アインスの街へ

 何かを知っているらしいローザネーラによると。



「のーぶるしゅ、ってのは、そのしゅぞくのなかでとくにすぐれたのうりょくをもつこたいがしんかすることができるとくしゅしゅぞくのことよ。とうぜん、のうりょくもつうじょうのこたいよりもたかいわ。それに、ますたーみたいになにかのうりょくにとっかしているこたいもいるの! え? どうしてしっているか、ですって? そんなの、ワタシものーぶるしゅだからにきまってるじゃない! ふっふーん! どう? ワタシのあふれるこうきさのいったんを、すこしはりかいできたかしら?」



 だ、そうだ。


 推定肉体年齢八歳のローザネーラの舌ったらずさだと微妙にわかりにくかったので、纏めてみる。



「つまり、何かの能力が優れている個体だけが進化できる、能力の高い個体がノーブル種。で、俺のはその中でも特化型……名前からして、召喚術に特化した個体になった。んで、ローザネーラもノーブル種だから高貴ですごい……ってことで、OK?」


「そうよ。ちゃんとりかいしてるようねっ」



 ふふんっ、と得意顔で胸を張るローザネーラ。


 ほほえま~、とほっこりしておきたいけど……なんか、コメントがすごいことになってない?

 

 

・初耳なんですが?

・おっと考察クランが荒れるぞコレ

・条件が不明……どうやったら?

・ボスの単独撃破……は、他にもやってるやつ居そうよな?

・第一進化限定なの? それとも第二、第三でも可能?

・情報足りなさスギィ!!



 うーん、この様子だと、相談するって空気じゃなくなったなぁ。


 落ち着くまで……そうだな、うん。



「ローザネーラ、外行こうか」


「ふぇ? いきなりどーしたの、ますたー?」


「ちょっとクールダウンが必要っぽいし……それに、街の観光、したくない?」


「……っ!」



 そう言うと、ローザネーラはがばり、と身を乗り出し、瞳をきらっきらに輝かせた。


 興味津々なのが、聞かなくても分かるレベル。


 やっぱり、ローザネーラを見てるとほっこりするなぁ。


 まぁ、少し緩くなり過ぎじゃない? とも思うが。


 一昨日の威容は一体どこに消えてしまったんですかね? 謎だ。この謎は一生解けないんじゃってくらい謎である。


 そんなことを思いながら、生暖かい目でローザネーラを見ていると、その視線に気づいたローザネーラが、顔を赤くしてぷいっ、とそっぽを向いた。



「べ、べつににんげんのまちなんかにきょうみはないわよ? た、ただ、へやのなかにずっといるのもふけんこうだとおもっただけで……」


「それでいいのか吸血鬼。……でもまぁ、俺も同じこと考えてたよ」



 俺は、腰掛けていた宿のベッドから立ち上がった。


 ちらり、と視線だけをこちらに向けるローザネーラへと、手を差し伸べる。



「それじゃ、アインスの街の観光としゃれこみますか」


「……ふんっ、きちんとえすこーとしないと、ゆるさないんだからねっ」


「仰せのままに、お嬢様?」


「っ! そ、そういうところよっ! ばかますたー!」



 顔を真っ赤にしたローザネーラに、差し伸べた手をぺしんっ、と叩かれた。


 えぇ……と困惑する俺を尻目に、ローザネーラはパタパタと部屋を出て行ってしまった。


 ちょっと悪乗りしただけなのに怒られた……解せぬ。



「ううむ……分からない。あのくらいの女の子が考えていることが分からない……」



 女心と秋の空。


 身体が女になっても、お砂糖とスパイスと素敵な物体Xで構成されているらしい女の子の心が理解できるわけもなく。


 しきりに首をひねりながら、慌ててローザネーラの後を追うのだった。


 


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 というわけで。



「やってきました! アインスの街!」



 バッ、と両手を広げた俺の眼前には、石造りの中世っぽい雰囲気の街並みが広がってる。


 宿屋を出てやってきたのは、最初にログインしたときに訪れた噴水広場。


 プレイヤーの数はそこまでだが、NPCの住人がせわしなく行きかっている。


 コンクリートジャングルばかり見ている身としては、こういう素朴な感じの光景は、なかなか新鮮だ。


 街を行きかう人々の格好も、正しくファンタジーって感じだ。


 故に、相変わらず。



「…………浮くなぁ、俺」



 がっくし、と肩を落とす。


 このエロゲスタイルだと、すごーく、ひっじょーにっ! 違和感っ! 


