VR神ゲーのローグライクダンジョンで盗人プレイ!
優麗
第1話 プロローグ
「はぁ、はぁ...。」
暗がりの洞窟内を息が乱れる程の全力で翔ける。
足元は辛うじて見える程度。集中を欠いてしまえばすぐにでも転倒してしまいそうだ。
それでも、少しも足を
『Gaaaaaaa--!!!』
背後から聞こえてくる破壊音、それに猛獣の雄叫び。いや、そんな風に思うのはもしかしたら相手に失礼かもしれない。彼女は雌だ。ただし、猛獣以上の
声は少しずつ迫ってきている気がする。気になるが今は振り返る時間すら惜しい。
「ねえ、オ兄ちゃん!? 今回のはっ、さすがに無理があったんじゃないかなあっ!?」
僕の隣を走るリリィの声。
こんな時でさえ、彼女の声はとても透き通って聞こえる。僕よりは幾分か余裕があるようで、息切れさえ起こしていない。彼女の六花は今まさに花開いていると言うことだろう。
「い、いいから、今は口より足を動かして!...僕もそんな気がしてきちゃうでしょ!?」
「やっばりぃぃ!! もう、オ兄ちゃんのバカ! バカバカ!!」
「ご主人様、こっちです! この先に乗り物があるですよ!」
「ナビちゃんよくやった! その有能さで後ろのヤツもどうにかならないっ!?」
「サポートフェアリーに戦闘は無理ですよぅ!!」
嬉しい情報と分かりきっていた情報が1つずつ。身体は
だからこそ、こんなことを考えてしまうのだろう。なんでこんなことになったのだろうか、と。
思い返すまでもない。あの日から全てが始まった。
「アハッ...アハハハハハッ!!」
「ああ、また始まった! いつも楽しそうだなあ、このオ兄ちゃんめぇ...!!」
「ナビちゃんは、その。楽しそうなご主人様のお姿、嫌いじゃないですけど...?」
「ウソでしょ!?」
僕の心は今日も満たされている。
『ワールド・アトランダム』では本日より発売1周年を記念した大型アップデートが実装される。それに併せて、僕は使い慣れたヘッドギアに『ワールド・アトランダム』をインストールしていく。
「...よし、インストール完了。 これでいよいよ僕も『WatR』プレイヤーの仲間入りか。」
神ゲーと呼ばれ、
現実と遜色ない、どころか現実以上の美しさを誇るグラフィックに『生きた人間』としか言いようのない人工知能。そこに自由度の幅広いシステム性まで加わってしまえばそれはもう第二の世界と言っても過言ではない。プレイしてみれば僕もきっとそれなりに楽しめるだろうとは思っていた。
しかし、僕からすれば時間とお金さえかければ際限なく強くなること自体が現実的とは思えなかったのだ。
どれほどリアルさを再現しようとも...いや、リアルに寄せるからこそその分目立つのだろう。現実には限界があると言うのに限界のないRPGの特性が僕には受け付けられず、僕は他のRPG同様にこのゲームも敬遠していた。
だって、そうじゃないか?そんなものは...現実的ではない。
それに本当に現実的を求めるのであれば1度の死が大きいものでなくてはいけない。僕が求めるものはいくら時間をかけようが、お金をかけようが1つの失敗で全てを無くしてしまうような肌がひりつく感覚。
偏屈と呼ばれることもあるが、それが僕だ。
そんな僕が今回、『ワールド・アトランダム』をプレイすることになったのには2つの理由がある。
まず1つ目。
実家で暮らしている妹が『お兄の生存確認のためにも、一緒にゲームしたい。』と言い出したのだ。
それだけなら今まで通りスルーするだけだったのだが、『一人暮らしのお兄を放置してると、そのうちギャンブルで破産するんじゃないかって心配になるんだよね。』と言われてしまえば黙ってはいられない。
「僕が破産するほど負けるわけがないだろ!」と言い返してみたのだが...よくよく考えてみると、この返しが良くなかった。
『ギャンブルしないとは言わないんだね。』と冷静に指摘されてしまえば、それ以上の返す言葉は出てこない。結局、前科者の身では「ご心配をおかけします。」としか言いようがなかったのである。いや、破産はしてないんだけどね、破産は。
そして2つ目。
『ワールド・アトランダム』にローグライク要素の強い新システムが実装したことにより、僕でも大いに楽しめることになりそうだったのだ。
ローグライクは途中で死ねば全てを失う。得るか失うかがハッキリしているところがとても僕好みだ。そして、得られるリソース量に限りがあるのも良い。
とまあ、このような理由により僕は『ワールド・アトランダム』をプレイすることになった。妹と違い、有名プレイヤーになりたいとかの目標があるわけではないが、それなりに楽しみたい。願わくば、胸を焦がす高揚感が得られますように。
「ゲーム、スタート!」
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