第8話決死の海渡り

アサギマダラとの別れをしたぼくは、たびら昆虫自然園を出て野崎さんと一緒にワゴン車に乗って、長崎県ながさきけんをでて大分県のホテルに到着し、そこで一泊した。

そして翌日、ぼくと野崎さんはホテルを出て福岡県ふくおかけんを通って、山口県やまぐちに入った。そこから広島県ひろしまけん岡山県おかやまけんを走り抜けて、そしてついに兵庫県ひょうごけんに入った。

そしてワゴン車はぼくの家の前に停車ていしゃした。

「お母さん、ただいま!」

「おかえりなさい、無事に帰ってくることができてよかったわ。」

「お母さん、ぼくたくさんの昆虫に 触れあうことができてとてもよかったよ。」

「あらそうなの・・・、とにかく紫乃が楽しそうでなによりだよ。野崎、本当にありがとうございます。」

「いえいえ、おれいを言うのは私ですよ。おかげで追跡ついせきプロジェクトが楽に進みました、こちらこそありがとうございます。」

野崎さんは頭を下げた。

「ところで野崎さん、プロジェクトはまだ続けるの?」

「ああ、これから記録をまとめて論文ろんぶんにするんだ。だからもう君の出番はないよ。」

「そうなんだ・・・、もう参加できないんだね。少しかなしい・・・。」

「悪いなあ、だけど君の能力のうりょくがとても役にたったことはまちがいないよ。今までありがとう、またさそえたらさそってやるよ。」

「うん、ありがとう野崎さん。」

「それじゃあ、また会おう。」

そして野崎さんは家から出ていった。







それから二日後の夜、ぼくがベッドで寝ていると目の前に海が広がっていた。

ぼくは下を見ておどろいたが、ぼく自身は海に落ちずに風船ふうせんみたいにかんでいた。

「え、ここって海の上・・・。いや、海の上を飛んでいる!?」

ぼくは何が起きているのかわからなかった、周りを見回すとたくさんのアサギマダラがむれで飛んでいた。

「うわあ・・・、アサギマダラってこんなふうに海の上を飛んでいるんだ。」

すると一匹のアサギマダラがぼくのところにやってきた。

『よぉ、また会ったな。というか、お前も飛べたんだな。はじめて知ったよ。』

いや、ぼくはもともと飛べないのにどうして飛んでいるの?

