七話:魔法を使ってみたい!


『あ、戻せないんだ……』


 エルピの言葉に、頭を左右にふる。


 あのね、魔法を使ってみたいの!

 なんだか思っていたよりも疲れちゃっているんだー。


『あ、そっか』


 エルピも納得したみたい。


 さっき気付いたことなんだけれど、“縁”を結ぶのは、魔力を使うことよりもたいへんみたい。

 言霊で泉の水を浮かせるのがすこし歩いたくらいだとすると、“縁”を結ぶのはすこし走ったくらいの疲労感がある。

 魔法はまだ使った事がないから、どれくらい疲れるかはわからない。

 でも、“縁”を結ぶよりも疲れないなら、今の内に知っておいた方がいいと思う。

 そしたら、ここぞ! って時に、疲れて動けないってことにならないだろうしね!


 それにしても、木の根よりも泉の水の方がたくさん重そうなのに不思議だよね。

 あっち前の世界で“縁”を結ぶ感覚とこんなに違うなんて!

 もうびっくりだよー。

 あっちだと、喧嘩とかですーっごい長い間使いっぱなしでも大丈夫だったのにね。

 あれ? そういえば、この森で一番大きい樹に“縁”を付けているけれど、それはぜんぜん疲れないね。

 なにか、違いがあるのかな?


『じゃあ、魔法……魔法? 言霊で戻せる、よ?』


 え、そうなの?

 でも魔法……まあいっか!


「もどって!」


 試しに言葉に魔力をのせて根っこに放つ。

 土から飛び出していた根っこは、するすると吸い込まれる様に、土の中へともどっていった。


 ……言霊ってすごい! なんでも出来るね!


『何でもは、出来ないよ』


 そうなんだ!

 また泉の方で練習をしよっと!


『……頑張って』


 うん! がんばるよ!

 よーし! 練習練習ーっと!


 僕はまた泉のほとりに座って、言霊で泉の水を宙に浮かせる。


 この言霊で浮いた水って、毎回同じくらいの高さ―普通の木の半分のすこし上くらい?―で止まるね。不思議ー。

 あ、そうだ!

 一度浮かせたあとに、もう一回浮かせると、どうなるのかな?


「ういて!」


 僕はすでに浮いている水の球に、もう一度言霊を放つ。

 すると、水の球はさらに上に昇って行った。


 上手くいってうれしい。

 どこまで出来るんだろう?

 やってみよう!


「ういて! ういて! ういて!」


 さらに水の球に言霊を放つ。


 ……けれど、上に昇っているようには見えない。

 あ、落ちてきた。



 ドバシャアアアアアアンッ!!



 うーん、なんでだろう?

 声の大きさかな?


『びしょ濡れ、な事に、一言』


 ん? 結構気持ちいいよね!


『そう、ならいいや。折角だから、自分で乾かして、みたら?』


 あ! そうだね!

 やってみる!


 ……


 どうやってやればいいの?


『最初は、言霊と一緒。次に、体の一点に、魔力を集中、させて、出す』


 うん! むずかしそう!

 でも、やってみるよ!


「えーっと」


 あれ?

 エルピは声に出さなくても詠唱をしていたよね。

 なんでだろう?

 もしかして、声に出さなくても、頭の中で詠唱って出来るのかな?

 でも、最初は言霊と一緒だって……

 わからないから、いいや。

 まずは詠唱!

 エルピはたしか……


「あったかいかぜ。きのみでつつんで。やがてはきえる」


 体の一部に魔力を……体の一点ってどこでもいいのかな?

 力が入りそうなところに魔力をあつめて……


 えいっ!


 ……あれ?

 なにもおこらない。


『木の実が、近くに無くて、よかったね』


 ?

 どうして?


『木の実があったら、お尻に温かい風と、木の実が、殺到していた、よ』


 そうだったんだ!

 冬にやると、あったかいし、おいしいだろうね!


『……その発想は、無かった』


 えへへ。


『それもいいけど、そろそろ、乾かしたら? 木の実を、じゃなくて、この身を、自分の事だよ』


 わかった!


「あったかいかぜ。このみをつつんで。やがてはきえる」


 あとは体の一点に――


 びゅうびゅうと風が吹いて、僕の体を乾かしていく。

 すこし風が強いけれど、温かくていい気持ちー。

 まだ詠唱しかしていないけれど、成功なのかな?

 たぶん、成功だよね?

 やったー! 魔法も出来ちゃったー!

 やったよ! エルピ!


『うーん、ごめんね若葉、それは魔法、じゃないよ。詠唱だけ、だから、言霊だよ』


 あ、うん。

 うすうす気が付いていたよ!


 体の一点に魔力を集中させて出す……うーん。

 なかなか出来ないなぁ。


『とりあえず、お尻に集める、のは、止めようか』


 わかった!

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