朝食と説明
朝食を摂りながら、魔法について色々教えてもらうことになった私。黙々と朝食の準備をするルークを前に、その様子を眺めることしかできない私は気まづさを覚えた。
「まず初級魔法。これは普通の人間が誰でも使えるもので『火・水・風・土』に関係する魔法のみが使える。さっき教えた『どこから、どういう状態で、どういうものが出るのか』のイメージがつけば大体のものは出せる。ただ、魔法自体に攻撃力が全くない。攻撃には一切使えず、主に生活にしか使えないから皆、初級魔法のことを『生活魔法』と言っている」
説明をしつつ、ルークはレオからいただいた食料の中から、チーズの様な黄色いものとパンそしてレタスに似た葉野菜を取り出し机に並べていく。
「次に中級魔法。これは初級魔法に攻撃力が加えられた魔法だ。中級魔法は初級魔法のイメージを組み合わせる魔法構築という工程が加わってくる。…実際に見せるとこんな感じだ」
そう言うとルークは先程の葉野菜を皿に乗せ、その葉野菜を指さす。すると葉野菜の周りだけに風が巻き起こり、あっという間に細かく切られた状態で皿に盛られた状態になった。彼は同じ様にパンとチーズに似たものも次々に魔法でスライスしてしまう。数種類の野菜を切った所要時間は1分にも満たない。こんな速さでこんな事ができるなら、包丁なんていらないのだろう…
「初級魔法は誰でも使えるが、中級魔法が使えるのは大体10人に1人ぐらいだな。使える人間はそこそこ珍しいから、平民なら商人の護衛等で生計を立てているものが多い。報酬がいいからな」
「…じゃあ、私が今みたいに野菜を切るのは難しいのかな?」
「さあな…勉強すればできるかもしれないが、中級魔法の魔力使用量は生活魔法の比ではない。指輪に込められる魔力量を考えるとあまり現実的ではないな」
魔力使用量…自然とゲームでよくあるゲージが脳裏によぎる。一般的なゲームの様に時間の経過と共に回復することのない私の場合、都度ルークに補充してもらうことを考えるとやはり生活魔法の使用だけに留めておくのがよさそうだ…。
「そして最後に高位魔法。これは中級魔法よりはるかに攻撃力が高い魔法だ。しかも、高位魔法には『火・水・風・土』以外の魔法が数多にある。高位魔法を1つでも使えるのは…そうだな…100人に1人と言ったところか」
説明しながら薄く切ったパンに葉野菜とチーズに似たものを乗せ、ルークはそれをパクりと食べた。そして、私の方にパンの乗ったお皿を差し出す。
自由にのせて食べろという事らしい。
私もパンを手に取り同じ様にして食べる。謎の黄色いものは見た目通りチーズに似た風味がした。しかも、パンがまるで焼き立てかのような柔らかさで香ばしさが口の中に広がりとても美味しい。
元の世界よりも美味しいパンに私の顔が綻んでいく。
「それじゃあ…宮廷魔術師っていうのは何?」
「国に所属する魔術師だ。採用条件は最低でも5つ以上の高位魔法が使えるのが必須。高位魔法を5つ以上使える人間なんて国中探しても十数人。その中で魔法以外の適正もチェックするから所属している魔術師はごく僅かだな」
いわゆる公務員ということか。けれどその採用条件には驚きを隠せない。
そして同時に、王様がルークの事をこの辺の国で1、2を争う魔術師と言っていた事を思い出す。
「…ルークって高位魔法いくつ使えるの?10個とか?」
近隣の国を含めて1、2を争うのであればもしかしてそれくらい使えてしまうのかもしれない。
パンを齧りながら何気なく聞くと彼は少し考える素振りを見せる。
「数…30?40?…きちんとした数は覚えてないが一般的に知れ渡っている高位魔法は一応全て使えるぞ。もちろん初級と中級も…まぁ、得意不得意はあるがな…」
考える事をやめさらりと言ったルークに固まる私。
凄い魔術師とは聞いていたけれど…そんなに飛び抜けて凄かったとは…。
この世界に魔法がいくつあるのかは知らないが、なんともチートな魔術師だ。
「魔法についての基礎の説明はこんなところだな。香草はさっき水魔法を使えてたから、あとは火魔法が使えれば最低限の生活は出来るだろう」
水と火だけで過ごす生活…まるでサバイバル生活だが、それでも使えないより大分便利にはなる。
けれど、それだけではルークのサポートは出来ない。
今だって包丁もないこの家ではルークの調理を見ているだけだった。ただ、昨日からの話を聞く限り、魔具があれば家事くらいは何とかできるだろう。正直な所、家事にそこまで自信があるわけではないが、現状私が頑張ってどうにかできそうな事はそれくらいしか思いつかない。
「…やっぱり色々道具を揃えないと…」
まずは調理器具を揃えたい。そしてできれば灯りと掃除と洗濯ができそうな道具もなるべく早く揃えたいところ…いくら魔法が使えるからといっても、今までどう生活していたのか本当に謎なくらいこの家には何もなかった。
できる限り早急に環境を整えて自分のできる事は自分で出来る様にならなければ、ルークに頼る生活になってしまう。そんなの、ルークに養ってもらうみたいでなんだかとても嫌だ。
「ルーク、ここから一番近くの食材とか調理器具とか売っている場所の地図を書いて貰えない?あと、お金の相場を教えてもらえると嬉しいのだけれど…」
昨日ルークとトランクの中身を確認した時、トランクの中に入っていた袋を彼から渡された。中身は大量の金色のコイン。戸惑いルークに問うと、レオがお前に用意したに決まっているだろうと呆れ顔で言われたのだ。
幸いにもお金は貰うことができたし、相場がわかれば買い物くらいなら1人でできる。早々に食事を済ませ準備を始めようとする私をルークは昨日と全く同じ呆れ顔で見る。
「ここが山奥だということを忘れたのか?」
「…」
忘れていた。
大きく肩を落とし項垂れる私。ルークはきっと少しの時間でも惜しいだろう。それに彼は絶対に面倒に思うに違いない。
「まぁ…どのみち今日は街に連れて行く予定だったし、香草の要求するものも一緒に揃えよう」
「えっ?でも…いいの?」
そういえばベッドと衣服を揃えに行くという話だった。でも、呪いの件を知った以上、自分のことであまり時間を使わせたくない。戸惑いながら彼を見ると眉をハの字にして私を見る。
「昨日言っただろう?それも忘れたのか?それに、客人をずっとソファーで寝かせておけるほど俺は無神経な人間じゃない」
そんな事ないんじゃないかな…?なんて心の中で思ったが表情に出さないように気をつけ、私は微笑んだ。
「ありがとう」
「…今後もし外に何か用があるなら俺に言え。連れていく」
そうか…。ルークの魔法なしでは私は家から出られないのだ…
ということは、家から出るには必ずルークと密着する必要があるということ…。
「…ルーク、移動魔法って生活魔法?」
答えは予想できるが、一応聞いてみる。ルークはため息をつき、パンに野菜を挟みながら答えた。
「そんなわけないだろう。移動魔法はこの国では俺しか使えない高位魔法だよ」
ですよね…。
「この国は普通の人間に厳しいな…」
改めて異世界の不便さを実感した私は深い深いため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます