二十一話:適度?
『若葉が楽しい事に目が無い、のは、わかっているよ。でも、流石に状況を考える事、を覚えようか』
うん!
『返事はいいんだけどねぇ……』
えへへ、褒められ
『褒めてないよ』
がーん!
住処への帰り道。
もうすっかり暗くなった道を歩く。
ハルサキ草が月の光を帯びて、ゆらゆらとたのしそうにゆれている。
狼さん達に捕まって広場にもどると、広場の周りに生えた木の下で、赤べえが寝そべって待っていた。
狼さん達と僕が追いかけっこしている時にどこにいたのって聞いたら、ずっと僕と反対側の森の端っこにいたんだって。
なにをしていたのって聞いたら、毛づくろいをしながら、ずっと僕をみていたんだって。
森の端っこから端っこまでみていて、頭がぐわんぐわんしないなんてすごいよねー。
また明日も同じ訓練をするみたいだし、明日こそ赤べえを見つけられるように、がんばろう!
『そうだ、ねぇ若葉、かぼちゃコロッケの事、なんだけど』
エルピ?
かぼちゃコロッケがどうしたの?
『赤べえ達同様、他の者達にも秘密に、しよう』
赤べえ達と同じように?
『うん。自衛のためだよ』
じえい?
『そう。赤べえ達のような者達だけ、がこの世界にいる訳じゃない、って事』
あ、それはそうだよね!
狼さんもいれば、ミミズさんも、グリフォンもいるもんね!
『何か違う気もするけど……まあ、そうだね。中にはかぼちゃコロッケを、無理矢理奪おうと、してきたり、若葉の命を奪おうとする者、もいるよ』
でも、それって生きるためなら仕方がないよね?
僕も食べるし!
『生存に由来する食欲だけ、ならそうだろうね。でも、彼等はかぼちゃコロッケにも、若葉にも、別の価値を見出して、欲するだろうね』
ねぇエルピ、かれらってだれ?
『そりゃ、人間だよ』
にんげん?
ってことは……ヒト?
『うん』
この世界にもいるの?
『いるね』
わぁー!
いるんだー!
お話ししたいな!
一緒に遊びたいな!
ぜったいたのしいよ!
なんだかうれしくて、その場でくるりと回る。
尻尾になでられたハルサキ草もうれしそうにゆれている。
魔力感知のおかげで、回っても普通の木にぶつからなくなった。
それがうれしくてもう一つ回る。
『関わるのも出来たら、やめてほしいんだけど……』
えー。
『えーって……まあ、多少の付き合いは仕方が無い、か。人間は汎存種だし、絶対に遭遇しないようにする、のは、極めて困難だろうから、ね』
はんぞんしゅ?
きわめてこんなん?
わー、よくわからないけれど、いいってこと?
『コロッケを秘密にして、適度に関わるなら、いいって事』
わかった!
てきどだね!
やったー!
なにして遊ぼう?
あれもいいこれもいいと、ぽこぽこひととの遊び方が、たのしかった思い出と一緒に出て来る。
追いかけっこは狼さん達とやってさらに鍛えられたから、大活躍しちゃうかも!
まり遊びも得意だったし、大活躍間違いなしだね!
たのしかった思い出につられて、足取りで踊る。
右右回るー、左左ジャンプー。
山菜採りは……山の中を走り回るのは、とってもたのしい。
通りすがりに縁を結んだ山菜を“ときこ”の目の前で引っ張って、山菜が飛んで来るのを初めて見て驚いたり、慣れてきて嬉しそうな顔で見ている“ときこ”がおもしろかったし、たのしかった。
そういえば、山菜採りは最後に採った山菜を食べるんだけれど、僕には味がよく思い出せないんだよねー。
たのしかったのは覚えているんだけれど……たのしい味だったのかな?
歯の間に挟まったものが取れて気持ちが良かったから、気持ちがいい味なのかな?
取れたものの代わりに山菜が挟まっちゃうことがあって、それはちょっといやだったんだよね……いやな味?
うーん、やっぱりたのしい味!
回って
逆に回って
走って
ジャンプ!
『これは適度の意味、を教えるべきか……』
あ、着いたよエルピ!
一面に広がるハルサキ草がやわらかい白の光を放って、僕が寝床にしている大きな石や、そのうしろに立つ大きな樹の根元辺りを照らしている。
これを見るのは今日で二回目。
この場所に生えているハルサキ草は、あれ、なんだっけ……あ、ぼんぼり、ぼんぼりみたいに、ふわ~って感じに光っている。
不思議だよねー。
ふわぁー。
あ、あくびしちゃった。
ハルサキ草の光を見ていたら、眠くなってきちゃったみたい。
眠気に気付いたら、どんどん眠くなってくる。
『何で此処のハルサキ草が、月の光を受けて強く光る、のか、知りたい?』
うーん、いいや。
今日はもう眠いし……。
ふわぁー。
あ、またあくびしちゃった。
『そう……でも寝るならちゃんと石の上で、ね。また其処ら辺で寝ちゃって、寝相でハルサキ草を潰して、起きてから後悔するのは、若葉なんだからね』
わかったー。
『わぁ、こりゃダメそう』
寝床の大きな石目指してハルサキ草の中を進む。
下を向いていると、ハルサキ草の香りがすごくして、とってもいい感じー。
ゴズッ
あ、頭がなにか硬いものにぶつかった。
石かな?
登らないと。
…………
……
『若葉? ……若葉ー? …………仕様が無いなぁ。……空の子よ。陰にして陽の子よ。眠れる赤子を運んでおくれ――音無き抱擁』
『……うん。上手く出来てよかった。人間もこういう時、には、役に立つもんだね。……少し詠唱が長いけど。そこはまあ、親心ってやつなのかな』
『……おやすみ、若葉』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます