第25話 クズ野郎の長話
「さて、話の続きだ。種明かしだったね。なんでそんな事を話すのか不思議に思うかもしれないが、なんて事はない。ただの自慢さ。楽しい事があったら誰かに話したいだろ? けど、悪い事は大っぴらには話せないからね。君のような犠牲者に話すしかない。おっと、今の言い方はよくなかった。別に、犠牲者に話すのがつまらないという意味じゃないんだ。むしろ、僕の策略にハマって手も足も出せなくなった哀れな犠牲者に全てを語るのはとても楽しいよ。ちっぽけな人間だと思うかもしれないが、神にでもなったような気分だ。
それじゃあ僕の正体と目的について語るとしよう。僕は神の王国教団のメンバーなんだ。と言っても、客分のようなものだけどね。利害が一致しているから協力してる。僕の授業を覚えているかな? 残念だけど、あれは正しくない。同盟にとって不都合な事実が歪められているんだ。
改めて歴史の授業をしよう。疲れているかもしれないけど、居眠りをせずに聞いてくれよ。要点は二つ。魔王バロットはイーサ教徒で、彼女の力の本質は、自分の外側にある魔力を操る事だ。この二つを抑えておけば分かりやすい。自分の外にある魔力を操れるんだ。君とは違う意味で、無尽蔵の魔力を持っていると言っていい。世界は彼女の手の中というわけさ。
ところで君はイーサ教の神話について知っているかな? 聖典によれば、原初の世界には神だけがあった。世界とは神で、神とは世界だった。全知全能であるがゆえに、それ以外の物はなにもない。オンリーワンのパーフェクトワンだね。ところがある時、完璧であるはずの神が孤独を感じてしまった。けれど、絶対の神は絶対であるが故に他の存在を許容できない。イーサ教の解釈によれば、神とはあらゆる可能性が一点に集まった存在、言い換えれば、全ての可能性を独占した存在という事になる。孤独を埋めるには、神は神を辞めるしかない。こうして神は自らを殺し、可能性の力は世界に解き放たれた。これが魔力という事になっている。
そう聞くと、魔王が魔術士を特別視したのも納得出来るだろ? とは言え、これには語弊がある。魔王は魔術士の可能性を信じたが、その目的は神の王国を建てる事だった。文字通りにね。歪んだ歴史では彼女が神を名乗った事になっているが、実際はそうじゃない。彼女は神を作ろうとしたんだ。
人間は愚かで醜い。僕を見ればわかるだろう? 本質的に人間は危険な存在なんだ。迷える子羊は、神という飼い主に管理して貰う必要がある。神が死んで魔力が生まれたのなら、魔力を使って神を作る事も出来るはずだ。飛躍しているように思えるかもしれないけど、人工精霊を生み出すようなものだと思えば、そこまで馬鹿げた話じゃない。
魔王バロットの目的は、人工の神を作って人間たちを管理させる事だったんだ。それが真の魔王論であり、神の王国教団の目的さ。面白いじゃないか。実際に神が世界を支配したら、この世の中はどうなるだろうね? 僕みたいな最低の悪人も、真っ当な人間になれるんだろうか? 実に興味深い! そういうわけで協力している。
実の所、魔王はいい所までいっていたんだ。勇者に邪魔されなければ、神の国は実現していた。その時のノウハウは、断片的にだけど神の王国教団に残っている。なら、アルマ君を使って再現できるというわけだ。
さて、ここまでの話で気づいたと思うけど、本命はアルマ君だ。けど、折角勇者の子孫がいるから欲張っておこうと思ってね。君の持つ、精神力で魔力を生み出す力は興味深い。歪められた歴史の真実によれば、勇者ロッドはその力で生まれかけの神を殺して見せたそうだからね。研究すれば、神を生み出すヒントを得られるかもしれない。そういうわけで、ついでに君のスペックを確認しておいたというわけさ。
だから安心したまえ。君とアルマ君は殺さないよ。君は研究材料として、アルマ君は魔王の後継者として連れ帰る。残りは用済みだから処分させて貰うよ。フレッチャーと可哀想な不良少年達には、僕の代わりに罪を背負って貰う。彼らはホワイトパージと繋がっていて、フレッチャーを取り込んで私兵に仕立て上げようとしていた。そこに君達が現れて戦闘になる。大勢の死者が出て、どういうわけか君とアルマ君は消えてしまった。
実際、レッドクラウンの背後にはホワイトパージがついているし、そうでなくてもこの街の裏側では色んな悪い大人が暗躍している。僕みたいにね。捜査は難航し、事実が明らかになるのは随分先になるだろう。その間にやり残した事を片付けるつもりだ。魔物学のアンブロワーズ女史をお茶に誘ったりね。変わり者だけど、彼女は中々魅力的な女性だ。そうは思わないかな?」
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