第3話 初ログイン
石造りの建物が立ち並ぶ街並みが、瞳に映し出される。
「おぉ~! わぁあああああ~~~!!」
レトロでファンタジックな街並みは、某魔法学校小説の舞台によく似ていた。
大阪にある某テーマパークに来たみたいだ……テンション上がる~!
道を行く人々の格好は、まさしくファンタジー。布の服やら鋼の鎧やら……あの上半身ハーネスで肩パットのモヒカンはなんだ? 絶対世界観間違えてるだろ。
と、ツッコミを入れている途中で、はたと自分の格好を思い出す。
背中の開いたぴっちりレオタードに超ミニスカート、そして黒ニーソ。
……浮いてる!? なんか俺、すっごい浮いてるぞ!!?
下手したらあのモヒカンと同じレベルで浮いてる……だと!?
周りが王道ファンタジーの中、こんな実用性高めのエロゲみたいな格好してればそら浮くだろうけど……ちくせう、ビジュアル気にしすぎて世界観のことをすっかり忘れてたぜ……。
さっきからなーんか視線を感じるなぁって思ったけど、そりゃ目立ちますわ。
いやまぁ、俺の目的上、目立つのは大歓迎だけど……。
俺、元男。
野郎からじろじろ見られるの、キツイ。
「ここは、戦略的撤退!」
すたこらさっさ、と。初期スポーン地点の広場を後にする。
その間も滅茶苦茶周りからの視線を感じて大変だった。
くっ……早速心が折れそうだぜ……!
だが、これも稼げる配信者になるための第一歩。
それに、配信を始めたら他者の視線にさらされることなんて普通になるんだ。
見られていても平常心を保つ。うん、それを意識して行動することがどれだけ大切なのかを知れただけでも、この格好をした甲斐があったってもんだ。
配信者ぢからの、高まりを感じる……! なんて内心でふざけながら、俺はさっきよりも少しだけ軽くなった足取りで、街を進んでいくのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
街中の探索もしたかったけど、視線に晒されている状態になれるにはもう少しかかりそうだったので、そのままフィールドに出てみることに。
始まりの街(名前は【アインス】というらしい。まんまやんけ)の門を抜けた先には、真っ青な草原が広がっていた。
「おぉ~!」
その雄大な景色に、思わず声をあげてしまう。いやはや、絶景ですなぁ。
ちらほらとプレイヤーの姿も見ることが出来た。魔物と戦闘を行っているようだ。戦っているのは……スライムかな? なんか、青くてぷにぷにした何かが見える。
って、もうここはフィールドなんだし、ちゃんと戦える準備をしておかないと。
えっと、まずはメニューを開いてっと……。
アイテムストレージから、初期装備である『
黒色の柄の長さは今の俺の身長よりも大きい百六十センチくらい。曲線を描く刃は一メートルを超えている。片手で振り回すには少し重いかな? しっかりと両手で持つことにしよう。
なお、装備の後ろに付いている《》は装備に特殊効果が付与されていることを示しているようだ。
《》の中の言葉が効果の内容を表しており、《初心》の場合は耐久値無限と種族レベルが15になると装備できなくなるというもの。
武器の能力値も『STR+2』と最低値だし、本当に初心者用って感じ。
さて、街の門から離れて周りに誰もいないことを確認して……やるか。
大鎌を両手で構え――虚空に向かって、素振りッ!
「よっ、ほっ! そりゃぁ!」
柄をしっかり握って、振り下ろし、切り上げ、振り払う。
石突の方も使ってみたりして、基本的な動きを確認する。
大鎌という武器を自分の体になじませるような。そんな意識で、兎に角武器を振り回しまくった。
そうすること、十分ほど。
「はぁ、はぁ……いや、使いづらいな!?」
大鎌、使いづらい。
思わず、叫んでしまう程度には使いづらかった。
長物を振り回すのは重労働だし、刃が内側についてるからかなり接近しないとそもそも斬撃が当たらない。
そのうえ、懐に潜り込まれるとなにも出来なさそうだし……うん、これはかなり練習が必要そうだな。
「コツコツ頑張るかぁ……それか、武器の使い方を教えてくれる場所とかあるのかな?」
割と普通にありそうだ。現代人がゲームの中とは言え、いきなり武器を扱えるわけもないし、
ゲーム内の情報は必要最低限しか入手してないし、フィールドを少し散策したら町に戻って情報収集をするとしよう。
町の住人に話を聞いて情報をゲットするとか、中々にRPGっぽいのでは?
「さて、と……」
大鎌を肩に担ぎなおし、もう一度メニューを開く。
召喚術の確認……の、前に、この世界に来た目的の方を見ておこう。
メニューの下部、『配信』という項目の部分を開く。
すると、専用のインターフェイスが目の前に現れる。ふむふむ何々……?
「えっと、ここで登録して、細かい設定はここ。こっちでは編集が出来て、投稿した動画のまとめとかはこっち。んでもって、配信は……」
ポチポチと色々と弄り回して、何が出来るのかを見ていく。
大家さんの言う通り、実況配信機能が物凄く充実してる。
何も知らない配信初心者でも、簡単に動画を投稿できそうだし、凝ろうと思えば何処までも凝ったモノを作れそうだ。
さて、取り合えず配信機能を使ってみようかな? 配信者としてやっていくためにも、まずは一度やってみないことには始まらないし。
「登録完了……チャンネル名は……『ヴェンデッタチャンネル』っと。まんまだけど、とりあえずはこれでいいよね?」
あとはこまごまとした設定を終わらせ、配信タイトルをちょっとふざけて【あくまさもなーう"ぇんでった はじめてのはいしん】としておく。
そして、配信開始ボタンをぽちり。すると、俺のすぐそばに光る球体が現れる。
羽が生えればどこぞのナビゲート妖精にしか見えなくなるソレは、ふわふわと浮遊しながら俺の周囲を漂っていた。
これが配信用の撮影妖精、通称『カメラさん』かー。
「はえー、これでもう配信始まってるのかな? えいえい」
光る球体に顔を近づけ、つんつん、と指でつついてみる。『やめろよー』と言いたげな感じでふわふわと離れていくカメラくん。
なんか、小動物みたい。
「可愛い」
そんな感想を思い浮かべながら、小さく笑みを漏らした。
あっ、そうだ。これからお世話になるんだし、ちゃんと挨拶くらいしておこう。
「これからよろしくね、カメラくん」
そう言って、カメラくんをそっと一撫で。
ふるふる、と微妙に体を揺らしたカメラくんが、『いいってことよ』と言った気がした。
さて、配信開始も出来たことだし……。
俺は、視線を広がる草原の先へと向けた。
「初戦闘、行ってみますか!」
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