁ」

 ポチを撫でながら、諦めたように呟く。

 賑やかな喧騒の中に、シフはただ一人取り残されている。

 たまに真面目にやってみたのだから、後悔してしまいそうになる。


「グルル……パーティーに戻ればいいだろう、矮小なる人間よ……」

「別に、そっちで全然良いんだけどね」

 リキ達との冒険は居心地が良い。

 それでも、シフには試してみたいことがあった。


 刻々と時間が過ぎ去っていく中、酒場の扉が勢いよく開いた。

 外の明かりと暖かい風と一緒に、一目散にシフのテーブルに誰かが向かってくる。


「シフさんですか?メンバー募集を出していた」

「もしかして……」

「勇者のレイヴと言います」

 後悔するには、まだ早い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る