第10話 すれ違いと騎士
パーティーが無事に終わり次の日。デュランはエレンとフレディが2人で話したことが気になっていたので何となく聞いてみた。すると騎士を戻す代わりに公爵と一緒になることを求められたと聞き愕然とする。しかしデュランは
「エレンは騎士を元に戻してやりたいんだろ?いいんじゃないか?公爵様の方が俺よりエレンに相応しいだろうし…」
自分の本心とは全く真逆のことを言っているのは分かっている。しかしヴァンパイアである自分が誰かと心を通わせてしまうことの怖さ、それに公爵家に居た方がエレンの過去が分かるかもしれないという思いから、そんなことを言ってしまったのだ。それを聞いてエレンは少し怒ったように
「相応しい…って何!?」
と聞き返す。デュランは昔のように
「相応しいっていうのは、その人と似合っているとか釣り合ってるとか、そういう…」
「そうじゃなくて!!」
「あぁ、ごめん…」
もちろんエレンは言葉自体の意味を聞いた訳ではなかった。何だか昔のやり取りが愛おしくなるデュラン。また気まずい空気が流れる。沈黙を破ってエレンが静かに
「デュランは…好きな人がいるの?」
と聞いてきた。デュランは
「あ?何でそんな…?」
と言いかけてケイティとわざと仲良さげにしていたことを思い出す。その理由を言うわけにもいかないので
「別に…そんなことは…」
と何とも歯切れ悪く返すデュラン。エレンは
「そっか…。私がいると迷惑かけちゃうよね。どこの誰かとも分からない女性と暮らしてるなんて…」
泣きそうになりながら言う。デュランは
「そんなわけないだろ!」
と言うが昨日の考えが頭をよぎり黙ってしまう。そんなデュランを見てエレンは(早く自分にこの家を出て行って欲しいとデュランは思っているのかもしれない)…と考え悲しくなり
「ごめんね。今まで甘えちゃって…私、デュランのことを本当は…」
そこまで言うといたたまれなくなりエレンは泣きながら家を飛び出す。エレンが走っていく様子を目撃するアイザック。
「エレン!!」
と言って飛び出してきたが呆然とするデュランにアイザックは
「何があったんだよ?」
と聞く。昨日のことや自分の気持ちをザっと説明すると
「バカ!お前やエレンが何者かなんて関係ないだろ!惚れてる女が泣いてるのに今抱きしめなくてどうすんだよ!?それ以上に大切なことなんてあるか!?」
アイザックはデュランの胸ぐらを掴みながら叱咤する。やりきれない顔をしていたデュランだがアイザックの言葉を聞いてハッとするとエレンを追いかけて行った。
「ったく…それに今のエレンが1人で街にでも行ったら大変だろうが…」
アイザックは頭を掻きながら呟いた。
***
街に入り走るのを緩めるエレン。1人で街を進む姿に人々は驚く。街に来るときは必ずデュランと一緒にいたのだ。しばらくすると走るのを止め、とぼとぼ当てもなく歩く。するとエレンに4人の男が話かける。
「あれぇ?エレンちゃん1人?いつものあいつはどうしたんだよ?」
エレンは後ろに下がりながら警戒するが
「何?泣いてるの?ケンカでもした?じゃあ俺たちと一緒に行こうぜ」
ニヤッと笑いながら言う男に背筋がゾッとし逃げようとするが男に手を掴まれる。(助けて!)と目を瞑るエレン。そのとき
「おい!その手を離せ!!」
と低い声が聞こえ男たちが倒されていく。男たちは圧倒的な強さに怯み逃げて行った。
(デュラン!)
安堵と喜びで顔をあげるとそこに居たのは、朧げに覚えているあの時の騎士だった。
20代後半。爽やかな青い髪のイケメンだった。
「お怪我はありませんか?エレン様?」
「あの時の騎士様…。助けて下さりありがとうございます」
「いえ、とんでもございません。私はバートと申します。エレン様にずっとお詫びしなければならないと…」
「そのことでしたら本当にもう大丈夫です。それより公爵様のところをお辞めになったというのは本当ですか?ごめんなさい…私のせいで」
出会った時と別人のようなエレンに驚くバート。
「エレン様が謝ることではございません。自分の未熟さが招いたことですから…」
「でも本当は騎士を続けたいのではないですか?」
「それは…」
「私と一緒に来て下さい!」
そういうとエレンはフレディの元に向かった。
***
エレンとバートは屋敷に着き部屋に通される。フレディは2人を見て驚いていた。
「御人払いを…」
エレンが静かに言うとフレディも頷き答えた。
「エレン。君から私のところに訪ねてきてくれるなんて驚いたよ。しかもバートと一緒とは…元気だったか?バート」
「はい。ご無沙汰しております」
「私が街で困っているところをバート様が助けて下さいました。フレディ様。バート様を騎士に戻していただくことは出来ませんか?お2人が私の傷を気にしていらっしゃるようですが、そのことは問題ありません。ぜひご自身の目でご覧ください」
そういうと、おもむろにエレンは胸のリボンをほどきボタンを外しだす。
「エレン!何を?」
戸惑うフレディとバートを無視しエレンは胸のところの服を引っ張りながら傷が残っているはずの場所を露わにする。フレディとバートは顔を赤くして目を逸らしていたがエレンに促され確認する。すると本当に何の傷跡もなく、とても綺麗な肌だった。
「納得していただけましたか?」
「ああ。納得したよ。それより…その服を元に…」
と言われ今度はエレンが顔を赤くし慌てて戻す。そして
「私に傷がない以上バート様が責めを負う必要はないはずです。バート様は無礼な少女からフレディ様を守ろうとした立派な騎士です。ですから、どうか…」
「分かった。エレン、ありがとう。もちろんバートがそう望むなら…」
フレディはバートを見る。バートは片膝をつき右手を胸の前におく。
「フレディ様をこの身に代えてもお守りします」
「ありがとう。明日までに必要な手続きは済ませておく。今日はもう下がっていい」
「はい。エレン様。何とお礼を申し上げてよいか…」
「どうかお気になさらずに」
ニコッと笑うエレン。天使のような微笑みに感動するバートは深々と頭を下げ部屋を後にした。
「バートは小さい頃から剣を教わったり守ってきてもらって兄のような存在でもあったんだ…だから、ありがとう。エレン」
微笑むフレディにエレンも返す。
「参ったな…バートを騎士に戻す代わりに私と一緒になってとお願いしようと思っていたのに、やはり回りくどいことはよくないな」
というとフレディはエレンの手を取り真剣な顔で話す。
「出会った頃の君も今の君も、私にとって大切な存在なんだ。これからずっと私の傍に居て欲しい。エレン…愛してる」
『愛してる』この言葉を聞いてエレンはようやく気付く。本当はどうしたいかを…
「その言葉を贈る人は既に決めております。生涯にただ1人と。フレディ様のお気持ちに応えることは出来ません…ごめんなさい」
分かっていたことだった。フレディは短く溜め息を吐き悲し気に微笑んだ。そしてエレンの手を離し
「噂をすれば…ほら、迎えに来たようだよ」
と扉の方を見ながら言うフレディ。案内されてきたのはデュランだった。デュランはあのあと街で聞き込みをし公爵家に来ていたのだった。フレディに挨拶するとデュランはエレンの前に来て静かに見つめた。少しバツが悪そうに
「エレン…ごめんな」
と謝る。そしてエレンの手を取ると
「一緒に帰ろう」
と微笑んだ。するとエレンはギュッとデュランを抱きしめる。ちょっと動揺するデュランだったが、そっと抱きしめ返した。
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