三十一話:頭が熱い!


「尻尾をこう、突き刺すのだ」


 そう言って、いつもとは違って僕と同じ目の高さの赤べえが、地面に尻尾を突き刺す。


「突き刺したら、尻尾の先より魔力を広げ、土壁を生み出す。これが、我が先の訓練で行った事だな」


『へー』


 ひりひりしていたおしりも、赤べえの魔法ですっかり元気!

 今は木の下に座って、赤べえとお話しているの!

 それにしても、尻尾って地面に刺せるんだねー、知らなかったよ!


 尻尾の先を地面に……地面にー?

 ありゃ。僕の尻尾の先は、下を向いてくれないみたい。


「地中で魔力を広げる事で、魔法行使の発覚と対処を遅らせる事が出来るのだ、覚えておくといい」


『わかった!』


 いろんな工夫があるみたいだね。

 僕もなにか工夫出来ることを探してみようかな。


「さて、次はお主の力について少し話そう。と言っても、我から話す事は一つだけだ。大凡の効果と行使する事で消耗する体力。それを知る事が大切だ。これさえ分かれば、力を行使する事が出来る回数がわかる。力を使い切り、突然倒れるような事は防げるはずだ」


 赤べえの言葉にうなずいて、頭の中で自分の力について整理する。


 体から力が抜ける感覚を覚えた時って、ぜんぶ縁を使っている時だったんだよね。

 あ、風になった時もだったっけ?

 でもそんな感覚はなかったような……まあいっか!


 風になって、倒れるまで走った時とくらべて、縁を繋げることは、すこし力を使っている感じだね。

 縁に力を入れて、太くする時も、すこしだったはず。

 縁を切る時……は、ちょっぴりだったかな?

 繋げる時よりも、疲れなかったはず。

 これくらいかな?


 整理したことを念で赤べえに伝える。


「ふむ。若葉、もう一度言おう。体力の消耗具合をより明確にする必要がある。具体的には、回数だ。何回なら倒れずに行使出来るか、それを知る事が最も大切だ」


 回数?

 そんなこと言われても、ためしたことないから……ううん、ためしたことがないからって、諦めちゃダメだよね。

 考えてみよう!


 ……うーん。

 縁を繋げることはたくさん出来るし、すこし休んでからなら、もっとたくさん出来るから……えーっと…………たくさん?


 うんうんと唸りながら考えるけれど、頭が横に倒れていくばかりで、答えが出ない。

 なんだか頭が熱くなってきた気がする。

 その姿を見た赤べえも、つられた様に首を傾げて、口を開く。


「大凡何千万回や、継続使用して約何十日など、感覚的なものでよい。お主が分かりさえすればそれでよいのだ」


『うん……』


 つづけてちからをつかってなんじゅうにち……おおよそなんぜんまんかい…………。


 頭がどんどん熱くなって、なんだか破裂しちゃいそう。

 そういえば、ニワトリさんの卵って、そのまま中が光る不思議な箱……えっと、れんじだっけ? それに入れたら、あぶないって“ときこ”が言っていたなぁ。

 たしか、爆発するんだっけ?

 よく遊びに来る男の子が昔やっちゃったみたいで、笑っていたなぁ。

 なんて名前の子だったっけ?


「今分からずともよい。この森を出る前までなら、な」


『……! うん!』


 そうだよね!

 毎日考えていたら、きっとわかるようになるよね!

 ううん、わかるようにしよう!


 ぶんぶんと頭をふって、熱を冷ます。

 その様子を見て、赤べえの目がすこし笑った様に見えた。


「それにしても、縁とは何とも不可思議なものだな。お主が引っ張っている時、あの時のみ、我も縁を見て、お主を引っ張る事が出来た。見る前は、まさか我にあのようなものが付いているとは思わなんだ」


 そう言って、赤べえが僕のうしろを見渡して、やさしく笑う。

 僕と赤べえの周りには、狼さん達が寝っ転がったり、じゃれていたり、思い思いに休んでいる。


『不思議だよねー』


 赤べえが僕を引っ張れたのは、僕が縁を伸びないようにしていたからなの!

 縁はいろんなものの間にあるんだけれど、その繋がった二つって、いつも同じ距離にあるわけじゃないんだよね。

 ほら、僕だって動けるし。

 だから、縁はぐぐーっと伸びてくれるの。

 でも、赤べえを引っ張りたいのに、縁が伸びちゃったら、引っ張っても赤べえはそのまま動けるよね。

 だから、縁が伸びないようにして、引っ張る。

 すると、赤べえも引っ張られて、動きづらくなる。

 でも、縁を伸びないようにしているから、赤べえが引っ張ったら、僕も引っ張られちゃうの! おもしろいでしょ!

 どうして縁を引っ張ると、引っ張られているひとに縁が見えるようになることがあるのかは、僕もわからないんだけれどね!


「なんだ、お主にも全ては分からないのか?」


『うん!』


「そうかそうか、何とも難儀な力だ」


 本当に不思議な力なんだ。

 生まれたころからあるけれど、わからないことの方が多い。

 でも大丈夫! わからないことは、わかっていけばいいんだもんね!

 よーし! 毎日頭が熱くならないくらいにがんばろう!


「さて、訓練を再開するとしよう」


 のしっと赤べえが起き上がると、狼さん達も続々と起き上がる。

 僕も起きよ……ちょ、ちょっと、狼さん? 起きて…………起きてー!


「森の中を走る事にまだ慣れておらぬもの、気配を消す事にまだ慣れておらぬものは我に続け。それ以外は、若葉と訓練だ」


 狼さん達を見回していた赤べえが僕の方を向く。


「若葉、次の訓練は力の瞬間的な行使だ。お主の力は汎用性も高く、強力だ。だが、必要の無い場面で力を行使し続けていれば、生き死にの瀬戸際で必ずや響く。故に、力を適切な場面に適切な時間使う事を感覚として覚えよ」


 なんだかたいへんそうだけれど、とにかく、ぱっぱっと使ったり使わなかったりすればいいんだよね?


『わかった!』


 赤べえは頷いて、森の中へと入っていった。

 多くの狼さん達がそれに続く。

 そういえば、赤べは元の大きさにもどらないで行っちゃったけれど、大丈夫なのかな?


 ふっと背中が軽くなる。


 赤べえと狼さん達を見送って、周りを見渡す。

 広場に残ったのは、狼先生と、いつも僕の背中に頭をのせてくる狼さんと、その狼さんにいつも振り回されている狼さん。

 さんにん!


『準備はいい?』


 狼先生が一歩前に出て、念で聞いてくる。

 それはもちろん――


『うん!』


 よーし! がんばるぞー!

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