第3話いざ行け、南へ
ぼくが野崎さんのプロジェクトに参加してから、二日がたった。
ぼくはまだ不登校なままで、学校に行けていない。
「学校に行かないのなら、せめて家の手伝いはしなさいよ。」
学校に行かなくなってから母さんに言われたぼくは、
朝になったら、お手伝いをこなして学校から渡される宿題をする。
そしてこれらを終えたら、自分の部屋に入って一歩も外に出ずに読書やゲームをしてすごす。
これが今までのぼくのひきこもり生活です、つまんないけど他のことを始めようとする気にならないんだ・・・。
だけど今のぼくには、アサギマダラ追跡プロジェクトがある。また呼びに来ると野崎さんは言っていた。
「早く野崎さん、来ないかな・・・。」
ぼくは時々電話の近くで、野崎さんからの電話が来るのを待つことがくせになった。
そして午後三時ごろ、電話がなった。
「柴乃くん、明日ぼくたちと
「うんうん、行くよ!でもどうして広島に行くの?」
「広島の大学から『あなたがたがマーキングしたアサギマダラを
「そうなんだ。あのアサギマダラ、捕獲されたのかな?」
「それはどうだかわからないけど、あそこは私たちよりも
「そうか、それじゃあ楽しみに待っているよ。」
「ああ、私も楽しみにしているよ。」
そして電話は切れた、受話器を元に戻すとぼくは楽しい気持ちで自分の部屋に戻っていった。
「ふふふ・・・、明日が楽しみだなあ。」
ぼくは一人でウキウキしていた、そして
ぼくは母さんに、野崎さんからの電話のことを話した。
「またアサギマダラ追跡プロジェクトに行くのね、私はいいけどさ、その気分で早く学校に行けれるようにならないの?」
「ごめん・・・、まだ行く気にはなれない。」
「あなたがそう言うならしょうがないけど、早く立ち直らないと後悔することになるわよ。」
「わかったよ・・・。」
母さんはぼくが早く、もう一度学校に行けるようになることを望んでいる。
だけどそうかんたんにはいかない・・・、母さんはどうしてそれがわからないんだろう?
でもそんなことは気にしないことにした、そして明日のことだけを考えてぼくは今日一日を過ごした。
そして翌日の午前六時、ぼくは野崎さんの運転するワゴン車に乗って、広島の大学へと向かった。
「ねえ、その大学へ行くのは初めてなの?」
「いや、アサギマダラの追跡調査で知り合ってから、おたがいに記録をこうかんしたりしているんだ。」
「へえー、じゃあなかよしなんだね。」
「まあ、研究しているものが同じだから自然と気が合うんだよ。」
ぼくの家から広島の大学までは、車で三時間もかかる。途中のコンビニでおにぎりとお茶を買って、ワゴン車の中で朝ごはんを食べた。
そして午前十時二十分に、広島の大学に到着した。
「おそくなってごめんなさい。」
「いいえ、気になさらずに。ゆっくり来てもいいんですよ。」
「いえいえ、アサギマダラの研究にゆっくりしている時間はないので。」
「さすが研究者ですね、ところであなたのとなりにいるその子が、例の昆虫と会話できる少年かい?」
「ああ、山代柴乃くんというんだ。一昨日から追跡プロジェクトに参加させてもらっているんだ。」
「はじめまして、山代柴乃です。」
ぼくは頭を下げた。
「
ぼくと野崎さんは藤野さんの案内で大学の中へと入って、研究室へ通された。
この大学の研究室は野崎さんの大学の研究室とくらべると、広くて中にあるパソコンの数が多い。
藤野さんはアサギマダラの入ったバタフライケージ(チョウを入れるための大きな虫かご)を持ってきた。
「これがきみたちのマーキングしたアサギマダラだよ。」
「さあ、山代くん。バタフライケージに手をいれてごらん。」
野崎さんに言われてぼくはバタフライケージに手を入れた、するとぼくの人差し指にアサギマダラがとまった。
『ん?あんたは確か前に会ったおぼえがあるなあ・・・?』
「うん、少し前にきみを捕まえたぼくだよ。」
『おお、思い出した。あの時の少年か。いやあ、どうも私はよく捕まってしまうようだな、本当に自分がなさけけない・・・。』
アサギマダラの声が暗かった、そりゃぼくが昆虫だったら捕まったらおちこんじゃうよ。
「ごめんね、でもここの人たちは鳥みたいに君を食べることはしないよ。ただ君のことが知りたいだけなんだ。」
『私のことが知りたいだと・・・?私のことを知って、どうするというのだ?』
えっと・・・・・、何て答えたらいいんだろう・・・?
ぼくには返す答えがわからないよ。
「うーん・・・、よくわからないけど、たぶん君のことがすきなんだよ。」
『私が好き・・・?好きというのはなんだ?』
またぼくは返す答えが見つからなかった。
「え、なんで好きがわからないの?だって君たちはいずれ相手を見つけて好きになって
『それはそうだが、それは重大な使命だ。好きだというものはない。』
もしかして昆虫には、だれかが好きという気持ちがないのかな?
