三十七話:おやすみ
…………え?
『もう少ししか力が無いんだ。思いの外、この世界での回復量が少なくて。今までは
限界?
『ボクが一緒に居ると、キミに迷惑がかかるかもしれない。今までは何が来ても、ボクが対処出来ただろうから、大丈夫だった。けど、休眠状態になるこれからは、そうじゃない。だから、この辺りで御別れしようと思うんだ』
迷惑?
『コロッケを出す神威はキミに譲ってあるよ。ほら、出てくる時にすこし疲れたりしない?』
ううん。そんなことより――
『疲れないなら、よかった。でも、無理はダメだよ。赤べえ達がいつも側にいる訳じゃないんだから』
うん。それより――
『若葉、この世界を楽しんで。自分でも無責任だと思う。でもこの世界には、若葉が知りたいと思っている事よりもずっとずっとずっと、知らない事がある。それを見て、感じて、楽しんで』
それよりもエルピ。
『それよりもって……何?』
僕の中から出られるの?
『……』
……。
『出られるよ』
カパっと勝手に口が開いて、そこからとっても小さな光が出てくる。
太陽の光よりも赤っぽくて、月の光よりも黄色っぽい。
とっても綺麗だけれど、とっても小さくて、光も空一面に瞬いている碧の光や白の光とくらべると弱い。
今にも消えちゃいそうな光。
僕の口から出てきた光は、僕の頭の周りをふわふわとゆっくり一周して、目の前の宙で止まった。
僕の目には、その宙に浮いている光と僕とを繋ぐ淡い緑色の
もしかして、エルピ?
『ほら、出られたでしょ?』
エルピみたい。
『この姿は……えっと、所謂省エネモードなんだ。力が足りなくて、ちゃんと顕現出来ない時のやつで……ま、まあ、そう言う事だから、本来の姿はもう少しマシ……でもないかぁ。造形師がアレだし……』
エルピがなんだかいっぱいしゃべっている。
けれど、しょうえねなんとかとか、けんげんとか、よくわかんないや。
とりあえず、ちょっと近づいて……パクッと。
『……え』
うーん、口に入れたのはいいんだけれど、口になにかが入っているような感じはしないし、食べちゃった感じもしない。
不思議ー。
『不思議ーって、折角外に出たのに、何で戻すのさ!』
エルピの声。
それに、エルピとの縁が僕の中にちゃん感じられる。
エルピ!
ちゃんと僕の中にもどったんだね! よかったー!
エルピが口から出てきたから、口の中に入れたんだけれど、すこし心配だったんだー!
『どういう理屈? いやそれより、ボクが居るとキミに迷惑がかかるんだ、だから』
僕だってエルピにいっぱい助けてもらっているから、おたがい様ってやつだね!
『御互い様で片付けられない位の凄い迷惑なの!』
そうなんだ!
だったらそうならないように、一緒にがんばろうね!
『そう言う事じゃなくて!』
そんなことより、エルピ。
『何?』
僕はエルピと一緒にいたいな!
『!』
僕が知らない世界を見て、感じて、たのしむだっけ?
それはとっても素敵だと思うよ!
でも、それは――
エルピ、僕はキミと
『……ボクがいたら迷惑』
じゃないよ。
僕がエルピがいないとダメなの。
『……そっか』
縁を伝ってエルピから流れてくる気持ち。
すこし困っているけれど、いっぱいのうれしい気持ち。
よかった。エルピ、元気になったみたい。
それから、新しく出来るようになった魔法のこと、狼さん達のこと、狼さん達でも食べられるものを森の中で探しているけれどなかなか見つけられないこと、ほかにもたくさんたくさん話した。
エルピも見ていた分、いっぱい僕に言いたいことがあったみたい。
もっと周りを見てとか、考えてから行動してとか、いっぱい言われちゃった。
そして、話し疲れて、まぶたが重たく感じ始めた頃。
『……世界樹の根』
エルピが小さく、消えそうな声でそう言った。
根っこ?
それに世界樹って、このうしろの樹だよね?
その根っこがどうしたんだろう?
樹の下を掘ってみればわかるかな?
すこしうしろを向いてそこに立つ大きな樹を見上げる。
折れたところが空といい感じに繋がって見えて、まるで白や碧の光を実らせているみたい。
見ていると、とっても綺麗で……おっとっと。
慌ててうしろに傾いていた頭をもどす。
あぶないあぶない。
寝ちゃうところだった。
『世界樹は世界中に根を張っているけど、その主根は五本。それは一本を除いて、東西南北と四方に伸びて、いた』
へー。こんなに大きな樹だし、根っこも大きいんだろうね。
『今四方に伸びた根は、腐敗し、途切れ、その機能を、停止、している』
わ、根腐れってやつだー。
たいへんだー………あ! あぶなかった。
いつの間にか、足元の苔を見ていたよ。
もう半分寝ちゃってた!
今日はエルピよりもあとに寝るって決めたのに!
『その根を、一本をでも、復活させることが、出来れ、ば』
ふっかつ?
また元気にするってこと?
出来るの?
頭をぶんぶんと。
眠気を振り払いながら、エルピの次の言葉を待つ。
『碑を探して。それが、根の、先端』
根っこを探すために、いしぶみ、を探す。
うんうん。
頷きがだんだんと大きくなって、寝床の石に鼻をこつんと。
苔があったけれど、それでも痛い。
でも、そのおかげで、目は覚めた。
『若葉の、力で、世界樹に、もう一度、繋げ、て』
僕の力で繋げる。
そうすると……どうなるの?
『東が、地続きで、行ける はず』
東だね。わかった!
で、根っこをふっかつさせたら、どうなるの?
またエルピとお話出来るようになる?
『若葉』
……!
『これが最後、かも知れない、から、言わせ、て』
……うん。
『ありがとう』
その言葉を残して、エルピは眠った。
すこしさびしいけれど、エルピはちゃんとここに、僕の中にいる。
それに、最後にはさせない、させないようにする、から。
だから今は――
おやすみ、エルピ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます