第4話 初戦闘
ついにやってきたぜ、この時が……! というのは、大げさというモノだろう。
それでも、初戦闘に赴くということで、テンションはそんくらいまで急上昇中だ。
「魔物~魔物~、大鎌の錆になってくれそうな手頃な魔物さ~ん」
大鎌片手に草原を闊歩し、浮かれた気持から適当な即興ソングを歌う。
歌詞が物騒? ノリと勢いの産物なんだ。気にしないで聞き流してくれ。
なんとなしに大鎌をブンブンして、草原の草刈りをしながら進むこと数分。
俺の前に、ご待望の存在が現れる。
「ぴぎぃ!!」
「おっ、来たかっ」
草むらから飛び出してきたのは、水色をしたぷにぷにの蠢く謎物体。
某国民的RPGの影響の雑魚モンスター扱いされているけど、もともとは物理無効で強酸攻撃してくるやべーやつ……。
すらいむ が あらわれた!
「ぴぎっ! ぴぎぴぎぃ!!」
水色の水ようかんみたいなスライムは、つぶらな瞳を目一杯尖らせて、戦意たっぷりの鳴き声をぶつけてきた。
だが、悲しきかな。迫力というモノがまるでない。むしろ、マスコット的な可愛さがある。
ぴょんぴょんとけなげに跳ねる姿とか、ずっと見つめていられるくらいに可愛い……って、いかんいかん。
可愛い見た目をしていようが、相手は魔物。敵を目の前に気を抜くなんて言語道断だ。
ちょっと油断するとほんにゃりしてしまう顔を何とか引き締め、大鎌を両手で握りしめる。
こちらが臨戦態勢に入ったのを見て、スライムも「ぴぎっ!!」とやる気満々な鳴き声を上げた。
「よしっ、行くぞッ!」
「ぴぎぴぎっ!!」
俺が大鎌を振りかぶると同時に、スライムがびょんっ! と体当たりをしてくる。
「おっとぉ!?」
け、結構素早いな?
回避には成功したけど、可愛い見た目に似合わず、体当たり攻撃は鋭かったな。
あと、バスケットボール大のスライムがそこそこのスピードで突っ込んでくるの、普通に怖い。
けど、ビビっていては勝負に勝てぬ! 闘争心を掻き立て、大鎌の切っ先をあのかわゆい粘性生物に突き立てるのだ!!
「せいやぁー!」
「ぴぎっ!」
大きく踏み込み、スライムに向けて地面を這うような斬撃を放つ。だが、俊敏に跳ねたスライムに回避されてしまい、大鎌は草原の草のみを刈り取った。
あっ、ちょっと待って。思ったよりも遠心力がすごい! バランス! バランスぅ!!
「ぴぎぃい!!」
「うぐっ」
いったい!
ぷにぷにしてるからもっと優しい感じかと思ってたけど、シンプルにいたい!
くっそ~、自分の攻撃で体勢を崩し掛けて、そこに攻撃を喰らうとかだいぶ間抜けだぞ?
転びそうになったのを何とか耐えて、視界の端に表示されているHPバーを確認。
今の一撃で削れたHPは三分の一程度。最初のフィールドの初期モンスター相手に、三発しか耐えられないのか……。
くっ、『下級悪魔』はともかく、【
これはもう、一発も喰らわないことを意識して戦うしかない。
スライムに対する認識も、愛玩用、雑魚モンスターと何処か侮りがあった。それを全て捨て去る。
確かに、スライムは雑魚モンスターかもしれない……。
だが、それは俺も同じこと。
ゲームを始めたばかりの、レベル1な雑魚雑魚下級悪魔! それがこのヴェンデッタである!
つまり、これは最弱と最弱の戦いなのだ。負けた方が、このゲームで最も弱いクソ雑魚だと証明されてしまう過酷な戦い。
うん、ていうかさ。半分忘れかけてたけど、今配信してるんだよ。
どれだけの人が見てるか分からない。一人も見ていない可能性だってあるし、まぁその可能性の方が高いだろう。
だけどさ? もしここで俺が負けてみ? それが見られていたら? するとどうなる?
――――今後、俺の配信者としての活動は、【
「それはさすがに――勘弁だっ!」
「ぴぎっ!?」
突っ込んできたスライムを、身体を半身にして回避する。
さぁ、こっからが本番だ。
――――意識を尖らせろ。
――――戦意を研ぎ澄ませ。
――――勝利を渇望せよ。
俺は、大鎌を地面と水平に構えて、スライムを見つめる。
息を吐くと共に、油断も隙も捨て去って、ひたすらに戦いを意識する。
さぁて、気合入れと景気づけに一発、ちょっと洒落てみるとしますか!
「さぁ、こっからは――俺が主役の
カッコつけるように言い放ち、俺はスライムへと斬りかかる。
「ぴぎっ!!」
スライムも、戦意十分な鳴き声と共に、こちらへ体当たりを仕掛けてくる。
可愛らしい見た目に似合わぬスピード。
確かに、最初は驚かされた。でも。
「軌道が素直すぎるぞっ」
莫迦みたいな直線軌道。よくよく見れば、避けるのは容易い!
今度は、サイドステップでかっ飛んでくるスライムの軌道上から飛び退いた。俺の横を、「ぴぎぃ!?」と驚いたように叫ぶスライムが通り過ぎていく。
そのまま山なりの軌道を描いて地面に落ちたスライム。俺は、大鎌を構えたままじっと佇む。
追撃は、しない。焦りを見せても、大振りの一撃じゃさっきみたいに回避されて終わりだ。
なら、どうするのが正解か?
「ぴぎぃ……ぴぎぃいいいっ!!」
攻撃を透かされた、スライムは、ちょっと苛立ったように声を上げて、またもや突っ込んでくる。
身体をたわませ、砲弾のように飛来するスライム。怒りが力に変わっているのか、攻撃速度が上がっている気がした。
大鎌を構え、俺はスライムをしっかりと見つめる。
今度は回避しない。
引き付けて、引き付けて――――ここッ!!
「――――【ザッパー】ッ!!」
叫ぶのは、《大鎌》で最初から使える攻撃アーツの名。
その効果は、いたって単純。一撃の威力と攻撃速度を、僅かに上昇させる。
初期アーツに相応しい地味な効果だが、この場面ではそれで十分だった。
朱色の燐光を纏い、斜めに振るわれた大鎌の斬線と、こちらに突っ込んでくるスライムの軌道が交差する。
――――――――斬ッ!!
「ぴぎゃ……っ!?」
「攻撃を避けられるなら、回避できない状況に持ち込めばいいじゃない……ってな」
会心の手応え。「し、信じられない……!?」とでも言いたげなスライムは、その身体に斜めの亀裂を刻みながら、粒子となって消えていく。
一撃だ。我ながら、中々いい攻撃だったんじゃないかと、残心しながら自画自賛。うん、全然残心できてないね。適当言ったわ。
まぁ、何はともあれ――――俺の、勝利である。
「いよっしゃー! 勝ったー!!」
ぴょんっ、と飛び跳ね、ガッツポーズ。やったやった、大勝利だー!
こうして俺は、『C2』初の戦闘を、最高の結果で終えることが出来たのだった。
……それにしても。
あー! 良かった! 【
勝利の喜びとは別に、俺は最悪の懸念が懸念のままで終わったことに、そっと胸を撫でおろすのだった。
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