三十三話:数百回目の訓練


 ふわふわの雲が一つだけ浮いた綺麗な青い空。

 また昇るのが早くなってきた太陽の下、広場で今日も訓練中。


 軽い足取りで僕は狼先生に歩み寄る。


 あ、前すこし左、真上、うしろすこし左。


 鼻先、尻尾、右耳に魔力をあつめて、ぐっとしてぽん。

 飛び出した魔力の球達は、それぞれが空中で瞬時に透明な壁になって、僕へと向かって来ていた透明な棒を弾いた。


 次は、右、そのすこしうしろ、前すこし左に三つ、真上、うしろ。

 前からくる三つは避けようっと。


 体中の魔力の流れを速くしていくついでに、尻尾に魔力をあつめて、尻尾を右に振って、ぐっとしてぽん。

 尻尾から放たれた魔力の球は瞬時に壁になって、右へと勢いよく飛んでいく。

 そこに――


「よこにひろがって!」


 言霊を受けて、壁が横に伸びる。

 そこへドドドン!と棒が三つぶつかると、だんだんとひびが入って、壁が割れる。

 でも、それで大丈夫。


 思いっきり地面を蹴って、走り出す。

 勢いを失ったうしろの三つは、これでもう追いつけない。

 枝分かれをしても大丈夫。

 問題はこれから。


 走り出した僕に反応して、前から迫っていた三つの動きが変化する。

 前を塞ぐ様に一つ。

 左に行けない様に一つ。

 僕を狙っている一つ。

 そのどれもが枝分かれを繰り返して、一方からだったものが二方へ、三方へ……。

 真上からきていたものも加わって、四方八方から僕へと迫る。


 それを魔力感知で見切って、出来るだけ走ったままで小さく避ける。

 避けられないものは、当たる瞬間だけ風になって、躱す。


 パシッ


 避けられると思っていた一本――枝分かれを繰り返して、ずいぶんと細くなった棒の一本が、枝分かれしている大元から切れながら僕の頬を掠めた。


 まだぜんぶを見切れてはいないみたい。

 もっと、もっとがんばらないと。


 自然と走る速さが上がる。


 どんどん増えていく棒の中、魔力感知で狼先生との間に、大きなまるいなにかがみえる。

 それは、たくさんの棒が絡まって出来たみたいで、まるで大きな繭の様。

 前足で触れようとジャンプすると、トカゲさんが自分の尻尾を切る様に、上で繭を吊っていた棒が切れて、繭が地面に落ちる。


 あ、まずいかも。


 鼻先に魔力をあつめて、ぐっとしてぽん。

 僕を覆う様に現れた壁に、縁を伸ばす。

 はっきりと力が抜ける感覚。

 でも、これで――


 地面に落ちた繭は破裂し、細かくなった棒の破片が四散する。

 破片が次々と壁にぶつかって、壁がひび割れる。

 けれど、ひび割れるだけで、壊れない。


 縁で繋ぎとめているからね、このくらいはへっちゃら。


 でも、


 空を見上げる。

 目で見ると、広がる青と一つの白。

 魔力感知でみると、繭のおまけとばかりに、蜘蛛の巣の様に張り巡らされた棒の塊が空から落ちてきていた。


 ぜったいに避けないと。


 咄嗟に壁への魔力を切って消し、尻尾に魔力をあつめて、ばびゅーんと。


 尻尾から出た魔力は風を生み出して、びゅわーと僕を前へと飛ばす。

 狼先生との縁を引っ張って、飛ぶ方向をしっかりと狼先生の方へ。

 狼先生の周りなら、あの蜘蛛の巣は大丈夫。

 それに――


 僕を迎え撃つ様に伸ばされた棒。

 枝分かれをしていないのか、走りやすそうな太さ。


 ちょうどいいね。


 ぐっとしてぽん。


 作った小さな壁を足場に、棒の向かう先のすこし上へ。

 棒に足がついたら、また走り出す。


 ボッと足場にしていた壁に棒がぶつかった音がして、うしろからドドドドドドと音が近づいてくる。

 ふと気づけば、前からも。


 足場にしている棒から、棘みたいに棒が枝分かれしていっているみたい。

 うしろはいいけれど、前はちょっとこまっちゃうから、切らないと。


 走りながら足が棒に触れる瞬間に、棒の中の縁に意識を傾ける。

 そして枝分かれをして、僕の前で伸びてきている棒の根元を切っていく。

 これで足場は大丈夫。

 あとは、狼先生を覆っている壁から伸びてきている棒を躱し続ければ――!


 左に体を逸らしたその次には、影がうしろから僕を追い越していった。

 影は立ちはだかる様に、すこし先の棒の上で止まると、影の中からするりと寝坊助狼さんが姿を現した。

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