TSしちゃったからスパチャ暮らし求めてVRゲームの実況者になります ~見た目メスガキ、頭脳は修羅~
原初
第1話 プロローグ
「よし、イイ感じにオタク共の萌えゴコロをくすぐるキャラになったんじゃないか?」
そんなことを呟く俺の目の前には、ちっこ可愛い幼女の姿が映し出されたウィンドウがあった。
さらりとした銀色の髪はあざといツインテールになっており、ぱっちりおめめは真っ赤。
容姿は天使の如く整っているが、纏う雰囲気は何処か小生意気だった。
背中の開いた赤と黒の薄いぴっちりレオタードを身に纏っている。
下半身は太ももの半分以上が露出する白いミニスカに、絶対領域を創り出す黒ニーソ。
足元は真紅の編み上げブーツ。踵には低めのヒールが。
そして、白い肌が丸見えの背中の肩甲骨あたりから蝙蝠のような羽が生えており、スカートの裾からは黒くて細くて先っぽに三角形のついた尻尾が。
ツインテールの付け根辺りからは一対の角が生え、ちっちゃなお口からは八重歯が覗いている。
この幼女こそが、俺――逆凪恵(さかなぎ けい)のもう一つの姿。
カッコつけずに言うのであれば、とあるオンラインゲームのアバターである。
「いやぁ、可愛くできたなぁ……リアルの姿から、ほとんどいじってないんだけどなぁ」
ハッ、と乾いた笑いが漏れた。
そして、現実の俺の姿と、髪色と目の色、そして翼や尻尾を除けばほとんど変わらない容姿をしている。
俺の性別? 語り口調から分かる通り、男だよ。生まれたときからイチモツついとったわ。
……今は、そこに『元』ってついちゃうんだけどな。
つい、一月ほど前に起きた驚愕の出来事。
それこそが、俺の性別が元男になってしまった原因であり。
――――このVRMMORPG『ケイオス・クロニクル』を始めたきっかけでもあった。
◆ ◆ ◆
突発性性別反転症候群――通称、『TS病』。
ン百万人に一人という確率で発症するこの病は、その名の通りある日突然性別が変わってしまうというモノ。
ホルモンバランスがどうとか遺伝子疾患があーだとか色々言われているが、詳しいことは良く分かっていないらしい。
ただ一つ、この病に治療法がなく、性別が変わってしまった者は一生そのままだということを除けば。
結論から言えば、俺はその病に掛かってしまった。
朝起きたら、身体が女――それも幼女のモノに変わっていたのだ。あさおん、というやつである。
驚いた。
そらもう、めっちゃびっくりした。
住んでいる六畳一間のボロアパート中に響き渡る悲鳴を上げるレベルで。
その後、騒ぎを聞きつけた大家さんに怒られたり、幼女の姿になっていることを驚かれたり、そのまま病院に連れていかれたりして、TS病だということが判明した。
そっからはTS病の患者として国に届けを出したり、住民票やらなんやらを書き換えたりとあわただしく過ごし……大体一か月くらいで、やっと一息つくことが出来た。
女としての暮らし方や注意点などは、大家さんがいろいろと教えてくれた。もう足向けて眠れない……。
なお、大家さんは娘さんがいる美人の奥様だったりする。
お風呂の入り方教えてもらう時とか、心臓ばっくばくでヤバかったわ。大家さん、スタイル半端なかったし……。
まぁ、それは置いといて。
一応、女として生きていく決意も固まり(半ば諦め)、さぁ、新生活を始めよう……という所で、更なる問題が俺に降りかかってきた。
仕事が、なくなったのだ。
より正確に言えば、バイトをクビになったのである。
いやまぁ、そりゃあねぇ? 一か月も休めば、バイトも首になりますわ。
でもさ? なんなのこの仕打ち。
世界さん世界さん、もしかしてですけど、俺のこと嫌いですか……?