気になることはあったが、ぼくはアサギマダラたちと一緒に飛ぶことにした。

最初はアサギマダラと一緒に飛んでいる楽しさと、海風が気持ちよくてとても楽しかった。

だけどそれからは苦難続きだった。

とつぜん強風が吹き始めたのだ、アサギマダラは風に飛ばされまいと羽をうごかしている。

『なんて強風なんだ・・・!?飛ばされないようにしないと!』

風は強くなり、海面の波が大きくなって、空が灰色の雲におおわれた。

もしかしてぼくたちは、嵐にあってしまったようだ。

ぼくとアサギマダラは風にふかれないように低いところを飛んでいる、だけど風はとても強くてぼくも吹き飛ばされそうになった。

「なんて強い風なんだ、体に強く力がかかってくる・・・。」

『こらえるんだ、風に負けてはいけない!負けたら吹き飛ばされるか、海に落ちてしまうぞ!!』

アサギマダラはぼくに言った、ぼくは強風に負けないように前へと進んだ。

だけど風は強くなっていき、おまけに雨もふってきた。

「くっ・・・、きついよ。本当に台風の中を歩いているようだ・・・。」

人間は台風が来たら外を歩かないが、昆虫はいつも外にいるため台風のパワーをちょくせつ受けることになってしまう。

昆虫はいつだってきびしい自然の中で生きているんだ。こんな強い風と雨が来たら、葉っぱや土の中などかくれて身を守れる安全なところにかくれる。

でも海の上を飛んでいるアサギマダラは話がちがう、強い雨風から身を守るものが一切ないのだ。

まるで自ら死に行くようなことだが、アサギマダラはそれでも南の楽園に行く使命を果たさなければならない。

『こんな雨風ははじめてだ・・・、だが私はあきらめない!その先に南の楽園があるのなら、進むだけだ!!』

「アサギマダラ・・・、よし!みんな、ぼくにつかまって!」

『なに?お前につかまるのか?』

「ぼくが雨風から君たちを守りながら進んで行くよ!だからみんな、ぼくに集まってきて!!」

ぼくはアサギマダラの群れに大声で言った。

『そういうことか・・・、よし!みんな、こいつに集まれ!』

彼のかけ声に反応し、アサギマダラの群れがぼくのところに集まった。

『私たちのこと、お前に預ける。だから南の楽園めざして進んでくれ!!』

「うん!ぼくは負けない、絶対に連れていくんだ、南の楽園に・・・!!」

ぼくはアサギマダラの群れを抱えながら、嵐の中を進んでいった。

雨がぼくの体を強くうち、風が強くぼくの体にあたる。

だけどぼくはそれをはねのけて、少しずつ確かに進んでいく。

「負けない・・・、負けない・・・、負けるもんか!!」

ぼくはとにかく先へと進む、だけど進めば進むほど雨風は強さをましていく。

そしてぼくの目の前に、巨大な風のうずが現れた。

「これって・・・、もしかして台風!?」

強い雨風はこれのせいだったんだ、もしまきこまれたらアサギマダラもぼくもただではすまない。

『風が強すぎる、はやく通りすぎないと大変だぞ!』

彼が言った、だけど通りすぎるのはさらに危険だ。いっそここでやり過ごしたほうがいい。

「いや、ここは台風が通りすぎるまで待つことにするよ。」

『え!?そんなことしていたら、楽園にたどりつけなくなるぞ!』

「このまま進んだら、ぼくも君も吹き飛ばされてしまう!だからここは動かないで、雨風がおさまるのを待つんだ。大丈夫、かならず南の楽園に行けるから。」

『そうか、それじゃあ待つとしよう。しかしお前だけぬれることになってしまい、大変申し訳ない。』

「いいよ、これはぼくが決めたことだから。」

ぼくは姿勢を低くして、アサギマダラたちをぼくの体でつつみこんだ。

雨風はぼくにふりそそぐ、そしてかみなりも鳴り出した。

だけどアサギマダラの海渡りは必ず成功させる、ぼくはその気持ちをむねにアサギマダラを守りつづけた。

台風はそれからも空と海を荒れさせながら進んでいく、だけどぼくたちは空が晴れるのをひたすら街中続けた。

そしてそれからはこらえることに夢中になって、どうなったのかは覚えていなかった。

そしてどれくらいたったんだろう、空から雲が消えて明るいたいようが見えた。

「うーん・・・、晴れている?」

『ほんとうか?ちょっと見てくる』

彼はぼくから飛び出して辺りを見た、そしてすぐにみんなに言った。

『おーい、晴れたぞ!これで南の楽園へ進めるぞ!!』

そしてアサギマダラたちがいっせいにぼくから飛び出していった。

台風をやり過ごしたんだ、ぼくはアサギマダラを守り抜くことができてうれしかった。

そしてぼくの目の前に、島が見えた。

「おーい、あそこになにかあるよ。」

そして彼はその島を見て言った。

『おお、あれこそがさがしていた南の楽園!みんな、行くぞ!!』

アサギマダラたちは彼の後に続いて島をめざした。ぼくも後を追いかけて島をめざした。

そしてぼくたちはついに、南の楽園にたどりついたんだ!

「やったーー!!南の楽園だ!」

『おお、なんて暖かいところなんだ!ここはまさに楽園だ!』

アサギマダラたちは南の楽園にたどりつけたことをとてもよろこび、ひらひらとぼくのまわりでおどりだした。

そして彼はぼくの人差し指にとまるとこう言ったんだ。

『ありがとう、お前のおかげで南の楽園にたどりつけた。お前のことは、ずっと忘れない。』

「ぼくも君のことをわすれないよ。」

『それじゃあ、さらばだ』

そして彼は飛び去っていった。

手を振りながら見送ると、これまでのつかれからか、ぼくの体が前に倒れた。

そして気がついたら、家のベッドの上だった。

「あれ・・・?さっきのは、ゆめだったの?」

ぼくはあたりを見回した。自分がいるのは自分の部屋だけど、なぜかぼくの体はずぶぬれになっていた。

「たしかにぼくは、アサギマダラたちと一緒にいた。でも、ゆめのようでゆめじゃない気がするんだよな・・・?」

ぼくは頭がもやもやしながらも、起きてトイレへ向かった。

その日、お母さんから「どうしてパジャマがぬれているのよ!!」とおこられた。

そして再びアサギマダラのゆめが見れることを期待していたが、アサギマダラの夢を見たのはこの日だけだった。






















そして夏休みが終わった九月一日、ぼくはついに決意した。

「何がなんでも、今日一日学校に通うぞ!」

ぼくは久しぶりに教科書をランドセルに入れて、朝ごはんを食べにリビングに向かった。

リビングのテーブルには朝食がおかれていたが、テーブルの近くにいた母さんは口をあんぐり開けておどろいた。

「紫乃・・・その格好はもしかして?」

「お母さん、ぼくは学校に行くよ。今までめいわくかけて、ごめんなさい。」

するとお母さんは、わーっとさけびながらぼくのところに来て、ぼくを抱きしめた。

「紫乃・・・、ようやく決心できたんだね。お母さんは信じていたよ、本当にすごい!それじゃあ、朝ごはん食べて行きなさい。」

お母さんにほめられてぼくはうれしかった。

ぼくは朝ごはんを食べると、げんかんへ向かった。

いつもならここでひるんでしまうが、今回はそうはいかないぞ!

