十九話:みんなとおいかけっこ
木々の間を縫うように走る。
背の高い草の中を進んで、さらに前へ。
荒くなった息づかいが聞こえて、右を向けば狼さん。
僕と並ぶ様に走りながら、ゆっくりとこっちに寄ってくる。
僕は左にすこし進む方向を変える。
すると、左にも狼さん。
近づいては来ないけれど、走りながら僕をじっと見ている。
あれ? 右の狼さんが離れていく。
左の狼さんと同じくらい離れたね。
なんで?
うーん、魔力感知で周りをしっかりみておこうかな。
『ねぇ、若葉』
ん?
どうしたのエルピ?
『えっと……なんで走っているの、かな?』
え?
それは、狼さん達に捕まらないように、だよ?
『う、うん、それはわかるんだけどね?』
うん――あ、ちょっと待って!
すこし前に生えた木の影から、ふたりの狼さんが飛びかかって来る。
すぐ横に生えていた木目がけてジャンプ!
さらに木を足場にジャンプ!
さらにさらに反対側に生えていた木を足場にジャンプ!
透明な壁ごとふたりの上を通り抜ける。
ふぅ、びっくりしたぁ!
魔力感知で周りをみていたのに、壁も狼さんも、出て来るすこし前にしか気付けなかったよ!
特に狼さんが突然出てきたのはびっくりしたぁ。
『ああ、あれは壁の魔法を隠蔽してたやつ、の応用。周りの魔素濃度、を上げて、隠れるの』
へぇー!
そんなことも出来るんだねー。
みんなよく思い付くね!
『そうだね……で』
あ、すこし離れて僕を挟む様に並んで走っていた狼さん達が、今ちらちらって僕から視線を外してどこかを見ていた。
この先になにかあるのかな?
魔力感知でみてみよっと。
うーん、もうすこし先の方がきらきらしている?
魔力があつまっているみたい。
あ、その近くに狼さんがふたりみえた。
まそのうど? を上げて隠れているのか、みえたりみえなかったりしているけれど、たしかにいる。
あのふたりに左右のふたり、さっき跳び越えてから追いかけてくるふたりを入れると、四つの方向を囲まれちゃうことになるんだね。
それはちょっと、まずいかも。
『あ、あのね』
そうだ!
ひとりのところから出ちゃえばいいんじゃないかな?
左右の狼さん達は、いつも狼先生と訓練している毛並みがしゅばっとした狼さんだけれど、ひとりだったら、もしかしたらいけるかも。
じゃあ、右と左、どっちにしようかな……泉が近いし、左かな?
あとはまた狼さんが視線を外した時にやった方が、びっくりさせられていいかも。
うん! そうしよう!
『しゅ、しゅばっと?』
ごめんねエルピ!
それはあとでね!
『うん、わかってる! わかってるけど……最近、ボクの扱いが粗い気が……』
ごめんね!
まっすぐ前を見ながら、魔力感知で狼さん達の様子をみる。
もう一度、ちらっとでいいから視線を外してくれないかな……。
左の狼さんだけいいから……あ、そうだ!
狼さんの前にある木の根っこを地面から出したら、びっくりして視線を外してくれるかな?
すこし疲れちゃうけれど……うん! やってみよう!
えっと、狼さんのすこし前の木の根っこに縁を伸ばして、縁を使って上に引っ張る!
よいしょお!
地面からずぼっと顔を出した木の根っこに、狼さんが僕から目を離した。
やった!
うまくいった!
左前足に力を込めて、思いっきり地面に叩き付ける。
前足の大きさに開いた穴に足を入れたままにして、すこし強引に方向転換。
僕の左を走っていた狼さんのすこしうしろに向かって走り出す。
すこし遅れて僕に気が付いた狼さんは、即座に細長い壁を作って、狼さん側に撓んだ壁を蹴って蹴って蹴って、僕の真上のところでまた蹴って、両前足を目いっぱい伸ばして落ちて来る。
咄嗟に姿勢を低くして、滑り込む様に通り抜ける。
狼さんの前足が僕の尻尾の毛を掠めた。
あ、そうだ。
「もどって!」
僕の言霊に反応した木の根っこがしゅるると地面の中にもどっていく。
ちゃんともどしておかないと、だよね! って、わわっ!
うしろからたくさんの狼さん達が追いかけて来ているのが、魔力感知でみえた。
さっきまであんなにいなかったのに。
どこに隠れていたんだろう?
『知りたい?』
うん!
『さっき方向転換する前に、若葉の少し前にいた、二匹の狼、あれは囮。ワザと粗く隠れて注目させ、周りで袋小路になるように、隠れていた他の狼達を、見付け辛くしていたんだ。あのまま進んでいたら、逃げ場が殆ど、無くなっていたね』
へー! よくわかんないけれど、すごいんって、わわわっ!
みんなすっごい速い!
魔力を使って走っているみたい!
『作戦がおじゃんになった、からね。ちょっと不味い、って思ったんじゃないの?』
そっか!
じゃあ僕も!
魔力を脚にあつめて……ごー!
びゆん! と加速。
次々と迫ってくる木を魔力感知で、先にみながら躱す。
おっと、おっととと。
いつも広場で魔力を使って走っていた時は、木がなかったから走りやすかったんだね。
森の中でうわっ、走るとおととっ、たいへんだー。
木をなんとか避けながら、魔力感知でうしろを確認。
わー、すごいね!
みんな上手に木を避けてる!
木にぶつかりそうになっている狼さんはちらほらいるけれど、するりと避けて、おまけに木をうしろ足で蹴って、止まらないで先に進んでいる。
すごいすごい!
僕もやってみたい!
こうかな?
ちょうど目の前に迫って来た木をすれすれで避ける。
木を通り過ぎる前に、うしろ足で木を蹴る……ける……けるー?
蹴れてなーい!
通り過ぎちゃっていたみたい。
結構むずかしいんだね。
ってわわ!
尻尾の先の毛が何本か抜けた感覚。
見れば、狼さんが走りながら尻尾を咥えようと、口をあぐあぐとしていた。
一番びっくりなところは、魔力感知ではぜんぜんみえないのに、目の前にいること。
あ、僕自身もすこしみえづらい。
これがエルピの言っていたもの?
すごいなぁ。
僕もいつか出来るように…
あぐあぐあぐあぐ
もー!
尻尾の毛を抜かないで!
脚にさらに魔力をあつめて、加速する。
すこしずつ狼さんが遠くなっていく。
このまま泉に行くよ!
今日は尻尾の毛が心配だから、もう木を蹴る避け方はしない。
でも、今度やる時はぜったい成功させるんだ!
今度やる時は!
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