 ねぇ、大丈夫だよね? 『世界観を損ねる』みたいな理由で通報されたりしない?


 そんなことを心配してしまうほど、俺の格好はアレだった。


 むぅ、最初は注目が集まるからいいかな? って思ってたけど……悪目立ちしてるだけだし、装備はもっとマトモな奴に変えようかね。


 この装備も、《初心》が取れて耐久値が塵屑になってるし……うん、そうだな。もうちょっと見た目的にマトモなのにしよう。



「……さけんだりおちこんだりかんがえこんだり、いそがしいわね」



 おっと、ローザネーラにも呆れたような顔をされてしまった。いかんいかん……。


 ぺちぺちと頬を叩いて気を取り直していると、ローザネーラが興味深そうにきょろきょろと視線を周囲に巡らせていた。



「へぇ……ここがにんげんのまちなのね。なかなかいいふんいきじゃない? それで、どこにいくのかしら?」



 ……すまし顔でそれっぽいこと言ってるけど、髪の毛がぴょこぴょこ揺れているぞ。


 そわそわしているのが丸わかりだった。カワイイ。


 ただ、すぐにでも観光に行きたいご様子のローザネーラには悪いんだけど……。


 俺は、噴水広場の端に設置されたベンチを指さす。



「まずは、そこのベンチに座ります」


「べんち? ……こう?」



 すてて……と素直に駆け寄っていくローザネーラ。俺もその後に続き、二人そろってベンチに腰掛けた。


 近くに街路樹が立っており、生い茂る葉っぱがいい感じに日陰を作っているベンチに並んで座った俺たち。



「それで、なにをするの? さいしょからきゅうけい?」


「いや――ようやく視聴者様が落ち着いたみたいだから、さっきの続きをさっさとやってしまいます」



・やっと一段落したぜ……

・いきなり特大爆弾すぎるんだよなぁ

・あのレベルのブッコミは心臓に悪い

・考察クランの奴ら、発狂してたぞ

・まぁ、ネームド召喚した時点でなぁ……

・ヴェンデッタちゃん手加減して?



「――――そとにでてきたいみがないじゃない!?」



・渾身のツッコミで草

・せやな

・ぐぅ正論

・ローちゃんかしこい

・かしこいはカワイイ

・つまりローちゃんカワイイヤッター!




 至近距離から放たれたツッコミで耳が痛い……。


 ただまぁ、ローザネーラの言うことも尤もなわけで。


 まぁ、取り合えず。



「視聴者の皆さん――ローザネーラをこれ以上待たせないよう、超特急でステータスを更新したいと思います。協力してくれますか?」



・よっしゃまかせろバリバリ―!

・OKボス、何でも行ってくれ

・任せな! 大船に乗ったつもりでな!

・強力な協力……(ボソッ)

・あ?

・なんだテメェトマト投げんぞ



「強力な……協力……?」



・ヴェンデッタちゃん無表情じゃん

・一ミリも笑ってなくて草

・寒いギャグニキ謝罪して?

・ごめんなさい



「きょうりょくなきょうりょく……ふふっ、ふふふっ!」



・ローザネーラちゃん!?

・うっそだろオイ

・今のでウケるのか……

・えぇ……

・ギャグニキ、無罪!

・許された……

 


「えぇ……」


「ふふっ、きょうりょくなきょうりょく……あははっ!」



 くすくすと笑う声が隣から聞こえてくる。う、うーん……?


 ローザネーラの笑いの沸点……分からん。



「……と、とりあえず……ステータスの更新、再開しましょうか」



・せやな

・衝撃の事実

・本日二度目

・三度目は?

・ありそうで怖い

・ヴェンデッタちゃんだしなぁ……



 なんか、コメント欄が戦々恐々としてるような……。


 とは言え、衝撃的な出来事なんてそうそう連続するワケないし。


 さぁ、ほったらかしのステータス君を、さっさと最新にしてやろうじゃないか。

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