十六話:ぐにょんぐにょんにしよう!
「何やら楽しそうだな若葉」
その声がした方へ視線を向けると、狼さん達が左右にすこしずれて、赤べえがゆったりと寝そべった姿が見えた。
その上に、興奮気味な狼さん達がのっている。
たしか、広場に走っていった狼さんだったかな? 違ったかな? まあいっか! それより今は、
『赤べえ! 魔力を体の外に出せたよ! ほら、みて!』
起き上がって、さっき出した魔力がある空を見上げる。
けれど、
あれ? ない?
そこにすこし不格好なまるい魔力はなかった。
周りをキョロキョロと見渡すけれど、見つからない。
なくなっちゃった?
『それは』
「意識がこちらに向き、魔力の供給を断ってしまったのだろうな」
『そうなんだ!』
赤べえもものしりだね!
それと、エルピなにー? なにか言おうとしていたようだったけれど。
『ああ、うん。何でもないよ』
そっか!
またなにかあったら言ってね!
『うん』
うーん、なんだかエルピは元気がなくなちゃったみたい。
これは僕がもっとがんばって、エルピを元気にしないとだね!
『それは、一体どういうこと?』
また鼻に魔力をあつめる。
だんだんと温かくなってくる鼻。
みんなの期待している目。
元気のないエルピ。
がんばらないと!
『だから、何でボクは元気が無い、事に?』
この魔力を、ぐっとして……ぽーん!
鼻にあつめた魔力が体の外へと出ていく感覚。
鼻からぽーんと飛び出た魔力の球が空に上がって、さっきよりもすこし早く落ちてきて、僕の頭よりもすこし上の宙で浮いた。
おー! さっきよりもまるい……気がする!
狼さん達がまた『すごい!』と褒めてくれる。
隣でみていた狼さんはうれしそうに前足でジャンプしていた。
えへへ、うれしいな。
どうエルピ、元気でた?
『え、ええっと……まあ、うん。少し出た……のかな?』
やった!
「ふむ。若葉、その魔力球に意識を向けたまま聞け」
赤べえ? なんだろう。
「意識を向けたまま、だ。魔力球がまた霧散するところだったぞ」
赤べえへ向けようとしていた視線を慌てて戻す。
おっとと。
あぶないあぶない。
えっと、魔力の球に意識を向けて? これって、目を離しても大丈夫なの?
どうしよう、やってみようかな。
こわいけれど、やっぱり話しているひとの方を向かないとだし……うん。
やってみよう……!
あ、これ、すごく魔力の球が気になる。
消えてない……よね?
ちゃんとあるような気はするんだけれど、やっぱり心配。
すっごく、すっごく気になる。
ゆっくりとだけれど、なんとか赤べえの方を向くことが出来た。
その様子を赤べえは話の続きをしないで待っていてくれたみたい。
しっかりと赤べえを見る僕に、赤べえは一つ頷いて、話し始めた。
「魔力を体から放てるようになったのなら、次は放った魔力を体内と同じ様に、自由自在に動かせるようになれ。それが出来るようになったのなら、次は走りながらでも出来るようになれ。それも出来るようになったのなら、我に報せよ。よいな?」
『わかった!』
僕の返事に赤べえは一つ頷いて、地面に顔を伏せて眠り始めた。
その上に居座っていた狼さん達も一緒に眠り始める。
なかよしだねー。
『……え、感想そこ?』
ん?
エルピ、ほかになにかあった?
『えっ、あ、ううん。若葉がいいなら、いいよ』
うん!
頭の上に浮いている魔力の球に視線を戻す。
魔力の球はなくならずに、その場にふよふよと浮かんでいた。
おー、意識を向けているなら、見ていなくても大丈夫なんだね。
えっと、まずは狼先生がやっていたみたいに、ぐにょんぐにょん出来るようになればいいんだよね?
ね、エルピ?
『うん。そうだよ』
えっと、こうかな。
もっとまるくなれー……なれー?
まるーくなれー……?
まるくなってる?
『いや、なってないね』
そっかー。
『それよりも、もっと形の変化が分かりやすい形、にした方が、若葉も成功かどうか、が分かりやすいと思うよ』
そっか!
じゃあ、ええっと……コロッケ!
コロッケの形!
コロッケ形になれー!
『コロッケも殆どまるい、じゃない! もっと――』
おー! なんだか出来そうな気がする!
『想像しやすいもの程、成功しやすいだろうけど、丸よりもコロッケの方、が成功しそうって……』
魔力の球をじっと見つめる。
頭の中に思い描くのは、あのおいしいかぼちゃコロッケ。
ざくっとしてて、ほくほくで、お腹も心もあったかなあの甘味。
あ、よだれ出てきたかも。
魔力の球がその形をぐんにょりと変えて、すこしながいまるになっていく。
さらにまるでコロッケの衣の様に、周りがギザギザになった。
なんだかコロッケの香りもしてきた気が……
『それは気のせいだよ』
気のせいだった。
なにはともあれ、見てエルピ!
すっごくコロッケ!
すっごくコロッケだよエルピ!
『そうだね。コロッケだね』
『みんなみてー、コロッケー』
あれ?
狼さん達、コロッケ形になった魔力の球を不思議そうに見上げている?
あ、首を傾げちゃった。
あれれ?
もしかして、コロッケを知らない?
なら、教えたい!
食べるとあったかくて、甘くて、お腹の中からだんだんとぽかぽかしてくるあの感覚を!
教えたら、ぜったいみんな食べたくなるだろうから、エルピにお願いして、出してもらおう!
足りなかったら、僕の分をあげてもいいし!
みんな喜ぶだろうなー!
もしかしたら、もっとみんなと仲良くなれちゃうかも!
ううん、ぜったいなれるよ!
『コロッケっていうのは――』
「ならぬ」
赤べえ?
赤べえがいる方の狼さん達がふたたび左右にずれる。
頭を上げた赤べえと目があう。
「ならぬ」
赤べえが僕を見つめて、もう一度そう言う。
理由はわからないけれど、ダメみたい。
なんでだろう。
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