第5話遠征するぼくたち
ぼくが遠征を決めた日の翌日の午前六時、ぼくは荷物の入ったカバンを持って野崎さんが来るのを待っていた。
「いよいよ、遠征に行く時が来ようとしているんだ。ぼくもアサギマダラのように旅に出れるんだ、一体どんなことが待ち受けているかわからないけど、見たことないものが見れることができるんだ・・・。」
ぼくの心は旅への思いでいっぱいだった。
「柴乃、あんた野崎のプロジェクトに参加するようになってから、アクティブになったわね。」
母さんはぼくを見ながら言った。
「アクティブ・・・、それってどういう意味?」
「活発でよく外に出る人のことよ、これまで一度も家から出たことが無かったじゃない。だけどプロジェクトに参加するようになってから、アサギマダラに会うのが楽しみになって外へでるようになったのよ。」
母さんの言う通りだ、ぼくは元々好きな昆虫に、そしてアサギマダラに会えるという目的で、野崎さんのプロジェクトに参加する気になったんだ。
そしてぼくは外に出ることの楽しさ、ぼうけんに出る楽しさに目覚めて、ぼくは遠征に行くことを自分で決めた。
ぼくは自分の成長にとてもおどろき、そして心からよろこんでいる。
この調子で不登校も直せたらいいな。
そうしているとインターホンがなった、げんかんに行くとそこには野崎さんの姿があった。
「やあ、柴乃くん。いよいよ遠征に行く時が来たね。準備はいいかい?」
「うん、いいよ。今からとても楽しみだよ!!」
「それじゃあ野崎、息子のことどうかよろしくお願いいたします。」
「ああ、安全第一で楽しく行くよ。」
そしてぼくは荷物を持って野崎さんのワゴン車に乗り込んだ。
「荷物はのせたね、それじゃあ遠征に出発だ!!」
「よし、行くぞ!!」
そしてワゴン車はぼくの家から発進した。
「ねえ、これからどこに行くの?」
「まずみんなと合流するために、大学へ行こう。」
そしてワゴン車は大学へ向かって走っていた。
そして大学に到着し、ぼくと野崎さんは蝶野さんのところへやってきた。
「蝶野さん、柴乃くんを連れて来ました。」
「おお、来てくれたか。これから大変な旅が始まるけど、覚悟はいい?」
蝶野さんはぼくに質問した。
「うん、どんなことがあっても旅を続けるよ。」
「よし、それじゃあ野崎さんの車に乗って待っていてね。」
ぼくはうなずくと、野崎さんの車に乗り込んだ。
「野崎、あの子変わったわね。」
「蝶野さん、それどういうことですか?」
「あの子はアサギマダラにふれてから、前向きな考えをするようになった。もしかしたら、学校に行けるようになるかもしれないね。」
「ええ、それは私も感じています。でも、旅の中でかなしいことにあってしまったら・・・?」
「どうなるかは、山代くん次第た。それじゃあ行くとしよう。」
ワゴン車で待っていると野崎さんが来てワゴン車を動かした。
そしてぼくたちは遠征に出たんだ!
