乱入者

 人が行きかう噴水広場。その一角。


 心地の良い木陰。風が木の葉を揺らす音が耳に優しいこの場所に――。



「むぅううう~~~~~~~~~~~~!!!」



 ぽかぽかぽかぽか。



 ――――愛らしい唸り声と、軽くリズミカルな打撃音が響いていた。



 ……ああ、道行くNPCが、ぎょっとした顔で通り過ぎ……いや、なんかほっこりしてる? 今通ってった町娘らしき女性NPCは、「あらあら」と生暖かくて優し気なまなざしを……。



「むぅううううううううう~~~~~~~~~~~~!!!!!」



 ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかっ。


 あっ、はい。よそ見しません。


 俺は視線を下に――――唸り声を上げるローザネーラを見た。


 

「ちょっ、ローザネーラ。痛……くはないけど、くすぐったいって」


「むぅうううううううう!! むぅうううううううううううううううう~~~~~!!!」



 ……ダメだな。これは。


 言葉では止まってくれそうにない。


 ローザネーラは、ぷくぅ、と欲張りなリスみたく頬を膨らませている。


 深紅ワインレッドをうるっ、とさせる様子は、拗ねる子供そのもの。


 ちっちゃくて柔らかな両手を握り、俺の胸元を連続で叩いていた。


 ぽこぽこっ! ぽこぽこぽこっ!! ぽこぽこぽこぽこぽこぽこぽこぽこっ!!!!


 リズミカルに打ち付けられるローちゃんパンチ。


 痛みはほとんどないけど、その代わりレオタードの薄い生地越しに軽い衝撃が肌に走り、どうにもこそばゆい。


 

「むぅうううううううううううううううう~~~~~~~~~~~~~!!!!」



 そして、言語能力がなかなか戻ってこない。


 高貴な吸血鬼様は、むーむー唸るだけのムームー星人にランクアップしてしまったご様子。


 まぁ、ローザネーラがこうなってしまった原因は、俺にあるわけだし……とりあえず、好きにさせてあげよう。


 あ、そうそう。ランクアップと言えば。


 俺のステータス更新は、無事に終わっている。


 種族、職業、そしてスキル。ついでに装備更新の相談にも乗ってくれた視聴者たちには感謝しかない。


 ただ、その視聴者たちも……。



・どうして……? どうして……?

・衝撃で頭おかしなるでこんなん

・二段構えとは恐れ入った

・視聴者の心臓にもうちょっと優しくしてくだしあ

・流石ヴェンデッタちゃん、俺たちに出来ないことを平然とやってのける

・そこにシビれる憧れるゥ!



 と、憔悴したご様子。


 ははは……いやぁ、こっちの惨状も、俺のせい……なのかな? うん、そういうことになってしまうのだろう。


 勢いよく流れていくコメント欄からそっと目を逸らし、ポコポコと抗議の打撃を続けるローザネーラの頭をポンポンしながら、もう一つ浮かんだウィンドウに視線を向ける。




====================

【名前】

 ヴェンデッタ

【性別】

 女

【種族】

 召魔爵ノーブルデーモン・サモナーLv3

【職業】

 高位召喚術士ハイサモナーLv1

 魔法戦士マジックファイターLv1

【スキル】

 魔法

 《召喚術Lv5》《闇術Lv21》《時空術Lv1(new)》《火術Lv1(new)》《雷術Lv1(new)》

 武器

 《大鎌Lv25》《ポールウェポンLv1(new)》

 補助

 《ファストステップLv4》《受け流しLv3》《フラッシュアクトLv5》《刹那Lv3》《首狩りLv1》《回避Lv1(new)》《連撃Lv1(new)》《生命活性Lv1(new)》《魔力活性Lv1(new)》《敏捷上昇Lv1(new)》

【称号】

 《名付き殺しネームド・スレイヤー》《格上殺しジャイアント・キリング》《一撃殺しワンターン・キル


【装備】

 武器:深紅血装サングィス・テールム咎人ペッカートル・斬首ファルクス】 召喚の書

 頭:なし

 上半身:あぶないレオタード

 腕:なし

 腰:あぶないスカート

 下半身:あぶないニーソ

 足:ブーツ

 アクセサリー:なし

====================


====================

【名前】

 ローザネーラ

【性別】

 女

【種族】

 真祖の吸血鬼・女公爵オリジン・ブラッド・ダッチェスLv100(弱体化)

【スキル】

 《血魔術(弱体化)》《次元術(弱体化)》《幻奏術(弱体化)》《血の晩餐(弱体化)》《紅魔眼(弱体化)》《永遠に死せし者(弱体化)》《紅の眷属(封印)》《天望快界(弱体化)》《高貴(封印)》《畏怖(封印)》《魔導星(封印)》《魔性解放(封印)》《紅潔領域(封印)》《始祖回帰(封印)》


※召喚者のレベルが低いため、ステータスが制限されています。

====================




 これが、更新された俺のステータスと、ようやく確認できたローザネーラのステータスだ。


 種族は召魔爵ノーブルデーモン・サモナー


 種族スキルに召喚魔物の能力を上げ、召喚主がその魔物の影響を受ける《召魔共鳴》と、希少な魔物に出会いやすくなる《千載一遇》が追加された。


 どちらもサモナーには垂涎の効果を誇っており、まさしく召喚特化といった感じである。


 職業は召喚士の上位職である高位召喚士。


 そして第二職業には俺の戦闘スタイルに合った魔法戦士を選択。


 貧弱な物理ステータスが、多少なりとも良くなった……と思う。


 物理耐久だって、トイレットペーパーから再生紙くらいには上がったんじゃないだろうか? 紙なことには変わりないので、回避重視の立ち回りを意識するしかないんだけど。


 俺の方はスキルがいくつか増えている。今習得できる範囲で有用そうなものを、コメントやローザネーラのススメで習得した。


 結構量があるから、纏めて紹介しよう。



 《時空術》:時空を操る高等魔法。レベル1の魔法【重力弾グラビティ・バレット】。

 《火術》:炎を操る魔法。レベル1の魔法【火矢ファイア・アロー】。

 《雷術》:雷を操る高等魔法。レベル1の魔法【雷弾サンダー・バレット】。

 《ポールウェポン》:長柄武器の扱いに補正。レベル1のアーツ【トリップ】。

 《回避》:回避行動に補正。

 《連撃》:攻撃を連続でヒットさせることで威力が上昇する。

 《生命活性》:物理ステータスに補正。

 《魔力活性》:魔法ステータスに補正。

 《敏捷上昇》:敏捷ステータス、移動系スキルに補正。



 とまぁ、こんな感じだ。

 

 この数日で固まりつつある俺の戦闘スタイル――『回避重視の近接魔法職』という、よー分からんものを純粋に強化する感じになっている。


 回復手段に大分不安が残るが、その辺はまた考えよう。


 なぁに、当たらなきゃいいのだよ。簡単なことだ。


 で、視聴者があんな様子になってしまったのは、俺が新しく習得したスキルの一つ――《時空術》のせいである。


 なんでもこのスキル、『存在は認知されていたものの、習得条件が不明』なスキルだったらしい。


 そんなものを俺があっさり習得できてしまったのだから、まぁ大変。


 召魔爵の事が話題に上がった時と同じレベルの騒ぎになってしまった。


 肝心の俺がこのスキルを入手できた理由だが……多分だが《召魔共鳴》が関係しているんじゃないだろうか? 


 ローザネーラのスキルにある《次元術》。


 これ、《時空術》の上位スキルっぽい感じがするし。


 《召魔共鳴》の効果に、召喚主が召喚魔物の影響を受けるという一文がある。その影響というのがこれなのだろう。


 習得はしなかったけど、《幻術》――多分、《幻奏術》の下位スキル――ってのも習得可能になってたし、大きく外れてはいないはずだ。


 そして、ローザネーラのステータスにも驚かれた。ていうか、俺も驚いた。


 レベルは堂々の100。


 字面からして強力なのが丸わかりなスキル群。


 そして、コメントによれば、その殆んどが『未確認アンノウン』――存在すら知られていないスキルなんだとか。


 流石は元ネームドボス。種族名とか公爵って書いてあるぞ。公爵。


 ちみっこくてカワイイ見た目に似合わない凶悪な力の数々。


 ――――しかし、今はその殆んどが弱体化、または封印状態となっている。


 その原因は、ステータスに明記されているように、俺の実力不足だ。


 『※召喚者のレベルが低いため、ステータスが制限されています』。


 確かに、と頷いてしまった。


 ランクアップしたとはいえ、俺はまだレベル20くらいの新人ニュービーだ。


 対するローザネーラは……現在の種族でレベル100。


 これまでのランクアップ分を入れれば、その総計がどれほどなのかは分からないが……確実に、俺の十倍以上はあるだろう。


 そりゃ、フルパワーを振るえるはずがない。ゲームバランス大崩壊もいいところだ。


 と、素直に納得したのは俺だけだったらしく……。


 当の本人……弱体化された張本人であるローザネーラには、到底看過できるようなモノではなかったようで……。


 ただ、現状では怒れども喚けども、どうしようもないことだというのも分かっているので……。



「むぅうううううううう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」



 精一杯の不満表現として、ムームー星人状態になっているというわけである。


 いや、ローザネーラの気持ちはわかるよ? アレだけ力を誇っていたわけだし、その大半が使えなくなったと分かれば怒りを感じて当たり前だろうに。


 そこを、不満レベルの抗議に抑えてくれているのは素直にありがたいんだけど……。


 さっきからぽかぽか打撃を受けてるせいでね? レオタードの耐久値が地味に削れてるんですよ。


 このままじゃ俺、街中で上半身の装備を吹き飛ばす変態になっちゃう。



「ローザネーラ? あの、そろそろ許して欲しいんだが……」


「むぅうううう~~~~!!!」


「あと、早急に言語能力を取り戻してくれると助かる」



 とりあえず声を掛けてみるが……うん、全然ダメ。


 むーむーもぽかぽかも止まらない。それどころか、頬のふくらみがさらに大きくなっている始末。


 うーむ……これは少し、強引に行くしかないか。


 ローザネーラの方を向き、潤んだ深紅ワインレッドをじっと見つめながら、スッと、両手を伸ばした。


 ぴくん、とローザネーラの小さな肩が跳ねる。


 それを気にせず、俺の手は進んでいく。


 ぴたっ、とローザネーラの動きが止まり、その膨らんだ頬がカァアアア、と赤らんだ。


 その良く分からない反応に、内心ではて、と首を傾げつつ、俺は――――ぷにっ、ぷしゅう。


 ローザネーラの膨らんだ両頬を、指で突いた。


 破れた風船のように、柔らかな頬がしぼんでいく。


 予想外だったのか、ローザネーラはきょとん、とした顔をして……すぐに、きっ!! と。


 形の良い眉を吊り上げ、威嚇する猫みたいに両手を振り上げた。



「な、なにをするかぁーーーーーーっ!!!」


「あ、戻った」


「あ、もどった、じゃないわよっ! い、いきなりワタシのほ、ほっぺに……! れでぃになんてことするのよ、このばかますたー!!」


「だってローザネーラ、話聞いてくれなかったし……」



 ローザネーラはむぐっ、と声を詰まらせる。


 すると、座っていたベンチからひょいっ、と飛び降り、とてとてと俺の正面まで移動し……。



「ますたーがよわいのがわるいのよっ!!」



 びしっ、と指を突き付けながら、うがーっ、と吼えた。


 そして、なんとも反論のしにくいことを言ってくれるな。うん、それに関してはゴメンナサイ、としか言いようがない。


 俺が言葉に詰まっていると、ローザネーラはさらに。



「ますたーのれべるがひくいせいで、まほうどころかきゅうけつきとしてのきそのうりょくまでふうじられてるのよ!? もー! りょうてあしをもがれてるきぶんだわっ!!」


「あー……なるほど?」



 怒り心頭、といった様子でまくしたてる吸血鬼様に、俺は頬を掻きながら曖昧に頷いた。


 ふぅむ、スキルが封じられるってのは、そこまで大変なことだったのか……その辺りは、プレイヤーには分からない感覚だな。何せ、スキルがないのが当たり前だし。


 