って、そんなことを言っている場合じゃない。
働けなくなってしまえば、無論だが生活が出来なくなる。
一応、TS病に罹ってしまったことで、国から保険が降りているが、それだって十分な量あるわけじゃない。
ただでさえ、中卒の俺を雇ってくれる人なんてほとんどいないというのに……。
「どうしよう……」
とまぁ、そんな感じで途方に暮れていると、そこに現れたのは
にこにこ笑顔で俺の部屋に入ってきた大家さんは、はい、と悩む俺に段ボール箱を渡してきた。
促されるままに開けてみると、入っていたのはヘルメットとバイザーを合体させたような、メカメカしい機械と、一本のゲームソフト。
……えっと。
「……なんですか、これ?」
「これはね、『ケイオス・クロニクル』……通称、『C2』をやるためのVR機器と、『C2』のソフトだよ~」
「え……? それって、連日ネットで話題になってる……あの?」
「そそ、それそれ」
そう言って微笑む大家さん。
――『ケイオス・クロニクル』。
最新にして最高のVRMMORPGと呼ばれる、正式サービスが確か一年くらい前に始まった人気タイトルだ。
体験した者が口をそろえて『神ゲー』と称し、その魅力は「言葉に出来ない。体験しないと分からない。そのくらいやばい」と語彙力が敗北したコメントが出るほど。
内容は剣と魔法の異世界ファンタジーらしい。PVを見る限り、確かに凄そうな感じだった。
軽く言っているが、確か人気過ぎて生産が追い付いていないんじゃなかったっけ……?
「それ、恵ちゃんにあげるね?」
「……は?」
なんか今、信じられないことを言いませんでした?
「大家さん……? 俺、耳がおかしくなりましたかね? なんか、このゲームをあげるとか聞こえたんですけど……」
「恵ちゃんの耳は正常だよ~。娘と一緒に予約したのは良いんだけど、わたしは仕事が忙しくてプレイどころじゃなくなっちゃったの。でも、じっと眠らせておくのもなんだから、恵ちゃんにあげちゃおうかなって~」
「そ、そんな! もらえませんよこんな高価なモノ! ただでさえいろいろとお世話になってるのに、これ以上なんて……」
「いいっていいって~。恵ちゃんは娘の面倒を見てくれたりもしたし、わたしが困ってることがあったらすぐに助けてくれたでしょ~? そのお礼、みたいな感じだよ~」
そう言われ、VR機器とゲームカセットを押し付けられてしまった。大家さんの笑顔は鉄壁で、俺が何を言おうと絶対に己の意見は変えないであろうという凄みがあった。
えぇ……これって確か、十万以上するんじゃなかったっけ……?
確かに大家さんの手伝いは良くしてたけど、本当に些細なことだぞ? ごみ捨てとか掃除とか屋根の修理とか買い出しとか……そんくらい。
「ほ、本当にいいんですか……?」
「いいって言ってるでしょ~? もう、恵ちゃんは真面目さんなんだから~。それに、打算もちゃんとあるんだよ~?」
「打算?」
「娘も『C2』をやってるんだけど~、一緒に遊んでくれないかな~って。知ってる人と一緒の方が、わたしも安心だし~」
「な、なるほど……」
そういう理由があるなら……まぁ……いやでも、貰いすぎなのには変わりないんじゃないんか?
俺がまだ遠慮しているのを察したのか、大家さんがそっと顔を近づけ、俺の耳元でささやく。
「……実は、このゲームって配信機能がすごく充実してるみたいで~、有名配信者になれば投げ銭機能でそこらのサラリーマンよりも稼げるらしいよ~。今の恵ちゃんは物凄い美少女さんだし、すぐに人気者になれるんじゃないかなぁ~?」
それは正しく、仕事を無くした俺への悪魔の囁きだった。
気が付けば、俺の手元にVR機器とゲームソフトがあり、大家さんは凄くいい笑顔を浮かべながら去っていくところだった。
こうして俺は『ケイオス・クロニクル』をプレイする運びとなったのだった。
……完全に甘言に踊らされてるけど、まぁ気にしないことにする。
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