エピローグ
夏休みが近づいてきた七月のある日、日野くんが引っ越しをする日が近づいてきた。
「山代、オオクワ・・・。おれ、明日引っ越しする。だからもう会えなくなるんだ、今までありがとう。」
日野くんはぼくとオオクワくんに頭を下げた。
「そうか・・・、さみしくなるね。」
「日野くん・・・。」
ぼくとオオクワくんは、引っ越しする日がくるまで、できるだけ日野くんと遊んだ。
一緒にゲームセンターで遊んだり、昆虫を探しにいったり、時には三人で電車の旅をしたりと、その日が来るまでに楽しいことを続けた。
「おれ、今さら言うけど二人に会えてよかったよ。いい思い出もたくさんできたからな、これで心おきなく旅立てることよ。」
日野くんは笑いながら言ったけど、その表情からは悲しげな感じがした。
そして翌日、いよいよ日野くんとお別れの時がやってきた。
ぼくはその日、オオクワくんと二人で公園に来ていた、
「そう言えば、今日だったな。日野くんの引っ越し」
「うん。たくさん思い出つくったけど、いざとなるとさみしくなるよ。」
「そうだね、ぼくも日野くんの気持ちわかるよ。」
「そういえば、オオクワくんも引っ越しして来たんだよね。前のところからはなれるのさみしかったの?」
「そりゃ、さみしかったさ。数少ないぼくをわかってくれる人がいなくなるようなものだからね。」
「ねえ・・・、やっぱり最後に日野くんに会いたいよ。今から会えないかな?」
「もう無理だよ、引っ越しのトラックもたぶんもう出ているだろうし。」
ぼくはそれでも日野くんに一目会いたい、最後にはっきりとサヨナラを言いたいんだ!
「オオクワくん、行こう。今ならまだ間に合うかもしれない!」
「えっ!?本当に会えるのか?」
「わからない、それでも動かずにはいられないんだ!」
「全く・・・、君らしいよ。それじゃあ、ぼくもつきあってあげるよ。」
「ありがとう、オオクワくん!」
そしてぼくとオオクワくんは、公園から日野くんの家へ向かった。
日野くんの家が見えてくると、家の前にトラックが停まっていた。
「しめた!まだ作業中だから、家の中にいるかもしれない。」
オオクワくんが言った。
ぼくとオオクワくんはげんかんの前にやってくると、作業服を
「君たち、どこから来たんだ?作業のじゃまになるから、向こうへ行ってくれ。」
「あの、この家にいる日野くんに会いにきたんです!今日引っ越すんだけど、まだ家の中にいますか?」
「もういないよ、確か新居に荷物が並び終えるまで親戚の家にいると聞いたからね。」
やっぱり、日野くんにはもう会えないんだ。
「あっ、もしかして君は山代くんかな?」
男の人がたずねた、ぼくはうなずくと男は一枚のおりたたまれた紙をぼくに渡した。
「実は日野くんから、もし君が来たら渡してほしいと頼まれたんだ。来なかったら、ポストに入れるつもりだったけどね。」
ぼくは紙を受け取り開くと、そこにはこんな文章が書かれていた。
『今までありがとう、すごくさみしいけど、いつかまた会おうな!!』
ぼくとオオクワくんは、涙を少しこぼしながら紙を見つめた。
「うん、また会おうね日野くん・・・。」
そしてぼくとオオクワくんは、その場を去っていった。
そしてそれから三日後、朝のテレビニュースでこんなことが報じられていた。
『昨日、
どうやら金色のアサギマダラは、みんなといっしょに海をこえて、長崎県にやってきたようだ。
「がんばって海をこえたんだね、とてもすごいよ。」
ぼくは金色のアサギマダラの力強さに、朝から感動した。
そして数日後、朝のニュースでこんなことが報じられていた。
『さて、ネット上で話題になっている金色のアサギマダラですが、さらなる目撃情報がネット上にあげられています。
金色のアサギマダラがついにここにやってきたんだ!!
ぼくはいてもたってもいられなくなった、この日は学校が休みなのでぼくは金色のアサギマダラをさがしにむかった。
虫取りあみを持ってぼくは能力を使って、金色のアサギマダラがいるところへと移動した。
そこはたいようがのぼっていても、うっすらとくらい森のなかだ。
ぼくは森の中を進んでいく、あたりには見えないけれどいろんな昆虫がいる。
「さて、金色のアサギマダラはどこをとんでいるのかな?」
ぼくが森を歩いていると、緑色のカラスアゲハがぼくのところへ飛んできた。
「やあ、君はこのあたりに住んでいるのかい?」
ぼくがカラスアゲハにむかってよびかけると、カラスアゲハはぼくの指先にとまった。
そして脳内にカラスアゲハの声が聞こえてきた。
『そうです。ところで、わたしにどういったはなしがあるんですか?』
「この辺りに、金色のきれいなチョウいなかった?」
『金色のきれいなチョウ・・・?金色がなんなのかはわからないけど、光輝いているチョウなら見たよ。さっき、このあたりを飛んでいたなあ。』
「本当!?ありがとう、それじゃあね。」
『ああ、それじゃあな。』
カラスアゲハはひらひらと飛び去って行った。
ぼくはこのあたりをとにかく探しまわった。
そしてついに、ぼくは見たんだ。
金色のアサギマダラの姿を・・・。
「おーい!元気にしていたか!!」
すると金色のアサギマダラは、ぼくのところに飛んできて、人差し指にとまった。
『元気にしてましたわ、また私に会いにきてくれたんですね。とてもうれしいわ。』
「いやあ、君がこのあたりにいるという情報を聞いてやってきたんだ。それにしても、多くの人たちが君のことをねらっていたんだ。大変だったね・・・。」
『お気遣い、ありがとうございます。何度もつかまりかけましたが、なんとかここまで来ることができました。でも、やはりなかまは少し減ってしまいました・・・。』
「そうか、でもまた会えてよかったよ。本当にぼくはうれしいよ。」
『私もです。ここは、あまりねらわれることがなくて落ちつけるところです。しばらくとまったあと、また北へと向かって行きます』
「それじゃあ、しばらくぼくと遊ぼうよ!」
『それはいいですわね、それじゃあ私を追いかけてみてください。』
ぼくは金色のアサギマダラを追いかけた、一人と一匹は森の中を楽しく動きまわった。
金色の羽が森の
森の中で転んでも、走りつかれても、ぼくの楽しい気持ちはかわらない。
このままの時間がずっと続けばいいのにと、ぼくは思った。
しかし楽しい時間は過ぎていき、いつの間にか日も
「あ、もうこんな時間だ。」
『あら、本当ですわ。少しだけのつもりでしたが、いつの間にかこんなに遊んでしまいましたわ。』
「そろそろ、ぼくは帰るね。遊ぶことができて楽しかったよ。」
『私もです、それではさようなら。』
そしてぼくは金色のアサギマダラと別れてから、元のぼくの家に帰ってきた。
「紫乃、今までどこにいっていたのよ!急にいなくなるから、心配するじゃない。」
そしてぼくは、母さんにおこられた。
それからさらに数日後、ぼくとオオクワくんは野崎さんの大学の研究室に来ていた。
二人とも、野崎さんから「いいものを見せてあげる。」と言われて研究室へとやってきたんだ。
「それで、ぼくたちに見せたいものって何ですか?」
「今から見せてあげる。それは・・・、これだ!!」
そして野崎さんがぼくとオオクワくんに見せてくれたのは、なんと金色のアサギマダラの
まるできんぞくでできた作り物のチョウのような標本を見て、ぼくはかなりショックを受けた。
「え!?一体どういう事?まさか野崎さんが、金色のアサギマダラを・・・。」
「いやいや、このアサギマダラは最初からすでに死んでいたんだ。それを標本にしたんだよ。それにほら、この写真を見てよ。」
野崎さんはぼくとオオクワくんに一枚の写真を見せた。
