第13話人と昆虫のちがい
翌朝、ぼくはオオクワくんの家ではじめての朝をむかえた。
目覚めたぼくは、顔を洗って、着替えて、朝ごはんを食べた。
オオクワくんの家の朝ごはんは、やっぱり夜ごはんと同じくとても美味しかった。
「山代さま、午後三時より野崎さまがやってまいります。ですので、学校が終わったら早くお帰りください。」
矢田さんがぼくに言った、ぼくはうなずきながらパンをほおばった。
そしてぼくはオオクワくんと一緒に登校した。
そのとちゅうでオオクワくんがぼくに言った。
「今日の昼放課に君とどうしてもしなければならない話があるんだ、図書室で待っているから来てくれないか?」
オオクワくんがぼくに言った。ぼくはうなずきながら歩いて、学校に到着した。
それからは授業をふつうに受けて、給食を食べて、掃除をして、昼放課になった。
「そういえば今日の昼放課にオオクワくんと会う約束をしていたんだ。」
そしてぼくは約束通りに、オオクワくんのところへ向かった。
会う場所は学校の図書室、ぼくが図書室に入るとすぐにオオクワくんが言った。
「来てくれてありがとう、ぼくが君を呼んだ理由はこれからどう付き合っていくかについての話なんだ。」
これからどう付き合っていくかってどういうこと・・・?
もしかして、ぼくは知らないうちにオオクワくんをおこらせるようなことを、してしまっていたのかな・・・?
だったらオオクワくんはぼくのところから離れてしまうじゃないか、それはぜったいにいやだよ!!
「あの・・・、ぼく何かいやなことしたかな?ああ、もしかして本当はぼくを家に泊めたくなかったのかな!?それだったら、すぐに出ていくから気にしないで。」
「いや、べつにそういう事じゃないんだ。ぼくが君に言いたいことは、金色のアサギマダラのようちゅうのことについてなんだ。」
え?アサギマダラのようちゅうのことについてって、どういうこと?
「ぼくはアサギマダラのようちゅうを、野崎さんの大学に預けたほうがいいと思うんだ。あそこならエサのキジョランの葉っぱもあるし、安全に飼育してくれると思うんだ。でも君が見つけて飼い続けたようちゅうだから、簡単には手放せないよね?だから君を呼んで、大学に預けてもいいか聞いたんだ。」
なるほど・・・、オオクワくんの意見にぼくはもっともだと思った。
実はアサギマダラのようちゅうを連れて来てから、あの島に行くことがほとんどなかった。つまりアサギマダラのようちゅうのエサの入手についてどうするのかが、非常に難しい問題だった。
キジョランは山に生える植物だから、生えているところから実際に持っていくのはかなりむずかしい。それじゃあ花屋に置いていないかと、それとなく近所の花屋を回ってみたがだめだった。
正直、キジョランの入手について手詰まりだった。だから野崎さんに相談しようと思った。
でも、オオクワくんが先に思って対策していたなんて思わなかった。
「なんだ、そのことか・・・。てっきりぼくがオオクワくんの家に来て、迷惑をかけているのかと思ったよ。」
「そんなことないって!最初はさ君を家に泊まらせること両親に話してもいいか、なやんでいたんだよね。だけど、話してみたら『お友だちを家に呼ぶなんて、めずらしいじゃないか』って言われて、とても張りきって夜ご飯を用意してくれたんだよね。」
意外だ、人気のあるオオクワくんがめったにだれも家に入れないなんて・・・。
「それじゃあ、これからどう付き合っていくかって、アサギマダラのようちゅうのことだったの?もう、はっきり言えばいいじゃないか〜。」
「おどろかせちゃった?じゃあ、ごめんなさい。それじゃあ、学校が終わったら野崎さんにそのようちゅうを見せに行こう。」