まず向かったのは
ぼくたちは香川県の
「よーし、さっそくつかまえるぞ!」
「紫乃くん、私と一緒に行こう。」
ぼくは蝶野さんと一緒にアサギマダラを捕まえに行った。
池の近くにある野原でぼくは白いタオルをふった、すると一ぴきのアサギマダラがぼくのところにヒラヒラと飛んできた。
ぼくはすぐに虫取あみで捕まえて、アサギマダラを人差し指にのせた。
『あれ〜、わたしどうなったの?』
「ぼくに捕まえられたんだよ、ぼくは山代というんだ。」
『え!?わたし、このまま死んじゃうの?』
「ぼくはきみのことを食べたりしないよ、ただ君に手伝ってほしいことがあるんだ。」
『手伝ってほしいことってなに?』
「きみの羽に、記録をつけさせてもらうよ。」
そしてぼくはアサギマダラを、蝶野さんに渡した。蝶野さんはアサギマダラの羽にマーキングをすると、再びぼくの人差し指に乗せた。
『はあ〜、くすぐったかった。とくにどこもいたくないけど、これでいいの?』
「うん、もういいよ。
ぼくはアサギマダラを放した。
そしてぼくと蝶野さんはそれからアサギマダラを捕まえ続けて、お昼までに七頭のアサギマダラにマーキングをした。
そしてぼくと蝶野さんは仲間と合流して、昼ごはんを食べることにした。
昼ごはんは仕出しの弁当で、魚のフライが美味しかった。
昼ごはんを終えたぼくと蝶野さんは、
そして蝶野さんがぼくに言った。
「それにしても、君が遠征にまで来てくれるなんて思わなかったよ。いくら夏休みとはいえ、君はあまり外に出ない人だと思っていたんだ。」
「ははは、確かにそうだね。しょうじき、自分でもふしぎなんだ。どうして前へ進めるようになったんだろうって。」
「たぶん、好きなものに力を分けてもらったんだと思う。どんな人間も自分が好きなことのためなら、ときに何倍もの力が出せるというからね。」
「確かに、そんな気がする。」
「そしてもう一つ、君が今のままではいけないことに気づいたことだよ。」
「どういうこと?」
「アサギマダラがおそれずに前をむいて旅をするすがたを見て、柴乃くんも負けられなくなったんだ。今のままを変えなければならないことに気づくのは、大人でも難しいことなんだ。とくに引きこもりは、今のままを変えようという気にはなかなかなれないものなんだ。それに気づいただけでもすばらしいことだよ。」
「そうなんだ、それじゃあぼくは立ち直ることができるんだね?」
「ああ、そのままの気持ちを持ち続ければ必ず立ち直れる。だから負けずにがんばれよ!!」
ぼくは蝶野さんに言われて元気が出た、これからも遠征のお手伝いがんばるぞ!!
ぼくは野崎さんと同じ部屋で寝ることになった。
「今日一日、おつかれさま。今日は楽しかったかな?」
「うん、とても楽しかったよ。」
「そうか、そう思えるのは今のうちだぞ。新鮮な出来事も、何度もやるとあきてしまうからな。」
「そうなの?」
ぼくは首をかしげたが、後々野崎さんの言う通りになることを思い知ることになった。
するとぼくのスマホが鳴った、ぼくがでるとお母さんからだった。
「もしもし、柴乃?体調はどうだい?」
「母さん、ぼくは大丈夫だよ。」
「そう、あんたの声を聞いて安心したよ。今どこにいるんだい?」
「香川県だよ、
「
「そこでアサギマダラを捕まえたんだよ。」
「そうなの、とにかく体に気を付けて野崎たちに迷惑をかけないようにね。」
「うん、わかってるよ。それじゃあね」
「じゃあね。」
母さんからの電話は切れた。
「君の母さん、心配しているんだね。」
「うん、もう何度も『大丈夫?大丈夫?』って聞いてくるんだよ。ほんとうに
「あはは、母親らしいじゃないか。さあ、明日も早いしもう寝よう。」
そしてぼくと野崎さんは、ホテルのベッドでねむりについた。
そして翌朝、ホテルから出たぼくはワゴン車に乗って
愛媛県ではまた同じ研究をしている人たちと会って、
合流する場所は、
ぼくはワゴン車の助手席で眠りながら、到着するのを待つことにしたが、とちゅうで起きてしまった。
「あれ?もう着いた?」
「いいや、愛媛県に入って少したったころだよ。」
「そうか、もうついたんだと思っていたんだけどなあ。」
「はは、もしかして待ちきれないのかな?」