確かに交尾するけど、それは「自分の子どもをのこす」という
「それで、私はこれからどうなるんだ?このまま旅に出ることは、もうできないのか?」
アサギマダラの声がせっぱつまっている。
はやくアサギマダラを放したくなって、ぼくは藤野さんに聞いた。
「ねえ、このアサギマダラを早くはなそうよ、旅に
「ごめんね、もう少しバタフライケージに入れてくれないかな?いろんな記録をとりたいんだ。」
「でも、戻りたがっているよ。」
「山代くん、研究のじゃまをしてはいけないよ。」
野崎さんがきびしい顔をした、しかたなくぼくは放すのをあきらめた。
そして野崎さんと藤野さんは、いろんな記録をとっていき、そしてアサギマダラを離す時がきた。
その前に昼ごはんを食べることになったんだけど、はやくアサギマダラを放したくなったぼくは、こっそり会話したあのアサギマダラを指にのせて、人目につかないように歩いて、大学の外に出た。
「よーし、これでアサギマダラを外に放せる。」
『なあ、お前は旅をしないのか?』
「え、ぼく?」
アサギマダラが突然ぼくに言った。
『お前はなぜ旅をしないんだ?』
それはぼくが人だから・・・、でも旅をしている人もいるし、どうしてだろう?
そしてぼくは今まで旅をしたことがないということに気づいた、そしてぼくはとつぜん旅をするってどういうことか知りたくなった。
「ねえ、少しの間だけ君についていっていいかな?」
『なに、私の旅についていくというのか?』
「うん、旅にでるってどんな感じなのか知りたくなったんだ。だから少しだけ、君についていってもいい?」
『・・・ついていくのはかまわんが、あまり無理はするなよ。』
「うん、ありがとう。」
そしてぼくはアサギマダラと一緒に旅に出たんだ。
方向は南の方角、どこまでついていけるかはわからないけど、いけるところまでいくつもりだよ。
大学から南へ向かって歩き出したぼくは、道路ではない道を歩いていた。
アサギマダラの飛ぶ速さはぼくの歩きよりも速くて、速足じゃないとついていけない。
しかもかなり高いところを飛んでいる、ぼくが見上げてかりり小さく見えるとこまで上がっている。
「まって・・・、まってよ・・・。」
『おそいぞ、このままだとおいていってしまうぞ。』
「君はいつまで飛び続けるの?」
『空がくらくなるまでだ。』
それって夜までってこと?それまで歩きつづけるなんて、ぼくにはできないよ〜。
「ねぇ、少し休もうよ。」
『休むのは空がくらくなってからだ、それまで休むことはできない。それに私はみんなからおくれているんだ、はやく追いつかないといけない。』
アサギマダラはとにかく飛びつづけている、追いかけていたぼくは、とちゅうで
「いたた・・・」
でもアサギマダラは気にもとめずに、先へ先へと飛んでいる。
だけどそれは当然のこと、
それでもぼくはかまわない、大好きな昆虫の後を追うのならこれくらいへっちゃらだ。
それにしてもどこまで歩いたんだろう、後で野崎さんのところに帰れるのかな?
いや、今はそんなことを考えている場合ではない、とにかくアサギマダラについていかなくてはならない。
ぼくは今まで出したことのない力を出して、アサギマダラを追いかけた。でも完全に追いつけなくなった時がやってきた。
それはどこかの道路を歩いていたときだった、向こうから
ぼくが
「きみ、こんなところでなにをしているんだい?」
「え?あの、
ぼくは
「どうしたんだい?一人でいるけど、なにかあったのか?」
「だから離してください!」
アサギマダラはぼくを置いて
ぼくはアサギマダラをもう追いかけることができなかった・・・。
そうしたら、悲しくてなみだがこぼれた。
「おいおい、どうして泣いているんだ?とにかく
ぼくは引き止めた
それからぼくは、
「山代くん・・・、突然いなくなって心配したんだよ!どうしていなくなったの!」
「見つかってよかったけど、どこかへ行くにもどうしてぼくたちに言ってくれないの?」
二人はとてもおこっていた、でも心配してくれているし、もとはといえば何も言わずにいなくなったぼくが悪いんだ。
「ごめんなさい」
ぼくは深く頭を下げた。
「もういいよ、君が見つかってよかったから。念のために君のお母さんにも連絡しておいたから、君が見つかったこと連絡しておくね。」
「今日は野崎さんの家に泊まっていこう、明日になったら家に送ってあげるよ。」
「うん、今日は本当にごめんなさい。」
「わかってくれたら、もういいんだよ。」
そしてぼくは野崎さんの車に乗って、野崎さんの家にむかった。
でも家まではやっぱり遠いから、とちゅうのサービスエリアで
ぼくはラーメン、野崎さんはかつ
「あの、野崎さん。話してもいいですか?」
「ん、いいよ。それで、どんな話?」
「ぼくがどうしていなくなったのかについてなんだけど・・・。」
「ああ、それね。本当にびっくりしたよ。」
「本当はアサギマダラをただ放すつもりでいたんだけど、アサギマダラから『どうしてお前は旅に出ないんんだ?』と言われたんだ、そうしたらどうしてだかぼくも旅にでたい気持ちになって・・・、それで体が自然に前へ動いていったんだ。」
「そうなのか・・・、君はアサギマダラに心を
野崎さんはうなずきながら言った。
「まあ、ぼうけんしたい気持ちはわかるよ。
「うん、ぼくもそんな気持ちになったんだ。」
「そうなったらもう止まらない、先の先まで行ってしまう・・・。やっぱりそれは危険なことなんだ。時には死んでしまうことになる、だからぼうけんに出る前にいろいろと用意をしなくてはならないんだ。」
野崎さんの言葉は、ぼくの心に深くひびいた。
もしぼくが
「野崎さん・・・、本当に心配させてごめんなさい・・・。」
ぼくは改めて、野崎さんにあやまった。
「いいよ、もうすんだことだから。」
するとブザーが鳴った。
「あ、できたようだね。さあ
そしてぼくと野崎さんはブザーを持って、注文した
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