二十二話:思っていたよりもたいへん!
どこかを走っている。
前には黒い影が走っていて、僕はそれを追いかけている。
だれだっけ?
あれ、おかしいな。
僕は今走っている場所を知っているはず。
私は目の前を走る
ど忘れしちゃったかな。
まあいっか!
忘れちゃったなら、また新しく始めればいいもんね!
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
目を覚ますと、まだ太陽が上がっていない白い空が見えた。
なんだろう。
だんだんと青を帯びてくる空をぼーっと見上げながら、考える。
なんだろう。
なにか夢をみていた気がする。
でも、それがどんな夢だったのか思い出せない。
なんだろう。
あ
今日は太陽よりはやく起きれたね。
やった。
ゆっくりと起き上がって……あれ?
石。
ちゃんと石に登ってから眠ったんだ……えらい。
ゆっくりぐぐぐと伸び。
……うん。まだ眠いや。
もう一度、ぐぐぐ……。
うん! 起きた!
『おはよう若葉』
あ、エルピ! おはよう!
今日もがんばろうね!
『程々に、ね』
うん!
やっとこさ空を昇って来た太陽の光が木々の間から溢れて、僕やうしろの樹を照らし始めた。
ふふーん、今日は僕が先に起きたんだよー。
得意気に胸を張る僕をよそに、太陽はさらに空を昇っていく。
うー、あったかい!
なんだか太陽の光にあたっていると、元気出て来るよね!
『それは若葉だけに、光合成しているからだよ』
こうごうせい?
そうなんだ!
『どうしよう、すんなりと受け入れられちゃった』
エルピ、どうしたんだろう?
悩みごと?
でもたいへん! って感じじゃないし、まあいっか!
それよりも、今日も赤べえ達と森の中を追いかけっこするんだよね。
どうやって狼さん達から逃げようかな。
どうやって赤べえを見つけようかな。
わぁ! 今日も朝からわくわくしてきた!
って……おおー。
『若葉? どうしたの?』
そういえば、前はエルピの言っていることが途切れ途切れで聞こえていたのに、今は途切れていないなーって!
『え、今頃』
そうなの?
『ま、まあ、まだ途切れる事はあるけど、ね。ほら、今みたいに』
おー! すごい!
『どこが?』
どこって、すごいものはすごいんだよね。
もうすっかり空に昇った太陽も、すごいって言っているよ!たぶん!
『ねえ、どこが?』
ぃよし!今日もがんばろうエルピ!
『……おー、おー、頑張ろおー』
わー! エルピやる気だね!
『若葉のお陰だよ』
えへへ。
『皮肉が通じないのは、わかっていたはず、なのに……』
ぴょんと寝床の石から降りる。
着地した場所の周りに咲いていたハルサキ草がふわりと揺れる。
そういえば、夜もハルサキ草の香りがしていたんだよね。
色んな花があるけれど、ハルサキ草は朝も夜もいい香り。
お昼に休んでいるのかな?
今度たしかめてみようかな。
ハルサキ草の中を抜けて、住処から出て、広場に向かう。
あ、せっかくだから、広場に向かいながら、魔力の球をぐにょんぐにょんしようっと!
『いい心掛けだとは思う、けど、折角……?』
うん! せっかく!
今日は……右耳!
体の中の魔力を右耳にあつめて……ぐっとして、ぽーん!
右耳から出てきた魔力の球は、ゆったりと宙にすこし昇って、またゆっくりと僕の頭よりすこし高い宙まで降りてきてとまった。
鼻先から出した魔力の球よりもすこし長いまる?
どんぐりみたい!
えっと、このどんぐり魔力の球を歩きながらぐにょんぐにょんしたいんだけれど、出来るかな。
やってみよう。
まず一歩。
――あ、
すぐにわかった。
前に出かかっていた足をもどして、右に一歩、左に二歩。
やっぱり!
僕が動いても、魔力の球は宙に浮いてその場から動かないみたい。
もっと、こう、僕が歩いたら、それにつられて魔力の球も動くのかと……あれれ?
今度は僕が頭を動かすと、魔力の球も僕の顔の前に位置する様に動き始めた。
うーん、動いたのはうれしいんだけれど、今度は前が気になる。
なんだか、すぐ近くに壁があるみたいな感覚。
魔力の球は目で見えないから、前が見えないわけじゃないんだけれど、もうすこし離れてくれると……あ、離れてくれた。
いい魔力の球さんだね。
『悪い魔力球とは?』
よーし、あとは歩きながらぐにょんぐにょんするだけ!
がんばろう!
『いつもの事だけど、最初から上手には出来なくていい、から、ゆっくりとだよ』
わかった!
えっと、歩いて……魔力の球をコロッケの形にして……歩いて……今度は……まる? あ、歩かないと……今度は……ひとでの形? 歩かないと!
魔力の球の形を変えようとすると、歩くのを忘れちゃうし、歩いたら、次にどんな形に変えるのか考えないといけないし、思っていたよりもずっとたいへん!
わ!
ごっつん!
下あごに衝撃。
ごろんとその場に転がる。
みれば、普通の木がどっしりと僕の前に立っていた。
そっか、木も避けないと、なんだ。
これは、思っていたよりもずっとずっとたいへんだね。
『だからゆっくりと、なんだよ。焦って怪我しても、得にはならないからね』
わかった!
起き上がって、魔力の球を探す。
ないみたい。
さっき普通の木にぶつかった時に、魔力の球が消えちゃったのかな。
仕方がないから、また魔力の球を出すために今度は左耳に魔力をあつめる。
ぐっとして……ぽーん!
左耳から出た魔力の球は、右耳と同じような長まるどんぐり。
よーし、がんばるぞー!
気を取りなおして、広場に向かう。
一度は普通の木にぶつかったけれど、気を付けていれば――
あいたっ!
前足がなにかに引っかかって、前に転がる。
みれば、地面から根っこがひょこっと出ていた。
『前途多難だね』
ぜんとたなん?
よくわかんないけれど、出来ることを一つずつだよね!
『そうだね』
よーし、さっきは消えちゃった魔力の球も、今回はちゃんと気にしていたからか、消えていないし大丈夫!
あきらめずにがんばるぞー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます