第8話 チュートリアルダンジョン第1層 その3

「仕方ない、システム面でのあれこれはまた今度確認しようかな。」

「その案にはナビも大々的に賛成するのです!」


当初の予定では数日かけて入念にダンジョン調査を行う予定だったが、時間制限ができてしまったことで今回は育ち盛りの子供よろしく晩御飯前には帰ることにする。

死に戻って食料を取ってくることも考えたが、せっかくのダンジョン初突入アタックを死に戻りで消費してしまうのはなんか違うよね。ナビちゃんも僕の方針に賛成してくれているみたいなので、今回はこのまま進むとしよう。



さて、そうなるといよいよダンジョン攻略に踏み出さないといけない。その前にこのフロアで得ておくべき情報はもう無いか、おさらいも兼ねてフロア内を見回す。


フロアは両手を広げても余裕があり、歩数から換算すると凡そ10m×10m四方はありそうだ。天井はそれ以上に高いようにも見える。モンスターと戦う空間としては十分、と言ったところだろうか。十分過ぎるので、きっと集団戦とかもあるんだろうなあ。


明かりは足りていると言うほど明るくはないが、急がなければ転ばない程度には十分な光度を保っている。ランプが設置されているわけでもないのにどうやって光度を保っているんだろうね。次回確認することとして心のメモ帳に記しておく。

とは言え、ダンジョン内なのでどれほどの光度があろうとも先行きまでは明るくならない。


それに『急がなければ転ばない』と言うことは『急ぐと転ぶかもしれない』と言うことであり、その要因として光度以外に『整地されていないせいで、ボコッと浮き出た地面に足を取られそうになる』と言うのがある。

...いや、確かに洞窟内の地面が完璧に整地されていたら、それこそ不自然ではあるけども。でも、そこは現実的にするよりゲームらしくして良かったんじゃないかと思うんですよ。実際に壁面がそうなっているわけだし。今こそ『魔法的』を発揮しろと言いたい。


そのダンジョン壁面はと言うとゴツゴツとした自然的な岩肌ではあるものの、そもそも天地に対して直角に寸断されている時点でむしろ超自然的である。

触れてみると見た目以上の頑丈さだ。そういえば壁面を掘り進めることは出来ないのだろうか?あ、そう。特殊な工具がないと出来ない、と。...そのうちその特殊な工具を手に入れたいところですねえ。



ちなみに、これらを調べる過程でナビちゃんからは『何時までもなにやってんだコイツ』みたいな視線を頂戴することになった。

ナビちゃんの態度は出会った当初から比べると大幅に軟化している。いや、これは軟化と言って良いのか?むしろ難化か?フレンドリーになったと思ったらフレンドリーファイアが飛んできている感じである。僕がその手の反応をご褒美と受け取れる熟練者だったらどうしてくれるんだ。

尚、この湧き上がるゾクゾク感はダンジョンアタック中だからである。



この他に目を惹かれる物はなく、これ以外にある物と言えばフロアから伸びる一本道ぐらいで。そこを進めということなのだろう。

このフロアでの確認も片付いたので一本道へと向かっていると、ナビちゃんから声をかけられた。


「階層1フロア目は基本的にモンスター不可侵領域ですが、フロアとフロアを繋ぐ通路に出たらモンスターが徘徊していることもあるのです!」

「モンスターはフロアから出てくることができないとか、そういうのではないんだね。 分かった。」


つまり、この1歩から先は安全が保証されなくなるわけだ。いいね、ゾクゾクしてくる。





通路は横幅2m程だろうか。天井はその倍はありそうなので問題なさそうだけど、戦闘時には立ち回りに注意しないと壁面にぶつかってしまいそうだ。


幸いなことに今回はモンスターと遭遇することもなければ曲がり角もなく、数分通路を直進するだけで次のフロアへと辿り着いた。実際は数分もかかる距離ではなかったのだが、モンスターがどのように出現するのか掴めないうちはどうしても時間がかかってしまう。


フロア内部をチラッと覗き見るが、モンスターらしき生物は見当たらない。

しかし、何も無かったのかと言うとそうでもなく。


「あれって宝箱だよね。」

「宝箱ですね!」


それほど豪華そうではないが、しっかりと蓋がされている木製の宝箱がフロア中央に設置されていたのだ。


見るからに宝箱と呼べる代物ではあるが、それを見ても僕のテンションはあまり上がらない。いや、だって...ねぇ?これまでリアリティを追求してきたゲームが、こんなあからさまに宝箱を設置するだろうか?

これ大丈夫?罠だったりしない?チラリとナビちゃんの反応を盗み見るが、さすがに表情からはなにも読み取れない。

なんで大事な時に限って顔色が分からないんだよ!と思わなくもないが、そういうのはビジュアルノベルゲームではよくある事である。それに、分からないなら素直に聞いてみればいいんだ。


「ナビちゃん、宝箱に罠が設置されていることってある?」

「そういうこともあるですが、この宝箱には罠はないのですよ?」

「...へぇ、そうなんだ?」


これまでのアドバイスや性格から判断するに、ここのダンジョンに存在しない事柄にはナビちゃんはキッパリ『ない』と断言する傾向にあるように思う。

その上で『そういうこともある』と言うのであれば、この先の宝箱には罠が設置されていることもあるのだろう。このダンジョンがチュートリアルであることを考えれば一通りの経験を積ませる観点から見ても、そう間違えではないはず。


それなのに、ナビちゃんはこの宝箱には罠は『ない』と断言したと言うことは...そうか。


「もしかして、この宝箱って必ずここに置かれていたりする? 」

「えっ! ...よく分かったですね?」


これで合点がいった。この宝箱は恐らく、ダンジョン突入ログインボーナスみたいなものなのだろう。それはありがたい。ところで勿論、連続突入ログインボーナスも用意してあるよね?



モンスターが居ないことを再度確認してからフロアに入り、宝箱に手をかけ...そこで一時停止。この宝箱に罠が無いことは分かった。だが、しかし。

果たしてこのまま素直に宝箱を開けても良いのだろうか?


「? プレイヤーさん、宝箱開けないです??」

「いや、開けるけど...ちなみに、『宝箱を開けて中身を取り出すと宝箱が消える』とか、そういう仕様はない?」


現実的に考えるとおかしいことではあるのだが、RPGでは役目を終えた宝箱が消えるのはよくある事だ。だが、それだと僕は困る。


「?? 宝箱を開けても宝箱は消えたりしないですけど? って、まさか...。」

「よし、それならこの宝箱も頂いて行こう。」


そこそこ頑丈そうな木製の宝箱なんだから、なにかに使える事もあるだろう。どれほど重い物でもアイテム欄に入れてしまえば邪魔になることはないしね。

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