三十六話:ずっと聞きたかった声そして
エルピと一緒に見たかったなぁ。
そう思ったら、なんだか胸の辺りが苦しくなってきた。
かなしいのかな。
さびしいのかな。
ううん
たぶん、どっちも。
どっちもだよ。
光から目をそむける。
下を向いてまた歩き始める。
すこし前の地面を見て歩き続けていると、いつの間にか、住処にしている大きな樹の下に着いていた。
ゆっくりと顔を上げる。
大きな樹は、光が瞬く空の中で影の様に、その存在感を放っていた。
たくさんのハルサキ草が光を発してゆらゆらと揺れている。
そのやわらかな光は、見ているとなんだか落ち着いてくる。
それに不思議と、胸の苦しさもなくなっていた。
いつもの石の上にまるくなって、また空を見上げる。
やっぱり、もう苦しくない。
むしろ、とっても落ち着く。
ハルサキ草の透き通った香りに樹のあったかい香り。
石に生えている苔がふかふかで気持ちいい。
みんなみんな、励ましてくれているみたい。
大丈夫だよ。
僕、がんばれるよ。
そう心の中でつぶやいて、まぶたを閉じた。
――若葉
!
エルピ!
跳び上がる様に目を覚ますと、周りを見渡して、知らないその姿を探す。
大丈夫?!
ぜんぜんお話出来なかったから、心配していたんだよ?!
日が出ている時もだけれど、夜になればより静かな森の中で、胸の音がだんだん大きく、速くなる。
もしかしたら、さっきの声は気のせいだったのかもしれない。
そんなこと、考えたくなかった。
けれど、どうしても頭の中に一筋の不安が残る。
だから、
『若葉、これから話す三つは若葉にとって、とても大切な事だから、ちゃんと聞いてね』
そう、エルピが言った時、その言葉の意味を考えるよりも先に、ほっとした。
『まず若葉、キミをこの世界に連れて来たのはボクなんだ』
あ、そうなんだ!
エルピはなんだか大切なことみたいに言ったけれど、僕にはそれのどこが大切なのか、よくわからない。
それよりも、エルピの声が聞けてうれしくて、もっとエルピとお話したいと思った。
『そう。だから、キミが
?
エルピを恨む?
生まれ変わる場所があっちの世界じゃなかったから?
なんで?
『何でって……ボクのせいで…………』
エルピのせい?
もしかして、エルピは僕があっちの世界で生まれ変わりたかったって思っているのかな?
もしあっちの世界で生まれ変わったら、きっとみんなとまたお話出来るだろうし、“ときこ”にも会える。
でも、それはもう大丈夫って言ったのに。
エルピはやさしいなぁ。
僕の代わりに悩んでくれるやさしい友達に、念で思いを伝える。
エルピのおかげで赤べえ達にも会えたし、また走ることが出来るんだよ! ありがとうエルピ!
言霊や魔法って最初はとってもむずかしかったけれど、とってもたのしいね! ありがとうエルピ!
木の実はないけれど、普通の木もハルサキ草も僕の体の下の苔も、とっても活き活きとしているし、こんなに綺麗な空気はもう吸えないかなって思っていたんだ! ありがとうエルピ!
それに、がんばっていたらあっちの世界に行ける日が来るかもしれないよ!
うん! きっと行ける!
だから大丈夫だよ!
ありがとうエルピ!
僕は今とってもたのしいよ!
『……うん。うん、うん。……ありがとう、若葉』
ずずずっと鼻をすするような音がする。
でも、かなしいって気持ちは伝わってこない。
むしろ、うれしいって気持ちが伝わって来る。
よかった。僕の気持ち、ちゃんとエルピに伝わったみたい。
『……じゃあ、もう一つ。若葉の力……はもういいか。いい若葉? 赤べえが言っていた事を否定する訳じゃないけれど、これだけは言わせて』
元気になったエルピが、また大切な話をするみたい。
次の言葉を待つ間に、寝転んだ体勢から、自然と座るかたちになる。
『神威は
エルピが真剣な声で言うものだから、すこし身構えちゃったけれど、とってもかんたんなことだった。
だって、自分を信じることでしょ?
とってもかんたん!
『もし、もし強く願い続けても、信じ続けても打ち破れない壁が目の前に現れたら、後ろの――この世界樹に、触って。今は触っても何も起こらないと思うけれど、それが
わかった! そうする!
でも、赤べえ達やエルピと力をあわせたら、どんなこともへっちゃらだと思うよ!
ふふっとエルピの笑い声が聞こえた。
あ、もっと元気になったかな?
『最後に。ありがとう若葉。ボクを受け入れてくれて。この世界に連れて来た事を許してくれて。この世界って言っても、まだこの森の中だけだけれど、楽しんでくれて。ボクが話せない間、毎日話しかけてくれて。言霊に魔法、毎日練習をしている所、ずっと見ていたよ。身体強化も様になってきているね。すごいよ若葉――』
もうボクが居なくても大丈夫だよね
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