「だからっ、ますたーはそうきゅうにワタシをぜんりょくかいほうするくらいれべるをあげるのー!!」


「ちなみにだが、どれくらい上げればいいんだ?」



 そう聞くと、ローザネーラはきょとん、とした顔をし。


 う~ん、と考え込むように首を傾げたあと、ポツリ。



「……ひゃくかにひゃくくらい?」 


 

 と、とんでもない数を口にした。



「はい、無理でーす。すぐにとか絶対無理」


「なんでよっ!!」


「滅茶苦茶時間かかるからだよ!? つーか、レベル100ってトッププレイヤーのレベルじゃないか!」


「むぅうう~~~!!! それでもよっ!! はやくれべるをあげなさーーいっ!!」



 いや、出来る事ならしてやりたいけどさぁ……。


 流石にそれを可及迅速にハリー・アップは無理……つーか、出来てしまったらチートでしかない。


 それでもなお、不満げな顔を崩さないローザネーラ。


 不満げで、それでいてどこか不安そうに揺れている瞳に……うぅ、なんかローザネーラの容姿も相まって、ちっちゃい子をいじめてる気分になってきたぞ。


 とは言え、どうしようもないモノはどうしようもない。レベルはすぐには上がらない。これはそう簡単に覆るようなもんじゃないし。


 俺に出来る事といえば……まぁ、このくらいだろう。


 睨みつけてくるローザネーラから視線を外さず、俺もベンチから立ち上がった。


 そうして、吸血鬼様と並んでみると……縮んだなぁ、と。


 初対面の時の彼女から、今の彼女へ――そして、俺も。


 一か月前に低くなってしまった視線。未だに、少しだけ混乱するそれを思いながら、ローザネーラへと手を伸ばす。


 先ほど頬を突かれたのを思い出したのか、身を強張らせる。そんな吸血鬼様の姿に苦笑しつつ――ぽん、ぽん。


 さらさらの髪を、優しく撫でつけた。


 極上の絹織物を触っているような、素晴らしい手触りに頬を緩めながら……呆然と俺の方を見ているローザネーラに、語り掛ける。



「悪いな、こんな弱いマスターで。俺じゃ、ローザネーラみたいな強くてカワイイ吸血鬼様にゃ相応しく無い……よな?」


「……っ、ふんっ」



 肯定も否定もしないローザネーラ。そっぽを向き、頬を赤くしている。


 ここで肯定されてたら、ちょっと泣いたかも。


 俺は、続ける。



「だからさ……俺、頑張るな。お前に、ローザネーラに相応しいマスターになれるように、努力する。約束だ」


「……それ、ほんとう?」


「ああ――なんなら、指切りでもするか? ほれ」



 そういって、頭を撫でていた手の小指を伸ばし、ローザネーラの前に持ってくる。


 ローザネーラは差し出されたそれを不思議そうな顔で見た。



「ゆびきり?」


「ん? ああ、知らないのか。――ほれ、こうだぞ」


  

 開いている方の手で、ローザネーラの小さくて柔らかい手をとり、小指以外を握らせた。


 そして、その小指と俺の小指を絡ませて――。



「ゆーびきーりげーんまんっ、うーそついたーらっ、はーりせんぼんのーーますっ! ゆびきった!」


「なになになになに!? こわいこわいこわいこわいこわい!!」



 バッ、とその場から後ずさり、俺から距離を取るローザネーラ。……あれ?


