第2話アサギマダラの声
アサギマダラ追跡プロジェクトに参加することになったぼく、まずはアサギマダラのマーキングを行うことになった。
マーキングというのはアサギマダラの羽に
マーキングをするためには、アサギマダラを捕まえなくてはならない。
「ねえ、ぼくもアサギマダラを捕まえるの手伝ってもいい?」
「ああ、いいよ。捕まえたら報告してくれ。」
そして野崎さんはぼくに
「よーし、つかまえにいくぞ!!」
はりきって捕まえに行ったが、アサギマダラはかんたんには捕まえられなかった。
アサギマダラを見つけることはできても、アサギマダラは動きが早くて追いかけても見失ってしまう。
不登校であまり体を動かしていないぼくは、すぐにつかれてしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・、一体どうすれば捕まえられるんだ・・・・・?」
「柴乃くん、苦戦しているようだね。」
「ちっとも捕まえられないよ・・・、一体どうすればいいの?」
「じゃあ、いい方法を教えてあげる。」
そう言うと蝶野さんはポケットから白いタオルを取り出して、一方をつかんでぐるぐる回した。
するとアサギマダラが白いタオルへと近づいていった、蝶野さんはそのアサギマダラを持っていた網で捕まえた。
「すごい・・・、こんなにかんたんに捕まえることができるなんて・・・。」
「君もやってごらん。」
蝶野さんに言われたぼくは、白いタオルを持ってぐるぐる回した。
すると別のアサギマダラがぼくのところに飛んできた、そしてすぐにぼくは網でアサギマダラを捕まえた。
「やったー、アサギマダラを捕まえたぞ!!」
「よし、
蝶野さんはポケットからマジックインキを取り出して、アサギマダラの羽に記録を書き込んでいった。
「さあ、いよいよ君の出番だ。このアサギマダラと会話してみるがいい。」
「うん、わかったよ。」
ぼくは人差し指を出した、蝶野さんはぼくの人差し指にアサギマダラをのせた。
そしてアサギマダラの声がぼくの頭の中に入ってきた。
『何が起きているの?変なものに引き寄せられて、そしたら捕まって羽になんか変な模様をつけられて、一体どうなっているの?』
「ごめんね、ぼくたちはこれから君がどこへ行くのか知りたいんだ。」
『どこへ行くか・・・?それは南のほうさ、そこは暖かくて過ごしやすいところだからね。』
「そうか、どれくらい南へ行くの?」
『どれくらいって、それはかなり遠くの方だな。たどりつけるかどうかは、
「そうか、とてもはてしなくて大変な旅なんだね。」
『それでもやらなきゃいけない、それがわたしたちが、命をつなぐためにしてきたこと。だからどんなに
アサギマダラの声は、旅への決意と覚悟に満ちていた。
「ねえ、そんな旅に出るのって、こわくないの?」
ぼくはアサギマダラにたずねてみた。
『こわい・・・、そんなの当たり前だよ。旅に出る前に多くの仲間が、水に落ちたり、鳥に食べられたり、クモの糸にとらわれたりと、死んでいった・・・。それが私たちの生きるということ、生きることを失わないように生きていくんだ。』
生きることを失わないように生きる・・・、アサギマダラが言った言葉がぼくの心につきささった。ぼくは今まで自分はずっと仲間ができずに一人ぼっちだと思いこんでいた、だから今まで生きる意味がなくて、「死んでもいいかもしれない・・・」と思ったことがあった。
でも生きることに意味を
「そうか・・・、きみはとても心が強いんだね。」
『心が強い・・・、それがどういうことなのかはわからないが、私たちは旅に出ることが生きることだ。だから私たちが旅にでることを、私は決して
そしてアサギマダラはぼくの
「アサギマダラ・・・、君の旅立ちを見ることができてよかったよ。」
「それで柴乃くん、さっきのアサギマダラがどこに行くかわかったか?」
蝶野さんがぼくに質問した。
「うん、南に行くって言っていたよ。」
「南か・・・、それじゃあべつのアサギマダラを捕まえにいくぞ。」
「え?まだ捕まえるの?」
「当たり前だろ、これは研究だからな。この他にもアサギマダラを捕まえてマーキングをしていき、そして君にはそのアサギマダラと会話して行き先を聞き出すんだ。」
「うん、わかったよ。」
そしてぼくと蝶野さんはそれから五匹のアサギマダラを捕まえて、マーキングをして行き先を聞き出していった。
「よし、これで一通りすんだ。それじゃあみんなのところへ戻るとしよう。」
そしてぼくと蝶野さんはみんなのところへと向かっていった。
みんなのところへ戻ってきたぼくは、再び野崎さんのワゴン車に乗り込んで大学へと向かっていった。
森林公園から大学までは車でニ十分ほど、ぼくは運転する野崎さんから質問した。
「どうだった、ぼくたちの研究は?」
「うん、とてもよかったよ。それでマーキングしたアサギマダラを、また捕まえにいくの?」
「ああ、今度は山口へ行って調査をする予定だよ。出かけるのは一週間後、大学で資料をまとめたら君を家に送って行くよ。」
「そうか・・・、もっと野崎さんたちと一緒にいたいなあ・・・。」
「あはは、君の気持ちはわかるよ。楽しいことには夢中になっていたいもんな。」
「ねえ、野崎さんはどうして大学で研究しようと思ったの?」
ぼくは野崎さんに質問した。
「そうだなあ・・・、君は『これがやりたい!!』と言えるものをすぐに見つけることって、できた?」
「ううん、そんなこと考えたこともないよ。」
