第4話 チュートリアルダンジョン準備 その1

チュートリアルを行ってもらうにあたり、一般的な操作方法は直感的に行えているし、他のゲームとあまり変わらないみたいだったので割愛してもらうことにした。事細かく説明してもらっていてはそれだけで時間がなくなってしまう。分からないことが出てきたらその時に教えて貰えばいい。ダンジョン内でもアドバイスはもらえるみたいだしね。

そのことを妖精さんに伝えたところ、再び『しょんぼり』顔をされてしまった。なぜだ。手間を省いてあげたつもりだったのに。


ただ、声に出さなくても頭の中で意識するだけでスキルやシステムウィンドウを使えるのは最初に聞けて良かった。これをいちいち声に出すのはちょっと恥ずかしさがあったからね。

いや、中には技名を声に出して使うことが売りのゲームなんかもあるんだよ。言い終わらないと技が発動しないし、技名でこれから繰り出す行動がバレてしまうので良いところなんてひとつも無いのだが...魅せプレイとしては人気があるからなあ。全てが噛み合ったときには全身が鳥肌物なんだとか。


「それでは改めまして、ここからが本命であるダンジョンのご説明ですね! 既にご存知かもしれませんが、アトランダム・ダンジョンは攻略失敗=所持アイテム全消失ロストとなる、危険度の高いダンジョンなのです。 シフォンのダンジョンはチュートリアルなのでそれほど難易度が高いわけではありませんが、それでも油断は禁物です!」

「なるほど。 ところで確認したいんだけど...この空間ってもうアトランダム・ダンジョン内なの?」


妖精さんが意気揚々と話し始めた腰を折るようで申し訳ないが、僕は先程から気になっていたところを質問してみる事にした。

ここは間違いなく、通常のエリアとは異なる。なにせ、それまでは遠くの喧騒も自然な形で微かに耳に入っていたものが、このフロアに入った途端パッタリと聞こえなくなってしまったのだ。今では完全に僕だけの空間になっている。


「.....いえ、まだここはダンジョン内ではないですね!」


妖精さんは満面の笑みと共に答えてくれたが、気持ちよさそうに説明していたところを遮られたことで一瞬、『もんにょり』とした表情を浮かべていたのを僕は見てしまった。

すごいな、最近のゲームではこんな複雑な表情まで再現できるようになったのか。案外、この妖精さんは僕より表情豊かなのかもしれない。


「でも、もう通常のエリアとは違うよね? 僕専用のエリアだと思うんだけど。」

「ええ、その通りなのです。 ダンジョン内ではないですが...例えるなら、ダンジョン前の待合室みたいな感じです?」

「ふぅん...だからまだ後ろに階段が残っているんだね。」


つまり、ここは通常エリアとダンジョンエリアの中間地点のようなものだろうか。アトランダム・ダンジョン内では『階層移動すると前の階層へと戻る階段は消滅する』とあったので、「チュートリアルエリアにはもう入っているみたいだけど、まだダンジョン内ではないのかな?」と思っていたのが、どうやら当たりだったようだ。


「えと...説明、続けていいのです?」

「はい、今のところは。」


話の良いところで質問ばかりしていたものだから、なんだか妖精さんに警戒されてしまったような気がする。別に悪気があったわけではないんだけどなあ。

知っている内容ばかりだったから...スキップしたかったって気持ちも少しはあったけども。




side Navi


私の役目はチュートリアルダンジョンでプレイヤーさんのサポートを行うことなのです。

サポートフェアリーとして誕生してから今回のプレイヤーさんが初めてのサポートではありますが、全てのフェアリーを司る統括AIさんからチュートリアル用のマニュアルは貰っています。

他の同僚フェアリーもそのマニュアルを使用して順調にサポートを行っているので、マニュアル通りに説明していけばなにも心配はない、と思っていたのです。実際にサポートしてみるまでは。

このプレイヤーさんときたらヘンテコな質問ばかりで...さっきから話の良いところでハシゴを外されてばかりなのですよ!私にとっての見せ場だったのに...。しゅん。


「ダンジョンには持ち込みを制限されているアイテムがあるのです。 これはダンジョンによって異なりますが、シフォンのアトランダム・ダンジョンですと脱出とテレポート効果を持つアイテム、それにお金の持ち込みが制限されてるですね。」

「その辺のアイテムが持ち込めたら難易度下がっちゃうもんね。 持ち込み制限アイテムを持っていた場合にはどうなるの?」

「その場合はアイテムを預けるまでダンジョンに入ることが出来なくなりますね。 ただ、ダンジョン内で入手した物については持ち込み制限アイテムだろうと使用できるのです。 持ち込み制限アイテムやダンジョンに持ち込みたくないアイテムをお持ちでしたら、こちらの木箱内に預けてください。 万が一ダンジョン内で倒されることがありましても、そこの魔法陣より復活しまして、この木箱に預けたアイテムはなくならないのです!」


今も他のフェアリー同様、マニュアル通りの説明をしています。なにも変なところはないと思うのですが...。







「なるほど...ちなみにその木箱を持ちながらダンジョンに入ったらどうなるの?」

「えっ!? ええと.....この木箱は特殊な木箱とかってわけではないので、木箱を持った状態で倒されてもアイテム全消失ロストなのは変わらないのです。あと、その。 木箱もロストしちゃうので...持ち込まれると素直に困ると言いますか...。」

「そっか..........それじゃあ持ち込むのはやめとくね。」


ひえええ...なんて際どい質問をしてくるのですか...!

確かに、木箱はこの場所に固定されているわけではないのでダンジョン内に持ち込む事が可能です。

それで万が一、木箱をロストしたとしても次からここに木箱がなくなって荷物を預けるのにプレイヤーさんが苦しむだけ、なのですが.....問題はこのプレイヤーさんがまたフェアリーを利用すると言ってくれていたことです。



そう言われたからには次回も私はここで待機していないといけないわけですが.........木箱がなくなったら私、どこで待機すれば良いのです?


最初からこのフロアでお出迎えしたとして、もしプレイヤーさんが『あ、今回はフェアリーさん不要です。』なんて言った日には、私はそこでポツンと無用の長物扱いされてしまうのです!

言うなれば、彼女よろしく待ち合わせ場所でプレイヤーさんがくるのを待っていたら、プレイヤーさんの彼女は他にいダンジョンだったみたいな...!!!

そんなの木箱内に潜んでいるのを見つかるフェアリー以上の赤っ恥です!

しかも、その情報がマニュアル更新のために統括AIさんを通して全フェアリーへと通達されるのです。そう、木箱をダンジョン内に持ち込まれると困るのです。私の立場が!!



.....私はプレイヤーさんにハラハラドキドキのダンジョンチュートリアルを行ってあげたいだけなのに、なんで私がハラハラドキドキさせられているのです???

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