「これは五日前に長野県で撮影した写真だよ、調査中に見つけたんだ。それにしても死体になっても、
野崎さんは興味深々と写真を見つめていた。
「本当だ、とてもきれいだ。」
「うん、本当に生きていた時と変わらないね。」
「それでこの標本なんだけどね、山代くんにあげようと思うんだ。」
野崎さんの一言に、ぼくはとてもおどろいた。
「ええっ!!この標本を・・・ぼくがもらってもいいの?」
「ああ、もちろん。実はここだけの話があるんだけど、だれにも言わないとやくそくできるかな?」
野崎さんは小声でぼくとオオクワくんに言った、ぼくとオオクワくんがうなずくと野崎さんはしゃべりだした。
「実は調査中にみつけた金色のアサギマダラの死がいなんだけど、君たち二人以外には話していないんだ。見つけた時もみんなには内緒で、この死がいを持ってきたんだよね。新種発見として公表したい気持ちはあるけど、なんだかこのまま秘密にしておいたほうがいい気がするんだよね。たがらこの標本はぜひ君に受け取ってほしいんだ。」
「うん、ありがとう。」
ぼくは金色のアサギマダラの標本を受け取った。
その金色のかがやきに、ぼくは自然の神秘とキセキを感じて、目が釘付けになっていた。
あれからどれくらい年月が流れたんだろう?
子どものぼくも、いつの間にかおじいさんになってしまった。
ぼくはベッドの上であのころを思いうかべていた。
「なあ・・・、あのころはよかったよな。オオクワくん。」
ぼくは棚の上にあるすっかり老けたオオクワくんの写真に言った。
今のぼくはすっかり年老いて、あのころのように足が動かなくなってしまった。
仲良しのオオクワくんも、ぼくより一足先に天国へ
ぼくの部屋のドアの近くにあの標本がかざられている。
あのころから時間がかなりすぎてしまったので、すっかり羽の金色は
だけどあの時の思い出は、今でも色が
そして実はぼくにはもう、昆虫と会話できる能力はもう無いんだ。
ふしぎな体験は子どものうちにしかできないというのを聞いたことがある、ぼくの能力もその
その代わりに時々、金色のアサギマダラが夢にうかんで見えるようになったんだ。
金色のアサギマダラはぼくとの縁を本当によろこんでいる、そして感謝の言葉をぼくに言うんだ。
『ありがとう、あなたに会えてよかった。』
ぼくに会うたびに、金色のアサギマダラはいつも言う言葉だ。
あれからぼくは昆虫への情熱をむねに、必死に努力を重ねて
そして世界中を飛び回り、新種の昆虫を何度も発見して発表したんだ。
そして昆虫のすばらしいさとおもしろさ、そしてこの地球に昆虫は欠かせない存在だということを、多くの人々に教えてきた。
「これまで多くの昆虫に会ってきたけど、やっぱり金色のアサギマダラは忘れられないなあ・・・。」
あのころ、世間を騒がせた金色のアサギマダラは結局だれも発見することができず、いつしか「幻のチョウ」と言われて学者やマニアの間で語られるようになった。
そして今年も、金色のアサギマダラを探しに多くの人々が走り回っているということを知った。
「でも、金色のアサギマダラは見つかっていない。だってそれは、ぼくがあのころにだけ現れた特別なアサギマダラだからだ。」
ぼくはアサギマダラの標本に語りかけた。
「なあ、金色のアサギマダラ。君は世界に一匹しかいない、特別なアサギマダラだったんた。だから未だにだれも君をつかまえられないんだ。でもそれでいい、君との思い出はぼくだけのものだ。だから君はとくべつでいられるんだから・・・。」
そしてぼくは今日も思い出すためにねむった。
アサギマダラと一緒に旅したあの時を・・。
アサギマダラの旅を追いかけて 読天文之 @AMAGATA
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