「うん、そうだね。」
そしてぼくとオオクワくんは下校の時に、一緒にオオクワくんの家へと帰っていった。
オオクワくんの家につくと、野崎さんが紅茶を飲みながら待っていた。
「やあ、久しぶりだね。それであのアサギマダラのようちゅうがいると聞いてきたんだ。見せてくれるかい?」
野崎さんは少し
ぼくはアサギマダラのようちゅうが、入った虫かごを持ってきた。
「ほう、これは確かにアサギマダラのようちゅうだね。ふむふむ・・・、おや、これはなんだろう?」
野崎さんはなにかを見つけたようだ、ぼくとオオクワくんが「なになに!?」と野崎さんに詰め寄った。
「このようちゅう・・・、金色の模様になっている!」
「え!?金色って、とくに金ぴかじゃないように見えるけど・・・・。」
そう言ってぼくはアサギマダラのようちゅうをよく見た、するとれつになっている斑点模様が金色だということに気がついた。
「本来、アサギマダラのようちゅうは黒地に黄色の斑点模様が四つならんでいて、そのまわりに白い斑点模様が散らばっている。だけど、このアサギマダラのようちゅうは黄色い斑点模様が金色になっている・・・!これは大発見だぞ!!」
野崎さんがとても興奮した声を出した。
ぼくとオオクワくんも同じ気持ちで、世紀の大発見に体がとまらなくなるほどうれしくなったんだ!
「すごいなあ、もしかしてこれは新種のチョウが誕生するかもしれないぜ!」
「え!?新種かもしれないって・・・!」
それはとてつもないことだ、本当に新種だったらぼくたちは有名人だ!!
「それで野崎さんに相談なんだけど、このようちゅうを野崎さんの大学で預かってくれないか?」
「ぼくからもお願いします、ようちゅうのエサを用意するのはとてもむずかしくてこまっているんです。」
「いいよ、これはぜひ大学で研究できたらいいなと思っていたんだ、研究させてもいいなら大切に管理するよ。」
「ありがとうございます!!」
ぼくとオオクワくんは頭を下げた。
すると突然、オオクワくんが苦しみだした。
「うっ・・・、ここじゃだめだ・・・、もう少しだけまってて。」
「オオクワくん!?どうしたんだ、しっかりするんだ!」
野崎さんがあわてて、オオクワくんに言った。
「ちょっと、外に行ってくる・・・。」
「おい、そんな体で外出なんかしてだいじょうぶか?」
「まって、オオクワくんはだいじょうぶ。だから、彼の言うとおりにしよう。」
「山代くん、一体どういうことだい?」
そしてぼくと野崎さんは、ふらふらと歩くオオクワくんの後を追いかけた。
そしてオオクワくんは庭にでると、足を止めた。
「よし・・・、ここなら憑依してもだいじょうぶだ。」
そしてオオクワくんは、オオクワ・クロノカミになった。
「な・・・な・・・、なんだありゃーっ!」
野崎さんはおどろいて腰を抜かした。
そりゃあんなにデカいオオクワガタを見たら、だれでもおどろいてしまう。
『山代くんとやら、私にもそのアサギマダラの幼き姿を見せよ。』
「これが見たいんだ、どうぞ。」
「や、山代くん!だいじょうぶなのか、危険かもしれないんだぞ!!」
「だいじょうぶだよ、オオクワ・クロノカミは、虫を悪く言わなければ危険じゃないよ。」
オオクワ・クロノカミは、虫かごの中をまじまじと見つめた。
『おお、なんと神秘的なんだ。まだようちゅうながらも、強い力を感じる。これはもしかすると、神になれるかもしれん。』
「神になれるって、どういうこと?」
『虫のようちゅうの中には、ごくまれに他とはことなる神秘的な姿をしたものがいる。そのようちゅうはせいちゅうになると、それまでの力が一気に
それじゃあ、このアサギマダラも成虫になったら神さまになってしまうの?
ぼくはこのアサギマダラがすごく特別に見えてしまい、虫かごを持つ手がふるえだした。
「そうか、それじゃあとっても大切にしないとだめなんだね。」
『ああ、もしお前が死なせてしまったら天罰が下ることになるぞ・・・。』
すると野崎さんが、オオクワ・クロノカミに近づいてきた。
「すごい・・・!!こんなにデカいオオクワガタは、初めて見た!!さわった感じは本物のクワガタだけど、これは作り物か本物かどっちなんだ?」
野崎さんはオオクワ・クロノカミの全身をとにかく観察しまくった。
『何だこやつ、さっきから私のまわりをウロウロしおって・・・。』
「あははは・・・、本当に研究熱心なんだね。」
オオクワ・クロノカミのまわりをうろつく野崎さんが、おかしくて笑ってしまった。
『ええい、とにかくこのアサギマダラのようちゅうを決して死なせるではないぞ。それでは、私はこれで失礼する。』
オオクワ・クロノカミは野崎さんにつきあってられなくなって、オオクワくんにもどってしまった。
「えっと・・・、野崎さんは何しているの?」
「あれ!?ねえ、巨大オオクワガタはどこへいったの!?」
「野崎さんがあんまり見ているものだから、どっかへ飛んでいったんだよ。」
ぼくはうそをついてごまかすと、野崎さんはおちこんでしまった。
「あの
そして野崎さんはアサギマダラのようちゅうが入った虫かごを持って、オオクワくんの家から帰っていった。
「これで一安心だね、それじゃあ一緒にテレビでも見ようぜ。」
そしてぼくとオオクワくんは、家の中へと入っていった。
それから野崎さんは二日に一度、オオクワくんの家にやってきて観察結果を報告しにきた。
「そういえば山代くん、いつまで自分の家に帰らないつもりかな?」
野崎さんがぼくに言った。
「え・・・?どうして知っているの?」
「実は一度君の家に来たことがあるんだけど、その時に君が家出してオオクワくんの家でくらしていることを知ったんだ。まあ、君の母さんの話を聞いた時はおこったけどね。あの標本をあげたのぼくだし、なんでそんなことしたのか聞いたら『気持ち悪かった』からって、納得できる理由じゃないというのもわかるよ。だけどね、どんなに意地をはっても、君の母さんをずっと遠ざけておくのは無理なんだよ。いつまでもオオクワくんの家にいるわけにはいかないし、ずっと母さんに会えないというのはさみしいものだろ?だから早く母さんと仲直りしたほうがいいぞ。」
野崎さんはぼくのために言っているんだ、だけどぼくは仲直りする気にはなれない。
「わかっているけど・・・、どうしても仲直りできないんだ。」
「まあ、無理することはないよ。どうしてもゆるせなければ、ずっとそのままでもいいし。とにかく家に戻るべきだと言っておくよ。」
そう言って野崎さんは、大学へと帰っていった。
ぼくは迷っていた、母さんの家に帰るべきか、まだオオクワくんの家にいるべきか。
「オオクワくんの家はいいとこだし、できればもう少しいたいけど・・・。」
でもオオクワくんの家にいられるのも明日で
それからぼくはどうすればいいか悩んだので、夜ご
そんなぼくを見かねたオオクワくんは、眠る前にぼくに言った。
「山代くん、もしかして悩んでる?」
「・・・君にはわかってしまうんだね。」
「もちろんさ、あまり食欲なさそうだったからだれでもわかるよ。それで、何が悩みなんだい?」
「実は、家に帰るべきかどうか悩んでいるんだ。はっきり言って家に帰りたいけど、自分ではまだ母さんが許せなくて、こんなのでいいわけないとわかっているんだけど・・。」
「実はさ、ぼくも家出したことあるんだ。小学三年の時、
オオクワくんの話を聞いていたら、自分が人間だということを思い出した。
家出したときぼくの心には「
だけど今はオオクワくんの家のお世話になっている。
人は
「わかった、・・・ぼく家に帰るよ。」
「よし、それじゃあ明日帰ろう。」
オオクワくんの右手がやさしくぼくのかたにふれた、そしてぼくはいい気分になった。
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