第2話 キャラクリ

 やるからには、まじめに、そして稼げるくらいにやろう。


 『C2』で配信者を始めるにあたって、俺はそんな決意を固めた。



「簡単じゃないだろうけど……百パーセント無理ってわけでもない、かな?」



 不安はある、しかし、勝算がないわけではない。


 TS病になって、いろんなものを失ってしまった俺だが、逆に手に入ったものもある。


 それは何か?



 ――――『可愛さ』、である。



 TSして幼い女の子の容姿になった俺は、それはもう輝かんばかりの美少女だった。


 サラサラの髪の毛。


 ぱっちりした瞳。


 つるつるすべすべの肌。


 桜色の唇にぷにぷにのほっぺ。


 スレンダーで整ったボディーライン。


 小柄な身長と華奢な体は、問答無用で見る者の庇護欲を掻き立てる。


 声も子供らしい甘ったるいとろとろボイスだし。


 まさしく、可愛いの化身。


 鏡で見るたびに、『は? なんだこの美少女』って思うくらいには美少女なのである。


 ネットで調べたところ、VRゲームのアバターは、多少なりとも容姿をいじれるらしいが、あまりやり過ぎると違和感がすごくなるらしい。


 リアルの容姿レベル=ゲームアバターの容姿レベルという方程式がある程度成り立ってしまうんだとか。


 しかし、この容姿なら、物凄い可愛いアバターが出来上がるに違いない。


 そして、可愛いだとか綺麗だとかは、配信者としてこの上ない武器になる。


 まず、なんといっても目を引く。


 人気になるための条件その一、注目を集めるを割と簡単にクリアできてしまう。


 それに、可愛い女の子の第一印象は、どんなひねくれた人間だろうが『可愛い』だろう。


 第一印象をプラスで始められる……うん、滅茶苦茶強い。


 流石美少女。存在レベルでチートだった。



「問題は、俺の配信者ぢからだけど……まっ、やってみなきゃわかんないよな」



 案ずるより産むが易しともいうし、何はともあれ行動行動。


 千里の道も一歩から。配信者の道もゲームスタートからってね。


 機器の設定やらゲームの基本的な情報の入手やらを行い、俺はヘッドセットを頭にかぽっと嵌めて、ベッドに寝っ転がる。


 

「ダイブ・イン」



 そんなキーワードと共に、仮想世界に足を踏み入れたのであった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 というカンジで始めた『ケイオス・クロニクル』。


 今はアバターの種族決定と容姿設定まで終了したところであり、キャラクタークリエイトはここからが本番だ。


 なお、このきわどい格好の銀髪ツインテ紅眼ロリで小生意気さ全開のかわゆい――客観的な意見であり、決して自画自賛したいわけじゃない――アバターの種族は『下級悪魔』。


 一応、レア種族であり、種族選択時にランダムを選ぶと低確率で出現する。


 近接戦闘も魔法もなんでもござれな万能戦闘種族だ。サ〇ヤ人みたいなもんである。


 ただし、NPCからの好感度が上がりにくく、聖属性という明確な弱点が存在するのがデメリット。


 え? 俺が『下級悪魔』を種族に選んだ理由? 


 せっかくのレア種族を無駄にしたくなかったし、何より見た目のインパクトがいい感じだろ?


 特徴的な角、翼、尻尾。こういった特殊パーツは、萌えポイントをグンと上げる。


 なお、初期衣装にこのえっちぃ感じのぴっちり衣装が用意されているのも、『下級悪魔』だけだったり。


 開発側に絶対にこういうの好きなヤツいるだろ。いい酒が飲めそうである。俺、酒飲めないけど。

 


「次は……職業かぁ」



 ウィンドウを操作すると画面が切り替わり、職業選択画面が出てくる。


 ふむ……やはり狙うべきは実況者として人気になれそうな職業だろう。


 派手さで言えば魔法使いか? 


 いやでも、魔法は魔法使いじゃなくても使えたはずだ。少しひねりがない。


 ならば、王道を行く戦士? 


