第5話 初召か……初ボス!?

「そりゃ!」


「ぷぎゃぁ!?」



 なんだか無性にムカつく鳴き声を上げる、額に角の生えたイノシシの魔物、『ホーン・ボア』の横っ面を、大鎌の柄を棍のように扱い引っぱたく。


 その一撃がホーン・ボアのHPをゼロにしたのか、地面にドサリ、と倒れた後、粒子となって消えていった。



《経験値が規定値に達しました。プレイヤー:ヴェンデッタの種族レベルが上がりました》

《経験値が規定値に達しました。プレイヤー:ヴェンデッタの職業レベルが上がりました》

《スキル《大鎌》のレベルが上がりました》

《プレイヤー:ヴェンデッタは、アイテム『触媒札カタリストカード【ホーン・ボア】』を入手しました》



 おっ、やった。レベルアップだ。これで本日三度目である。

 

 スライムを倒した後も、ついつい楽しくなって町での情報収集そっちのけで戦闘に夢中になっていた。


 草原に出現する魔物は、スライムや今倒したホーン・ボアの他に、角生えた兎と鹿がいた。名前はホーン・ラビットとホーン・ディア。まんまである。


 序盤のフィールドらしく、攻撃手段が『たいあたり』か『つのでつく』しかないみたいで、スライムにやった突進に合わせて斬撃を重ねるカウンター戦法が見事に嵌まった。


 いやぁ、それにしても。VRゲームでの戦闘ってのは結構楽しいモンだな。


 こう、現実では絶対に味わえない感覚を楽しめるってのがいい。


 それに、大鎌で獲物をザックザクと狩る感覚がね……快感、っていうのかな?


 なんか最近いろいろと大変だったせいで溜まっていたものとかがね……こう、刃を肉に立てるたびに、ふわって消えて……ふふふっ。


 おっと、思考がダークサイドに落ちかけてたわ。危ない危ない。


 さてと、レベルアップもしたことだし、一応ステータスを確認しておきますか。





====================

【名前】

 ヴェンデッタ

【性別】

 女

【種族】

 下級悪魔Lv4 UP!

【職業】

 召喚術士サモナーLv4 UP!

【スキル】

 《召喚術Lv1》《大鎌Lv5 UP!》《闇術Lv1》

【称号】

 なし


【装備】

 武器:大鎌初心 召喚の初心

 頭:なし

 上半身:あぶないレオタード《初心》

 腕:なし

 腰:あぶないスカート《初心》

 下半身:あぶないニーソ《初心》

 足:ブーツ《初心》

 アクセサリー:なし

====================



 


 うんうん、中々順調ではなかろうか?


 スキルレベルが《大鎌》以外変わっていないのは、魔法を使わず大鎌ブンブン丸と化してたからです。


 やっぱりストレス発散には近接武器がいちば……ゲフンゲフン、ナンデモナイデス。


 

「そいや、今なんか拾ったよな?」



 レベルアップのアナウンスの後に、なんかのアイテムを入手したと言われた気がした。


 ストレージを開き、確認してみる。なになに……? 


 『触媒札カタリストカード【ホーン・ボア】』は、どうやら【召喚術士サモナー】が魔物を召喚するのに使うアイテムらしい。


 このアイテムを消費することで、召喚可能魔物が増えていく。また、『触媒札カタリストカード』同士を掛け合わせることで別の魔物の『触媒札カタリストカード』になるとか。


 さらに、すでに召喚済みの魔物を強化するのにもこのカードを使うみたいで……なるほどね、【召喚術士サモナー】っていう職業は、このカードを集めないことには何も始まらないってワケか。


 で、だ。


 このアイテムを使えば、俺は晴れて【召喚術士サモナー】として活動を開始していけるのだが……。



「うーん、ホーン・ボアかぁ……ホーン・ボアねぇ……?」



 角の生えたイノシシの絵が描かれたカードを実体化させ、それを空にかざすようにして持ちながら、俺は頭を悩ませる。


 このカードのドロップ率がどのくらいか分からない以上、下手すれば信じられないほどのMOBを倒さにゃならん可能性もある。


 ならば、ここは試しにこのカードで召喚してみるのは全然ありだ。あり寄りのありという奴だ。


 でもなぁ……ホーン・ボアなぁ……。



「……あんまり、可愛くない」



 ――ビジュアルが、微妙。それに尽きる。


 いやさ、今の俺の姿を考えてみ?


 銀髪ツインテ紅眼ロリの悪魔美少女(服装エロゲ)だぞ? 


 そんな見た目のキャラクターが従えてるのが、角生えてるだけのただのイノシシって……どう考えても似合わんだろ!?


 せめて、ホーン・ラビットの方ならもう少しまし……いやでも、兎ってのもなんか違うなぁ。


 黒猫とかカラスとか、あとは蝙蝠とか……ダークなイメージがある魔物なら、滅茶苦茶似合うと思わんか?


 なお、『この姿に似合う魔物』と聞いて真っ先に思い付いたのは、オークとかゴブリンとか触手モンスターだったが、それは似合うの意味が違うのでゴミ箱にポイしておく。


 

「よしっ、今回は見送るとしよう」



 まだ始めたばかりなんだし、いろいろと調べてから最初の魔物をじっくりと決めればいいか。


 さてそうと決まれば、このカードはストレージにしまって――。



 ――――ゾクリ。



 

「ッッッッ!!?」



 な…………ん、だ――――?