 顔を青ざめさせたローザネーラを見て、こてんと首をかしげる。



「こわいって……ただの指切りだぞ?」


「ただの!!? いまの『のろいうた』のどこが!!!」


「呪い……? いや、子供でも普通にやってるぞ、割と」


「ど、どんなしゅらのくになのそこは!?」



 修羅の国て……。


 いやまぁ、知らないと不気味に聞こえるのかね。日本の童謡は。


 今度、『かごめかごめ』とか聞かせてみるか? なーんて、悪戯心がむくむくと。


 でも、今それは重要じゃないので、とりあえず怯えているローザネーラに、今のが約束をするときに使う一般的な文句であることを伝えた。


 言葉の意味を教える際に、『げんまん』や『はりせんぼん』の部分に畏れ慄かれもしたが、それはさておき。


 まぁ、なんとかローザネーラに『約束』を結んでもらえたわけだ。


 

「いい! ぜったいに、ワタシにふさわしいますたーになるのよ!! ぜったいよ!! うそついたら……かみついてやるんだからっ!」



 精一杯威厳を見せたローザネーラの……。


 吸血鬼らしい鋭い八重歯を覗かせた笑顔と共に放たれた、そんな言葉と共に。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





 ステータス云々に関する一連のあれこれも終わり。


 さぁ、アインスの街の観光に出かけるぞー! とうっきうきの俺とローザネーラは、とりあえずは噴水広場の周辺を見て回ることに。


 ここ、街の中心だけあってかなり広い。人通りが多いからか、屋台もいくつか出ている。


 串焼き肉やくるみのパンなんかのお手軽に食べられる屋台食に二人して目を輝かせ、早速購入しては舌鼓を打ち、チープな美味しさに笑みを零した。


 すると、そういう時間になったのか、広場一のシンボルの噴水が勢いよく水を噴き上げていた。


 高く上がる水の柱と、重力によって出来上がる水のベール。


 そして、風に運ばれた水滴が陽光によって照らされ、キラキラと輝く。


 その光景に、俺とローザネーラは思わずぽーっと見惚れてしまう。


 はー……なんというか、こういう日常の一部にまでこだわるところを見ると、このゲームの凄さが分かってくる。


 今一瞬、ここがゲームだと忘れかけるくらいには――今の光景は、キレイだった。



「ふわぁ……」



 と、可愛らしい声が聞こえ、隣を見た。


 呆けた顔のローザネーラが、瞳を輝かせて舞い散り輝く水滴を眺めている。


 その横顔に、思わずくすり。と、笑みを零すと。


 ババッ、と慌てた様子でこちらを見たローザネーラは、俺が笑っているのに気が付くと、カァアア、と顔を赤くして……。



「ふ、ふんっ! まぁ、にんげんのまちもなかなかのものね!!」



 と、誰に向けてなのか分からないツンツンしたセリフを、顔を背けながらまくしたてる。


 そんな姿に苦笑を浮かべているうちに、噴水は元に戻る。


 さて、それじゃあ次は何処に……と、辺りを見渡した、その時だった。




「――――おい、テメェがヴェンデッタか?」 

 


 

 そんな、チンピラっぽい言葉が、背後から聞こえた。


 なんとなーく、嫌な予感を感じつつも、振り返ると……そこには、一人の男の子が。


 やけに剣呑な雰囲気と、不機嫌そうな表情で立っていた。


 NPC……ではない。プレイヤーだ。


 まだ年若い……多分、中学生じゃないか? そのくらいの顔立ちをした、ワイルドな感じの男の子。まだやんちゃな男の子って感じだが、容姿は整ってる。


 装備は、身軽な軽装。金属製のモノはグリーヴとガントレットくらい。それ以外は革製のモノを使っている。色は全体的に青っぽい。


 獲物は……槍。二メートルほどのソレを、背中に斜めに背負っていた。


 ぎろり、とこちらを睨み付ける瞳からは……強い怒りのようなモノが感じ取れる。


 完全に喧嘩腰のその子は、かつかつと石畳を荒っぽく叩きながら俺の傍まで近づいてきて……。



「テメェの化けの皮、剝がしに来てやったぜ? チート野郎・・・・・



 唇の端を持ち上げるようにしながら、威圧的な笑みを浮かべて見せた。

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