二十九話:小さくなっちゃった!


 広場に着く。

 広場には赤べえ達があつまっていた。

 今日はみんな木の下で休んでいないで、広場のまんなかにあつまっているみたい。


『みんなおはよう!』


 と挨拶をすると、赤べえが「うむ。来たか」と頷いて、狼さん達から念で『おはよー』って返事がくる。

 毎日のことだけれど、やっぱりうれしい。

 ってあれれ?狼さん達が木の下の方へ歩いて行っちゃった。


「丁度良い時に来たな。今し方あの者達の訓練が終わり、お主を呼びに行こうかと思っていた所だ」


 あ、そうだったんだ!

 って、それはそうだよね。

 僕が起きたのはだいぶ遅くみたいだし。

 なんてったって、起きた時にはもう太陽が空高くに昇っていたしね。

 今はお昼すこし前くらいなのかな?

 ね? エルピ?


 ……あれ? エルピ?


「早速始めたい。準備はいいか?」


 あ、


『うん! 大丈夫!』


 エルピの返事がないのはすこし気になる。

 けれど、昨日みたいに寝ているのかも。

 たぶん大丈夫だよね。


 赤べえが僕からすこし距離を取る。


「若葉、昨日さくじつ我はお主には同期が必要だと言ったな。前の世界の感覚と今の感覚の差を明らかにし、今の限界と可能性を知れとも」


 赤べえの言葉に頷く。


「まずは我が広場の中で姿を隠し、走り回る。お主は全力で我を見付け、捕まえよ」


 かくれんぼと追いかけっこ!

 今までなん回もみんなと追いかけっこやかくれんぼをして、時には赤べえ対僕と狼さん達ってこともあったけれど、赤べえと一対一でのかくれんぼと追いかけっこを同時にするのは初めて!

 たのしみー!


「では始めるぞ?」


『うん!』


 僕が頷くのを見て、赤べえはまた口を開ける。


「始め――」


 開始の合図を広場に響かせて、赤べえの姿が消えた。

 周りを見渡すけれど、見つからなくて、魔力感知で探すけれど、みつからな――



 わぁ!



 なにかに足をすくわれて、転ぶ。


「魔力感知に集中し、却って危機感が足りん。それに魔力無き世界で生きていたのだろう? ならば、お主が生まれ変わる前の感覚を思い出す為にも、魔力感知を今は忘れよ」


 赤べえの声がする。

 魔力を使わないで、前の世界の感覚を思い出す。

 むずかしそうだけれど、やってみよう!

 そしたら、なにかわかるかも!


 すぐに起き上がって、広場の端っこに向かって走り出す。


 赤べえ臭いは……するけれど、わからない。

 足音……立ち止まっていた時もだけれど、ぜんぜんしない。

 気配……あれ? 赤べえがいるのかさえわかんないし、狼さん達もたぶんうしろってくらいあいまい。

 ……まあいっか!


 広場を囲む様に生えている普通の木の一つに狙いをつけて、ジャンプする。

 木の側面を蹴って、宙でうしろ回り。


 広場を僕から伸びる緑色の光を帯びた糸――縁が視界に入る。

 一本は大きな樹で、このたくさんのは狼さん達。

 同じ方向に伸びているからわかりにくいけれど、狼さん達に続く縁の中で動いている縁が――


 赤べえ。


 見つけた!

 目では見えないんだね。

 不思議ー。


 赤べえに繋がる縁を太くする。

 力がすこし抜ける感覚。

 でも、これで今日は見わけがつくようになった。


 地面に着地。

 広場に背を向けたまま、うしろの赤べえを縁で確認。

 あ、赤べえがまっすぐ僕に向かって近づいてきている。

 速さからして、歩いているのかな?

 走り回るって言っていなかったっけ?

 まあいっか! とにかく、これはチャンス!


 ふり向かないで、キョロキョロと周りを探すふりをして、赤べえを待つ。

 近づいて来たところをどん! ってつかまえるの!

 まだかな、まだかな…………あれ? 来ない?


「気付いているのだろう?」


 あちゃー。

 ばれていたみたい。


 ふり返ると、十歩ほど先に立つ赤べえの姿。


「我を見付けたな。なら――」


 そう言って、赤べえは頭と尻尾を自分のお腹の下に入れて、まる・・になった。

 さっきまであった頭や首、尻尾の境はなくなって・・・・・、まる。

 まるで毛玉みたい。


 毛玉からふわっと赤黒くて、小さくて赤いなにかが霧の様に出て来て、森の中へ、空へと散っていく。

 そのなにかが散っていくにつれて、毛玉は小さくなっていく。


「これくらいでよいだろうか」


 すっかり小さくなった毛玉から、尻尾と首が伸びて、頭が出てくる。

 赤べえの声。

 赤べえの顔。

 どこから見ても赤べえ。


 でも、


「これでお主と同じくらいの大きさだな。若葉」


 僕と同じくらいに、小さくなっちゃった!

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