第2話 キャラクタークリエイト
『ようこそ、ワールド・アトランダムの世界へ! まずはご自身の分身となるキャラクターを作成下さい。』
「分かりました。」
ゲームを開始すると真っ白な空間へと飛ばされ、女性の声でのガイダンスが流れる。この辺は他のゲームとなんら変わりがないので、慣れたものである。
「見た目は僕の外見をそのままトレース。それに年齢を...そうだな、5歳分若く。」
『承りました。』
目の前に表示されたシステム画面には触れずに、ガイドへと指示を出していく。
これからどれほどこのゲームを続けていくのか分からない現状、クリエイトするだけに時間を掛けたくない。ガイドにあわせて、目の前には若かりし頃の僕が表示される。
「へえ...すごい再現性だなあ。」
さすがは神ゲー、現在の僕から過去の僕を完璧にトレースしてみせている。今までプレイしたゲームの中でもダントツの再現度である。
「見た目はこれでいいです。名前は...なんでもいいんだっけ?」
『はい。 ただし、使用人数の多い名前を使用しますと、成りすましの被害に会う恐れがあります。』
「なるほど。」
さもありなん。現実と違い、ゲーム内なら見た目も似せようと思えばいくらでも似せられるのだから、そりゃあ詐欺に会う可能性だって増すだろう。
だが、ここはゲームの中である。ゲームの中で起こる出来事は全て運営の手の内ではないのだろうか。
「成りすましがあったとして、ちゃんと捕まえてくれるんでしょ?」
『ワールド・アトランダムでは極力、私共の手が加わらない形で運営しております。 そのため、私共が個別に犯人を特定することはありません。 ただ、他者により通報されたプレイヤーに対して措置を行うことはあります。 ですので、「犯罪行為を行ったプレイヤーの大半が捕まっている」とだけお答え致しましょう。』
「ふむ...。」
ワールド・アトランダムではプレイヤー1人につき作成できるキャラクターは1人まで。そして、その情報はゲーム起動時の身体スキャンと紐づいている為、ワールド・アトランダムをインストールし直しても使用できるキャラクターに変わりはない。
それならばリアルほどではないにしても、ゲーム内で犯罪行為を行うリスクは大きそうである。この話を聞いた上で犯罪行為を行おうとする者は少ないだろう。
ただ、彼女がぼかして答えた通り、犯罪者の少数ならば逃げのびているんだろうな。逮捕されない犯罪行為ねえ...ああ、そうか。
「プレイヤーへの犯罪行為は通報って手段があるとして、NPCが相手の場合はどうなるの? 確か、NPCはプレイヤーと違って一度死んだら生き返らないんだよね? それに...。」
ワールド・アトランダムの自由なシステム性と柔軟性に優れたAIが相手ならNPCを相手に犯罪ができるのではないだろうか。そして、NPCが相手であれば容易に殺害と言う口封じができてしまえる。
...それに、極力運営の干渉を控えて世界観を重視していると言うのであれば恐らくは。
『お察しの通り、NPCに私共へ通報するといった概念はありません。 しかしながら、それでも「犯罪行為を行って逃げおおせることが出来る者は極小数である」とお答え致します。』
「そうですか。」
予想通り、NPCに通報システムはないらしい。それでも逃げのびる者が極小数と言うぐらいなのだからなにかしらの対策はされているのだろう。
ワールド・アトランダムは高度な魔法技術が発展した世界観で、電子機器は一般的ではないと聞く。監視カメラが至る所に設置されているとは考えにくいが、その代わりを魔法が担っているのだろう。
そういえば街中には夜道を照らす街灯の魔道具が設置されているんだったか。方向性の違いはあるにしても、現実と見劣りしない程度には発展していると思っていいのかもしれない。
なんにせよ街中にいるNPCに犯罪行為を行えば他者の目がある以上、犯罪発覚からは逃れられない。それこそ、他者の目が届かない場所でもなければ...おっと、いけないいけない。犯罪行為を行いたいわけでもないのに、ついつい思考が悪寄りになってしまった。
別に僕は誰かを傷付けたいわけではないのだ。この考えはここまでにしておこう。
「キャラクターネームはカタカナで『オセロ』でお願いします。」
『そのキャラクターネームは~~~名の方が使用されていますが、構いませんか?』
「はい。」
『承りました。』
『オセロ』と言うのは僕がゲームなどでよく使っている名で、僕の見た目が色白過ぎる肌と黒髪のせいで白黒に見えることと、本名である尾瀬
このあだ名自体は使い回すぐらいに気に入っているのだが、六男でもないのに六郎と言う名前はどうなんだろうとは常々思っている。いくら思おうとも詮無きことなのだが。
それはそれとして、これで見た目と名前が決まり、残すところは服装と成長六花である。服装は初期装備と言うだけあって、大した変更はできない。
色合いを黒を基調として、要所に白を入れて終了。些か軽装過ぎるようにも思えるが、冒険者っぽいイメージの服装だ。
最後の成長六花、これによってワールド・アトランダムでのキャラクターの育ち方が決まってくる。
目の前に表示されているシステム画面にはいくつもの花弁をモチーフにした六角形が映し出されている。これらは六花と呼ばれ、1枚ごとの花びらには『敏捷性』『体力』と言った戦闘に関係しそうなものから『採取』『歌唱』と言った戦闘に無関係なものまでが記載されている。
花びらの大きさはデフォルトではオールCとなっており、どれかをD~Fに下げることで他の花びらをA~Bに上げることできる。
これによって、自身のキャラクターがその行動に対して才能がある(補正がかかる)と言うわけだ。
これだけ聞くと成長六花がいかにも重要であるかのように聞こえるかもしれないが、スキル取得や成長速度等に補正が入るだけなので成長度がFの行動だろうとできない訳では無い。
それに成長六花を振り直しできる機会もあるので、そこまで慎重になる必要はなかった。今までは。
『アトランダム・ダンジョン』の実装により、限られたリソース量で十分に成長するために成長六花の厳選が重要になってきたのだ。
まあ、それでも。
「成長六花はこのままで。」
『承りました。』
尖った成長六花にすれば得意分野で強いのは間違いないが、それは逆を言えば苦手分野では一歩及ばないと言うことでもある。なんでもかんでも極端にすれはいいと言う訳では無い。
むしろ、ランダム要素の大きいローグライクに挑戦するのであれば、なんにでも対応できるぐらいじゃないといけない。中には本当に不要なものもあるかもしれないが、その辺はダンジョンに挑戦してみてから調整すればいいのだ。
『キャラクタークリエイトはこれにて完了致しました。 他になにかご質問が無いようでしたら、オセロ様を始まりの都へ転送致します。』
「他に? ああ、そうだ。 僕は『アトランダム・ダンジョン』に挑戦してみたいんだけど、さすがにこの初期装備じゃ厳しい?」
『アトランダム・ダンジョンにはそれぞれ難易度設定がされておりまして、最も簡単なチュートリアルダンジョンから順に挑戦して頂けるのでしたら、十分に攻略は可能です。 ただし、アトランダム・ダンジョンはチュートリアルのものも含め、全てのダンジョンで攻略失敗=所持アイテムロストとなりますのでご注意下さい。』
「いいね、そうでなくちゃ!」
アトランダム・ダンジョンにもチュートリアルがあるのは願ってもない事だ。早速挑戦してみるとしよう。
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