「行ってきます!!」

ぼくは勢いのままにげんかんを開けて学校へでかけた。

一年ぶりの登校で、学校までの道のりをまちがえそうになりつつも、なんとか学校に行けた。

教室に入ると、クラスメイトのみんなはおどろきながらぼくの方を見た。

「おい、山代だぞ。」

「ほんとうだ、学校に来るなんて・・・。」

「もう立ち直ったのかな?」

すると一人の男の子が声をかけてきた。

「きみが山代くんだね?」

顔を見てわかった、去年のクラスにはいなかった子だ。

「・・・うん、君はだれ?」

「ぼくは大鍬秀一おおくわしゅういつ、同じクラスとしてよろしくね。」

「ぼくは山代紫乃です。秀一くん、よろしくね。」

「ちょっと、かたくるしいよ!みんなオオクワと呼んでいるから、オオクワと呼んでよ。」

「わかった、これからよろしくねオオクワくん。」

するとチャイムがなったので、オオクワは「じゃあ」といいながら席についた。

教室の扉を開けたのは、あのするどい目がいやな飛鷹とびたか先生だ。

飛鷹先生はぼくのすがたをすぐに見つけて、目を大きく開いておどろいた。

「山代、お前学校に来てたのか。いい心がけだ、今日登校してきたことはほめてやる。明日も学校に行けるようにしろよ。」

飛鷹先生はぼくにきびしく言うと、出席を確認しだした。

学校に通うことは当たり前だが、飛鷹先生の言っていることはそれだけで、気づかいの気持ちが感じなかった。

やっぱりぼくはあの先生は苦手だ・・・、でも負けられない!

ぼくは強い気持ちを持って授業をうけた、何があっても負けないぞ!













放課後、ぼくは校庭の草原で昆虫をさがしていた。

この時期はバッタやコオロギなどの種類がよく見られる、草原くさはらを歩いて地面の方を見るとぴょんぴょん飛び出してくる。

そして今日捕まえたのはエンマコオロギだ、エンマコオロギはぼくの人差ひとさゆびに乗ると言った。

『お前さん、おれをどうするつもりだ?死ぬのはいやだぜ。』

「どうもしないよ、ただ君とお話したいだけなんだ。」

『おれと話がしたいなんて、あんた何がしたいんだ?』

エンマコオロギはとてもふしぎそうにぼくの方を見た。

『まあ・・・、話の相手ならしてもいいよ。』

「ありがとう!じゃあ、このへんでカマキリを見かけなかった?」

『カマキリ!?見たぞ、あいつ!!たしか昨日だっけ・・・、あの草原くさはらだっけなあ。

もうとつぜんおそってきてなあ・・・、もう逃げれたのが幸運こううんだよ・・・。』

エンマコオロギはやれやれという表情で言った。

「そうか、とてもこわい思いをしたんだね。」

『ああ、あんな目にあうのはいやだぜ。それじゃあ、もう行ってもいいか?』

「うん、もういいよ。」

そしてエンマコオロギは草原のおくへと去っていった。

そしてぼくはカマキリをさがしに動き出そうとしたとき、だれかがぼくに声をかけた。

「やあ、山代くん。」

声がした方を見ると、オオクワくんがいた。

「あ、オオクワくん。どうしたの?」

「きみ、さっきコオロギとお話していたよね?」

オオクワくんに言われて、ぼくはドキッとした。

もしかして、またいやなことを言われるとすぐに想像そうぞうした。

でもオオクワくんは、こんなことを言った。

「やっぱりお話していたんだ、ぼくと同じだね。」

「え・・・?ぼくと同じって、オオクワくんも昆虫こんちゅうと会話ができるの?」

オオクワくんはうなずいた。

まさか昆虫こんちゅうと会話ができる人が、ぼくのほかにもいたなんて・・・。

「いやあ、なかまができたみたいでうれしいよ。これから君とは友だちだ、これからよろしくね。」

「うん・・・、よろしくね。」

そしてぼくはオオクワくんとあくしゅした、そしてオオクワくんは「じゃあね」と行ってしまった。

いやなことを言われなくてよかったけど、オオクワくんってどんな子なんだろう?











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