「そうか、ぼくもそうだったよ。ぼくは将来をどうしたいのかこれまで考えずに生きてきた、そんな時に両親から『お前が望むなら、このまま大学に残ってもいい。』と言われてね、まあどこで働くかも決まっていなかったから大学に残ることにしたんだよ。」
「そうなんだ。」
「それで研究していたほうが自分には合っているってだんだん思えるようになって、そして研究者になったぼくがいるわけなんだ。」
「ふーん・・・。」
「あれ・・・?なに、その関心のない態度?」
「なんか自然にそうなった感じがして、あまりピンとこなかった。」
「ガーン・・・、ちょっと現実的すぎたかな?」
野崎さんは落ち込んでしまった・・・、悪いことしてしまったな。
そしてワゴン車は走り続けて、野崎さんの大学に到着した。
「さあ、ついたよ。」
「うわぁ、ぼくの小学校より大きい。」
ぼくは初めて見た大学の大きさにおどろいた。今までテレビでしか見たことなかったけど、本当に大きいんだなあ。
ぼくは野崎さんと一緒に大学の中へ入っていった、本当は入るには
入り口から通路を通っていくと、「
「ここがぼくの研究室だよ。」
そしてぼくは研究室へと入っていった。
そこには難しそうな本の数々、小学校の理科室にあるのより立派な
「うわあ、本当に
「
「そうなんだ、すごいなあ。」
ぼくは本格的な研究室に、目に見えるものぜんぶに
野崎さんは机の上でパソコンをいじりだした。
「何してるの、野崎さん?」
「
「ねえ、ここにある本を読んでもいい?」
「いいけど読めるか?たぶん君には難しいよ?」
「読めなくてもいいから読ませて。」
野崎さんは
野崎さんが渡してくれた本は図鑑くらいの大きさで、「
本を開くと、そこには日本だけでなくインドネシアやブラジルのアマゾンなどのジャングルに住むチョウから、ヒマラヤやチリの高山でくらしているチョウ、アフリカのさばくにもすんでいて、まるでチョウの
文章は難しくて読めなかったけど、世界中のチョウに夢中になったぼくは楽しく読むことができた。
そうして時間がすぎるのを
「もう帰る時間だから行こう。」
「え、もう帰るの?」
ぼくは研究室の時計を見た、
「そうか・・・、もっといたかったな。」
「また呼んであげるよ、君の能力が必要になったらね。それじゃあ、本を返してくれ。」
ぼくは野崎さんに本を渡すと、野崎さんはもとあった本棚にしまった。
「あの本、どうだった?難しい文章がたくさんあったけど。」
「文章は読めなかったけど、写真に写っているチョウがとても良かったよ。だからまた読ませてよ。」
「そうか、そんなに気に入ったか。それじゃあ、また読ませてやるよ。」
ぼくはうんとうなずいた。
そしてぼくはワゴン車にのって、家に帰ったんだ。
そして家に帰ってきたぼくは、お母さんに今日あったことを言った。
「だからね、アサギマダラは本当にかっこよくてさ、そんなアサギマダラの旅を
「ふーん・・・」
母さんはせんべいを食べながらテレビを見ていた。
やっばり、ぼくの話なんかに興味ない・・。
「それでさ、野崎さんがまた呼んであげるって言ったんだ。本当に次行くのが楽しみだよ!」
それでも母さんの目線はテレビの方を向いたままだ。
「・・・もういいよ。」
ぼくは二階へと上がっていった。
そして自分のベッドに
「なんで、なんでぇ!なんで母さんはぼくの話を聞いてくれないのーーっ!ぼくが
ぼくは泣きながらベッドをぼかぼかなぐった。
「うるさいよ、静かにしなさい!!」
一階から母さんの声がした、『うるせえ、バカヤロウ!』と言い返したくなったが、泣いていて言える気分じゃなかった。
それからしばらくの間、ぼくは自分の部屋から出ることができなかった。
そして泣いて叫んでつかれたぼくは、ベッドの上でそのままねむった。
しばらくして目を覚ますと、
「ぼくの夜ご飯、ちゃんとあるかな・・?」
きっと母さんが呼んでもこなかったから、ぼくの分まで食べたのかな?
そんなことを考えてリビングに入ると、おちゃわんとおわんがさかさまに置かれていて、皿の上にはからあげがもりつけられていた。そしておちゃわんの上に一枚のメモが置かれていた。
『ごはんとみそしるは自分で用意してね。』
なんだ・・・、ぼくのことわすれていなかったんだ。
ぼくはごはんとみそしるをよそうと、ひとりぼっちの夜ご飯を食べ始めた。
「母さんはぼくのことをわすれてはいないようだ・・・、だけどどうしてぼくの話を聞いてくれないんだろう・・・。」
ぼくは疑問を持ちながら夜ご飯を食べた。
そうだ、あれから母さんは変わってしまったんだ・・・。
ぼくが学校の池に落ちたあの日、母さんはぼくに聞いた。
「どうして池に落ちたの!?」
ぼくはこう答えた。
「あのね、ぼくトンボとお話していたんだ。そしたらあいつらが後ろからけってきて、それでぼくは池に落ちたんだ。」
「え?トンボとお話していた・・・?そんなわけないでしょ、トンボはしゃべれないんだよ。」
「でもぼくはトンボとお話したんだよ、ちゃんと声をきいたんだから。」
「いや、だからどうしてトンボがしゃべれるのよ!!」
「ぼくだって、わからないよ。だけど声はちゃんと聞こえたんだから。」
「・・・もう、わかった。」
この会話を最後に、母さんはぼくと話さなくなってしまったんだ・・・。
母さんはぼくがトンボと話したことを信じていない、それは当たり前のことだけど、ぼくを
「母さん、どうしてだよ・・・。」
ぼくのはしを持つ手がとまり、からあげがゆかに落ちた。
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