第5話 チュートリアルダンジョン準備 その2

side Navi


戦々恐々とすることもところによりありましたがそれもなんとか回避でき、気を引き締め直してチュートリアルを再開します。

プレイヤーさんが話のわかるプレイヤーさんで本当に良かったのです。でも、このプレイヤーさんが相手じゃなければそもそもこれほど心臓に悪い思いもしなかったですね...。


「ダンジョン内にアイテムを持ち込む際にはそのアイテムの使用条件にも気をつけて下さいです。 アトランダム・ダンジョンに入るとプレイヤーさんはスキル未習得、レベルも1の状態まで下がりますので。」


特に装備品でよくあることなのですが、今日こんにちまで自身のキャラクターを育成されてきたプレイヤーさんの装備は、それを使用するのに『一定以上の〇〇値が必要』等の装備条件が設定されているものがほとんどなのです。

今までは余程のことでも無ければ一度装備できるようになった装備品の使用条件を下回る状態になんてなることはありませんでしたが...アトランダム・ダンジョンでは突入時にレベルが1まで下がります。


そうすると必然的にそれまで使用できていた装備品のほとんどが装備できなくなってしまうのです!

装備できない装備品なんてダンジョンに持ち込んでもアイテム欄を圧迫するだけのまさにお荷物状態。それでいてダンジョン内で倒されてしまえば、それらまでロストしてしまうのだから目も当てられません。


「今回は全部預けるので大丈夫です。 それに僕、元々レベル1だしね。」


プレイヤーさんはそう言うと、言葉通り全所持アイテムを木箱に預けてしまいました。それによりプレイヤーさんの服装も新米冒険者が着る一般的な格好から、簡素なシャツ&ズボン姿に変化しています。少なくとも、これからダンジョンに向かう格好ではないですね...。


いくらなんでも全部預けてしまうのは.....慎重過ぎるのではないです?私にとってもこれが念願の初冒険なのですから...私、もっと冒険したいです!!


「あのぅ...チュートリアルダンジョンは難易度低めなので、よっぽどのことでもない限り倒されたりしないのですよ...?」

「うん、それは分かっているんだけど...念の為にね。」

「はぁ、分かりました...。 それじゃあ改めまして、これでダンジョンに突入アタックする準備はできましたね!!」


試しにアドバイスを送ってみましたが、どうにも説得するのは難しそうなのです。残念ですけども、それなら仕方がありません。

ともあれ、いよいよダンジョン突入アタックです!ここまでくるのに思っていた以上の(心臓に悪い)時間がかかりましたが、ここから私とプレイヤーさんの冒険は始まるのです!!!







「.....え? いやいや、ちょっと待ってね。」


なんでですかッ!?

いや、なんとなく来るんじゃないかなぁとは思っていましたけどもぉ!!こんな何も無いところでまだなにかやることあるんです????


それらが言葉に出そうになったところを寸前で口を閉ざし、気持ちを落ち着かせたのですが...私の顔を見て、プレイヤーさんはポカーンとしていました。

なんだろう、なにか不思議な物を見たかのような表情で...え、あ、あれ?そういえば私、さっきはどんな表情をしていたのです???

どうやらサポートフェアリーが『我を忘れる』なんて珍しい体験をしてしまったみたいなのです。出来ればもう味わいたくないですぅ...。




私同様に暫く停止フリーズしていたプレイヤーさんでしたが、互いに気を取り直すとダンジョン壁面へと向き合う形に移動しました。

なにも無かったかのようにそっとしておいてもらえたのはありがたいですけど、壁面なんて見つめてどうするのでしょう。なにも得るものなんてないと思うのですけど、と怪訝に思いますがこのヘンテコプレイヤーさんなら『そういうこともあるのかな』で納得出来てしまいます。

ただ.....私の想像はまだまだ甘かったみたいです。



ガツンッ!!!


「...えっ?」


プレイヤーさんがなにを行ったのか、私は全てを見ていました。しかし、それを脳が処理しきれません。なぜ?どうして?なんのために...???『脳がパンクする』とはこのような時に使う言葉なんだなぁ、と私は1つ学習しました。こんなことで知りたくなかったのですぅ...。



そう。プレイヤーさんは.....唐突に壁面へと頭突きをし始めたのです。


「うん...減るな。」

「な、な、な、なにをしているんです!? 死にたいんですかッ!!」


意味が分かりません!本当になにやってるんですかプレイヤーさんッ!?