 剣を振り回す幼女、それもまた有りだ。アンバランスな組み合わせは、時として人の目を引く。


 ウィンドウに現れる文字列を目で追いつつ、この身に相応しい職業を探していく。


 ふむ、実況者的に美味しそうな職業……お、これとかどうだろう。



「【召喚術士サモナー】……ね」



 それは、魔物を召喚し、使役して一緒に戦う職業。 


 育成ゲームのように魔物を強くできるようで、進化させたりすることでより強力な魔物を使役することが出来るとか。


 ただし、魔物を召喚する条件が厳しいらしく、さらには初期戦闘能力の低さは生産職に毛が生えた程度であり、きちんと戦えるようになるまで相当苦労する……と。


 まぁ、そこは頑張り次第だろうし、何より可愛い少女が頑張っている姿は絵になるだろう。


 それに、【召喚術士サモナー】を選んだのはそれだけじゃない。



「可愛い女の子×可愛いもふもふ……これはさいつよなのでは?」



 絵面が最高。これに限る。


 今の俺が愛くるしいにゃんことか抱えてみろ。


 ――想像しただけでヤバいだろ。可愛さ天元突破で月まで届くわ。


 意味わからんが、兎に角可愛いってことである。


 よし、じゃあ【召喚術士サモナー】に決定っと。


 しかし、悪魔にサモナーって、なんだか某有名RPGを思い出すな。


 コンゴトモ、ヨロシク……って、これは仲間になる側のセリフか、


 

「続いてはスキルね。えっと、職業スキルの《召喚術》が固定で一つ。あとは自由枠で二つか……」



 スキルも、全部確認するのが面倒なほどあった。


 この中から、最適なモノを探さねばならんのか……って、ソート機能あんじゃん。早とちり早とちり。


 取得するスキルはすでに大体決めている。


 近接戦闘用のヤツを一つと、遠距離戦闘用のヤツを一つだ。


 近接は……大剣とか斧もいいけど、悪魔っぽさを演出するなら《大鎌》スキルかな?


 厨二臭いけど、見た目のインパクトは凄まじいからね。しょうがないね。


 あと、デスサイズはロマン。異論は認めぬ!


 遠距離は……魔法だな。出来るだけ派手なのを頼む。


 やっぱり火属性か? いや、悪魔っぽさで言うなら闇属性だけど……うむむ、なーやーむーぞー?


 ほかに何かないかなー? っと見てみるが、めぼしいものは見つからなかった。


 ぐぬぬ……と頭を悩ませること数分。



「よしっ、こっち!」



 結局、《闇術》をぽちりました。


 悪魔で大鎌で闇属性の召喚術士……わぁ、厨二指数がストップ高じゃん。まぁ、そこは可愛さで中和するとしよう。


 さてさて、ステータスを確認しますか。




====================

【名前】


【性別】

 女

【種族】

 下級悪魔Lv1

【職業】

 召喚術士サモナーLv1

【スキル】

 《召喚術Lv1》《大鎌Lv1》《闇術Lv1》

【称号】

 なし


【装備】

 武器:大鎌初心 召喚の初心

 頭:なし

 上半身:あぶないレオタード《初心》

 腕:なし

 腰:あぶないスカート《初心》

 下半身:あぶないニーソ《初心》

 足:ブーツ《初心》

 アクセサリー:なし


====================

 



「ドラ〇エかよっ」



 ステータスに、我を忘れて思わず突っ込みを入れてしまった。


 なんだこの初期装備の名前! 


 いやまぁ、確かに露出度はヤバめだけどさぁ……もうちょっとこう、なかったのか? 


 まぁ、何はともあれ、あとは名前を入れればキャラクリ完了である。


 名前、名前かぁ……うーん、逆凪恵から何か連想してみるか?


 ナギ、ケイ、メグミ、めぐ〇ん……は、危険だ。なんだかとっても危険な気がする。


 逆って文字からは……逆転、逆説。


 それとも――――逆襲?


 逆襲、か。なんか、いいかも。


 ええと、リヴェンジじゃなくて、なんかかっこいい言い方があったよな? 


 確か……。



「――ヴェンデッタ」



 自分の呟きに、ふむ、と頷いてみる。


 うん、なんかいい感じじゃないか? 


 響きもかっこいいし、何よりこの見た目にピッタリな気がする。


 よし、決定だ。名前のところに【ヴェンデッタ】と打ち込み、キャラクリは終了した。



『キャラクタークリエイトの終了を確認しました。これより、『カオス・クロニクル』の世界での冒険が始まります。プレイヤー:ヴェンデッタ……


 ――――準備はよろしAre YouいですかReady?』



 終了ボタンを押すと同時に、そんな声が響いてくる。


 Are You Ready? ね……。そんなの、もちろん。



「出来てるよっ!」



 不敵に微笑み、出来る限り元気よく、気合が入るようにそう答えた。



『それでは、よき冒険を、お楽しみください』



 そんな声と共に、俺の視界が暗んでゆき――。



「…………わぁ」




 ――――気が付けば、俺はファンタジーの世界に立っていた。

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