野崎さんに言われて、ぼくは照れた。
それから三十分ほどして、伊吹山に到着した。
ぼくと野崎さんが呼ばれた方へ行くと、そこにはもみ上げ頭でめがねをかけた男がいた。
「やあ、野崎さん。今日はよろしくね。」
「ああ、こちらこそ。」
「この人、野崎さんの知り合い?」
「いや、初対面だ。」
「私は
「はじめまして、
「紫乃くん、さっそくで悪いけど
「いいよ、撮っても。」
「よーし、それじゃあ野崎さんとそこに並んで・・・。」
田代さんがなにやらスマホをいじりだした、そしてスマホに向かってこう言った。
「みなさんこんにちわ、田代です!さあ、今回はここ
ぼくと野崎さんはスマホに向かってあいさつをしたが、ぼくは何が起きているのかわからずにいた。
「それではさっそく、アサギマダラを捕獲していきましょう!レッツゴー!」
田代さんは元気よく言うと虫取あみを持っていった、後を追いながらぼくは野崎さんに質問した。
「ねえ、田代さんはさっき何をしていたの?」
「ああ、彼はユーチューバーなんだ。『田代の小さな学校』というチャンネルで、動画を
ぼくは前を歩く田代さんの意外さにおどろいた。
そしてぼくは田代さんと一緒に、アサギマダラを捕まえに行った。
ぼくが白いタオルを取り出して振っていると、田代さんは説明しだした。
「今、紫乃くんが白いタオルを振っていますが、こうすることでアサギマダラを引き寄せることができるのです。」
しかしこの説明の声におどろいたのか、近づいていたアサギマダラが
「ちょっと、アサギマダラがいってしまったじゃないですか」
ぼくはむっとしながら言った。
「ああー、ごめんよ!じゃましてごめんね。それじゃあ私も
田代さんはスマホの
ぼくは田代さんから離れて捕まえることにした。
そしてアサギマダラを捕まえ、あることに気がついた。
このアサギマダラは、前日にマーキングされた
そしてこのアサギマダラを人差し指に乗せると、聞き覚えのある声がした。
『なんだ、またあんたに捕まってしまったようだな・・・。』
「うん、ごめんね。何度も捕まえて。」
『気にしてはいない、なんだかお前に捕まっても命の危険を感じないんだ。』
「そうだね、ぼくたちは君を殺すつもりは全くないからな。」
『さて、今回は私に何をするんだ?』
「これからどんな旅をするのか話を聞かせてくれないか?」
『うーん、これから休むところがないところを飛ぶんだ。一度落ちたら流されて、生きて帰ってこれなくなってしまうんだ。だからこれから移動のために、力をたくわえなければならないんだ。』
アサギマダラの言っていることをかんたんにたとえると、これから海を
海を
「そうか、これから難しいことに
『ああ、生きるか死ぬかの危険な旅なんだ。』
「もし落ちたら・・・、君は悲しくならないの?」
ぼくはアサギマダラに質問してみた。
『悲しいか・・・、それはその通りだな。旅立つ前に多くの仲間が死んでしまったし、ここに来るまでにも五ひきの仲間がいなくなってしまったんだ。もし私がいなくなった仲間みたいになってしまったら・・・、正直こわい。』
「アサギマダラくん・・・、本当はこわかったんだね。」
『ああ、そうさ。だけどこわがってはいられないんだ、私たちは南へ
アサギマダラはこわい気持ちを振り払うように言った。
この言葉にぼくは心を打たれた、道は長くてつらいものだ、だけど
「そうなのか、君たちは本当に強いなあ・・・。」
『強い・・・?そんなことはないぞ、強風に飛ばされたり、トリやカマキリに食べられるきけんがあるからな。』
「ちがうよ、気持ちが強いという意味だよ。ぼくも君みたいに強い心を持ちたいよ。」
『気持ちが強い・・・、なるほどな。』
「どうしたらぼくも強い気持ちを持てるようになれるのかな?」
『それは私に聞いてもわからないよ。それじゃあ、力をたくわえたいからそろそろ行くよ。それじゃあな』
そしてアサギマダラはぼくの人差し指からひらひらと
「ねえ、山代くん?さっきアサギマダラに向かって何を話していたの?」
田代さんがふしぎそうにぼくに質問したけど、ぼくはただ笑っただけだった。
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