 背中に、冷たいモノが走った。


 まるで、冥府に吹く不浄の寒風が如く、怖気が走る。


 慌てて回りを見渡して――異変に気付く。



「え……? き、霧……?」



 いつの間にか、俺は真っ白な霧に囲まれていた。


 何の予兆も、前触れもなく、ただ唐突にあたりを覆う白霧のベール。


 ――――いや、もしや? 


 手を伸ばせば、その指先が見えなくなってしまうほどの濃霧。


 さっきまで、確かにこんなモノは無かった。晴れ渡る青空と、青々とした草原の景色があるだけだった。


 ――――まさか。


 どくん、どくん、と心臓が早鐘を打っている。


 嫌な予感が止まらない。冷や汗が額から頬を伝い、ぴちゃん、と顎から落ちて腕で散った。


 ――――この霧こそが。



「……何かの、前触れ?」


 

 そう呟いた、その時。


 

「うわっ!!?」



 ぶわっ! と強烈な風が吹き荒れ、俺は思わず顔を腕で覆った。


 霧の次は、風……? なんだ? 異常気象のイベントとかあるのか……?


 やがて強風は止み、俺は腕を退かして瞼を開けた……って。



「え、えぇえええええええええええ!!? ど、何処だよここぉ!!?」



 ――――あたりに広がるのは、荒廃した大地。


 赤茶けた大地、枯れた木々、ひび割れた岩。一切の生命が感じられない、死んだ世界。


 空は見ていると不安になりそうな薄紫色をしており、太陽があったはずの場所には真紅の月が不気味に輝きを放っていた。


 驚きに叫び声を上げてしまったが、無理もないだろ、こんなん。


 草原でるんたったしてて、いきなり地獄みたいな場所に放り込まれたら、そら驚くわ。


 慌てて大鎌を構えて、辺りを警戒した。


 どんな事が起こってもいいように、キョロキョロと視線を巡らす。


 何が起きているのか、何に巻き込まれたのか、分かっていること何て何もない。


 しかし、この場に漂う空気。


 粘着くような、絡み付くような、嫌な空気が充満している。


 

「ボーナスステージ……って、わけじゃなさそうだな」


「――――そうね、どちらかと言えば、処刑場バッドステージかしら?」



 その囁き声は、唐突だった。


 背後を見て、そこに何もいないことを確認して、視線を前方に戻して――その次の瞬間に、背後から声を掛けられた。


 誰だ――そう叫ぶよりも早く、身体が動く。



「――――ッ! シィ!!」



 振り向きざまに、大鎌を一閃。


 後方全てを薙ぎ払うような、全力の一撃を繰り出す。



「あら、危ない」



 けれど、背後にいた『そいつ』はまったくもって危険なんて思っていなさそうな声でそう言いながら、大鎌の切っ先をぴたり、と受け止めて見せた。


 ――伸ばした片手の、二本の指で。


 ほっそりとした、白魚のような手。争い事とは無縁そうな、柔らかい女の手が、まるでクッキーを摘まむが如く容易く、俺の全力を止めていたのだ。


 ……たった一撃、攻撃を受け止められただけで分かる。隔絶した力が。


 俺は視線を、大鎌を止める手から、その持ち主へと向けた。


 

「ふぅん、やんちゃな子。いけない子だわ」



 そう言ってくすりと、ぞっとするほど妖艶に微笑んだのは、むせ返らんばかりの薔薇の香りをまき散らす、一人の女。


 流れるような長髪は深い藍色に染まり、最上級の職人が手掛けた蝋人形のように整った顔を彩る瞳は、俺のモノよりも濃い深紅ワインレッドの輝きを湛えていた。


 女としては高い身長、暴力的なまでに豊満な肢体を飾るは、闇夜を糸として紡いだかのような、漆黒のドレス。


 デコルテや太もも、肩や二の腕までもを大胆に露出するデザインのドレスは、ともすれば下品に映りそうだが、女の纏う高貴さがそれを見事に打ち消し、己の美を際立たせることに一役買わせていた。


 そして、背中からは一対の、竜のモノに似た翼が生え。


 血のように赤い紅の惹かれた唇からは、鋭く尖った犬歯が覗いていた。


 あの特徴的な牙、翼……あれは、確か。



「……吸血鬼ヴァンパイア?」


「ええ、そうよ。下級悪魔のお嬢さん」



 吸血鬼の女は、つまんでいた大鎌をひょい、とはじくように離した。それだけで俺の身体はふらついてしまう。……能力値ステータスが違い過ぎる。


 たたらを踏んだ俺を見て、くすくすと可笑しそうに笑った吸血鬼。


 そして、顎に手を添え、もう片方の手でその豊満な双丘を支えながら、こちらに流し目を向けながら口を開いた。



「『【煌血】のローザネーラ』、それがワタシの名。よろしくお願いするわ」




《プレイヤー:ヴェンデッタはネームドボス:『【煌血】のローザネーラ』と遭遇しました。戦闘が開始されます》

《ネームドボス:『【煌血】のローザネーラ』の固有能力【ワタシだけの世界クロージャ・ジェイル】により、この戦闘は勝利するか敗北し死を迎えるまで離脱することが出来ません》

《健闘を祈ります》




 …………ほわい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る