第9話 いつかの景色(2022/01/26 改稿)
懐かしい公園が目の前に広がっている。
大きな木の木陰にある赤いベンチで、幼い独古が泣き明かしていた。隣で君影が独古を慰めている。それを独古は遠くから見ていた。
何故、自分はあそこで泣いているのだろう。独古は自分が泣いてる事に疑問を抱いた。けれど、どうして自分が泣いていたのか思い出せない。
「独古、泣くな。お前は何一つ悪くない」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
そこに居る自分は、壊れた人形の様に何かに対しての謝罪ばかりを繰り返している。何に対して謝っているのだろう。疑問に思ったが、その原因が分からなかった。
その独古を君影が隣で抱きしめている。
「大丈夫だ、独古。大丈夫。お前は悪くない。お前が原因じゃあない。だから。大丈夫だ。大丈夫なんだよ、独古」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
君影が独古を励ましている。でも、その声は独古には届かない。
「大丈夫だよ。許すよ。だから、泣かないで独古」
違うんだ、違うんだよ君影。何故か、その言葉が心によぎった。
何時しか、その場で泣いている独古は自分になっていた。
赤いベンチでスーツ姿の大人の独古が泣いている。
独古の心の中は嵐のようだった。胸の底から、理由もなく心をつんざくような痛みが溢れ出る。その理由も、止め方も、独古には分からない。
只々、溢れ出るままに泣いていれば、誰かがそっと肩に触れた。泣きじゃくった表情のままで顔を上げる。
「何だ、お前の泣き癖はいつまでたっても変わらないなあ、独古」
君影だった。ああ、彼がいる。
その安心感に、泣きじゃくりながら何度も名前を呼べば、君影が独古の幼児返りした姿を可笑しそうに笑う。
「何だ、そんなに名前を呼んで。僕はお前のママじゃないんだが。また、失敗したのか独古」
「また傷つけてしまった。また僕は間違った。…もう、こんな事ばかりだ。僕はどう生きれば正解だったの?何が正しい行動だったの?
分からないばかりなんてもう嫌だよ!!誰か答えを教えてよ!僕は、もう、嫌だ!こんなに怖い想いをするのは、もう、いやだよう」
「…本当に、今日は随分と幼くなってるな独古。そんなに怖い事があったのか」
彼が肩を抱くように独古を包み込む。
泣きじゃくる独古をあやすようにそっと触れる手が酷く暖かった。
「独古、独古、聞け。大丈夫だ、お前は一人じゃない。だから大丈夫だ。どんな時も、どんな夜も。其処がどんな夢の中であろうとだ。僕が居る。一人にしない。一人で考えさせない。一人で戦わせたりしない。だから、大丈夫だ」
その声に顔を上げる。
君影が独古に笑いかける。
「大丈夫だ、独古」
その声は心の芯まで届いた。暖かく胸の奥へ滲み、独古を安心づける。
「・・・ひっく、ずっと?」
「ずっと、ずっとだ。昔約束しただろう?僕は、ずっと一緒にいるって」
頷いた君影が優しく微笑む。
パズルの最後のピースがはまり込むように、その言葉は、すとんと、独古の心の中の在るべき場所に落ちた。
独古の中の嵐がやむ。
「ずっと、ずっと?」
「ずっと、ずっとだ。だから、今は眠れ。明日から、忙しい日々が待っているんだからな」
君影の左手が優しく独古の頭を撫でる。彼がそう言うならそうなのだろう。
その暖かさに次第に独古の意識が微睡へと落ちていく。
「・・・そっか、君がそういうなら、そうだ、ね」
白けていく視界の端で親友が微笑んだ気がした。
「おやすみ、独古。今はどうか、お前が良い夢を見ますように」
その声を最後に、独古の意識は深い闇へと落ちた。
新たに一人の少年を世界に取り込み、ゴールドラッシュの夜は更けていく。夢は醒める気配は無い。
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