「あ、そうそう。 このエリアで死ねるのかなって。」

「!?!?」


ええぇ...?プレイヤーさん、なんでこんなところで死のうとしてるの???


「でも一応、本当に死ぬつもりはなかったんだよ? 死ねるってことが分かれば、あとは妖精さんにここで死んだらどうなるか聞けるんじゃないかなって思っていたから...でもほら、『サポート範囲はこのチュートリアルダンジョン内のことだけ』って言ってたから、ここってもうダンジョン内と言っていいのか微妙でしょ? 答えてもらえるか分からなくて。」

「ちなみに、それでもし私が答えられなかった場合は...?」

「そのときは、うん。 実際に死んでみるしかないよね。」


ひぇっ...!?

このプレイヤーさん...色々と大丈夫なのです?死ぬことに対する抵抗感というか、躊躇いが無さすぎるのではないです???


「死ななくて結構なのです!! そもそも、聞いてくださればそれぐらいお答えできるですよッ!?」

「そう? でもほら、まだ街中にいる判定で死ねないとかだったら聞くだけ野暮じゃん? 死ねるのを確認してからでいいかなって思ったんだ。」


PvP(プレイヤー同士の対決)機能をoffにしているプレイヤーさんは余程のことがない限り、街中で死ぬことはありませんが...いやいやいや、そういう事ではないです!


「いきなり頭突きし始める人が野暮を語りますっ!?」

「アハハハ! それもそうだ。 びっくりさせてごめんね。 それで、ここで死んだ場合は復活はそこの魔法陣からになるの? それと、木箱のアイテムと所持アイテムはロストする? デスペナは?」

「え...えっ!? ちょ、ちょっとお待ちを...!」


うわぁ!なんですか、そのすっごい微妙な質問!?

ど、どうなるのです?さすがにそこまでヘンテコな質問はマニュアルに書いてありません。それはそうでしょう、このマニュアルは一般的な内容に対する対処法を記したもので、ここまで突飛な質問が飛んでくることは想定外のはずです。やっぱり、このプレイヤーさん普通じゃないよぉ!助けて、統括AIさん!


私の手に余る状況でしたので、最終手段、統括AIさんへと連絡を取ります。あ、統括AIさん!お忙しいところお手数お掛けしますが、これこれこういう質問をプレイヤーさんより受け取りまして...ほむほむほむ、へーへーへー、ですですで...え???


「...お待たせしました。 えっと、ここはダンジョン内ではないですけども一部ダンジョン内と同処理がなされるみたいで...復活はそこの魔法陣からなのですが、木箱のアイテムも所持アイテムもロストすることはないみたいです。デスペナルティは...適用されません。」

「へえ.......じゃあもしかして、死に放題? これは案外、使い道がありそうだなあ。」

「ひぇっ!?」


ワールド・アトランダムではプレイヤーさんが死亡するとデスペナルティとして『一定時間ステータス減少』の解除不能デバフを受けます。その状態でさらに死亡するとステータス減少量とペナルティ時間が増大していく為、所謂ゾンビプレイは行うことが出来なくなっています。

しかし、そう。アトランダム・ダンジョン内ではデスペナルティの内容がこれとは異なっているのです。


一般的なフィールドより死にやすいアトランダム・ダンジョン内でのデスペナルティは『所持アイテムの全消失』のみ。死ぬたびにステータスにデバフを設定してしまうと、ダンジョン再突入が困難になってしまうからです。



つまりこの空間はアイテムをなんでも持ち込める通常エリアでありながら、デスペナルティの存在しない唯一の抜け穴と言っていいのです。


そっか、このプレイヤーさんは違うのですね...。

冒険したくないから、慎重さを優先してアイテムを全て預けたんじゃない。むしろその逆で.....気軽に死ねるように荷物を預けているんだ!?


私が相対しているのは活きのいいゾンビかなんかです?死ぬたびに魔法陣から蘇る姿とセットにすると、完全にヤバめの儀式にしか見えないのですぅ...。

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