第4話 魔物学の授業
「スケルトンなんて知っている。今更学ぶ事など何もない。諸君らはそう思っているだろう。だが違う! 魔物というのは実に奥深い。なにを持って魔物とするか、どこからどこまでが魔物なのか! そんな定義づけすら我々はまだ出来てはいないのだ! 諸君らが知った気になっているスケルトンですらそれは同じ事。吾輩は断言する! 諸君らが知っているのはあの奇妙奇天烈多種多様な魔物のほんの薄皮一枚程度に過ぎないと! ……なにがおかしいのかね。ほぅ? スケルトンには皮はない? ……はははは! はーっはっはっは! ニコ=ブレイブハート。立ちたまえ。君は授業が終わるまでそこに立っていなさい。廊下に出る必要はない。必要なのは反省であって、学びの機会を奪う事ではないからな。さて、スケルトンの話に戻るが、その発生方法においてすら、魔物というのは一筋縄ではいかない。スケルトンが良い例だ。もっとも広い定義を適応するなら、スケルトンとは魔力を帯びて動く骨である。ふむ。そんな事は分かっているという顔をしているな。吾輩の授業は退屈かね? では尋ねるが、スケルトンになる骨は、どこでどのように魔力を帯びるのかね? ……たまたま強い魔力を帯びて? そういう事もあるだろう。たまたという言葉を使えばどんな事だって起こりえる。戦場のような強い魔力の集まる場で? 悪くない答えだ。少々ありきたりではあるが、スケルトンの発生を考える上では、多くの示唆に富んだ環境と言える。スケルトンの発生はおおよそ二つの理由に分けられる。内的な理由と、外的な理由だ。内的な理由と言うのは、内側にある魔力である。強い魔力を持つ者の肉体には、当然強い魔力が宿っている。そういった人間の骨はスケルトンになる可能性が非常に高い。無念の死を遂げたり、戦場のように周囲に負の感情を帯びた魔力が漂っているような場であれば、それらの影響を受けてまず間違いなくスケルトンになる。だから、人は葬儀を行うのだ。死後残された身体が本人の意思に反して動き出す事のないように、僧侶が肉体に残った魔力を払い清めるわけだ。諸君らも、死後スケルトンになって他人に迷惑をかけたくなければ、葬式代をケチるような事はするべきでないと言っておく。君達は魔術士だ。誰もが死後スケルトンになる可能性を秘めている。付け加えるなら、強い魔力を帯びた死体は、自分だけでなく、周囲の骨までスケルトンに変えてしまう事がある。先ほど言った外的な理由の一つがこれに当たる。スケルトンの出現場所と言われて諸君らはどんな場所を想像する? 遺跡? 戦場跡? 墓場? よろしい。今回は墓場について説明しよう。ある意味、もっとも身近な出現場所だからな。諸君らの中には、身の回りの墓場にスケルトンが発生した経験を持つ者もいるかもしれない。思い出してみれば、そんな時は大抵、複数体のスケルトンが同時に発生していたのではないか? 先ほどの話を思い出して欲しい。墓地には埋葬された骨が大量にある。そこに、葬式代をケチった魔術士の死体が埋められたらどうなると思うかね? そう、強い魔力を帯びた死体の影響で、周囲の骨がスケルトンになるのだ。つまり、外的な理由であるな。他にも、骨をスケルトンに変えてしまう外的な理由は多い。強力な魔導具は持ち主や周囲の骨をスケルトンに変える事がある。遺跡にスケルトンが多い理由の一つがこれだ。死霊術士は自らの魔力を骨に与え即席のスケルトンを作る。力ある死霊術士が丁寧に作った高位のスケルトンは生きていた頃と同じように話し戦う事が出来るから注意が必要だ。中には、生前に修めた魔術を再現する程の個体もある。まぁ、そこまでの存在には滅多に出会う事はないだろうが。なんにせよ、たかがスケルトンと舐めてかかる事の無いように。さもなくば、君達もスケルトンの仲間入りをする事になる。これらは皆一口にスケルトンと呼ばれるが、状況や発生理由によって強さや倒し方が変わってくる。ふむ、目の色が変わって来たな。だが、本日はここまでだ。来週はスケルトンの発生方法の見分け方や発生方法別の効果的な倒し方の講義を行う。勇者科の実習ではスケルトンを相手に戦う事が多い。吾輩の授業をよく聞き、効果的に役立てるように。以上だ!」
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