呪いとギャップ
「…呪いは……ルークがかかった呪いは…ルークの死と同時にエルフィーネ国の国民が魔族に魂を取られる…言い換えるのであれば死ぬ呪いだ」
「どうして…そんな…」
背筋がスッと冷たくなる。
レオはルークがかかった呪いと言った。そんな呪いにかかるなんて彼はどんな禁忌を犯したというのだろう?
そして私はどうなるのだろうか?もし呪いが解けなかったら…私も一緒に死ぬ事になるのだろうか?
覚悟をしていたつもりだったが、想像以上の内容にうまく言葉が出でこない。
たった一言で混乱に陥った私に彼は今まであった出来事を語り出した。
「今から半年前、宮廷では魔具の研究をしていてね。その一環で各国から珍しい魔具を宮廷に集めていた。しかし、その中に呪いのかかった魔具が混じっていたらしく…それを手にしてしまったのがルークだ」
そう話したレオの表情は一層暗くなる。
「ルークやルークと一緒にいた人間から受けた報告だと、彼は何者かに余命1年の呪いをかけられ、さらにはその者に自分の死と同時に大多数のエルフィーネ国の国民が魔族の生贄にされると…そう告げられたらしい」
「…」
スケールが違いすぎる話に黙ってレオの話を聞くことしかできない。
そんな恐ろしいものがこの世界にはあるというのだろうか?
「それ以来ルークはロクに休みも取らず呪いを解く方法を探している。だが、その呪いはとても難解なもので…この国…いやこの世界中の解呪に関する魔法は何一つ効果がなかった」
「あの…他の国の…彼以外の…もっと優秀な魔術師さんに聞いてみるとか…」
絞り出した私の提案に、レオは誇らしそうな、でも困った微笑みを浮かべた。
「残念だけど、ルークはこの国だけでなくこの世界で1・2を争う魔術師といっても過言ではないからね…彼以上の魔術師を見つけるのは難しい」
ルークはそんなにすごい魔術師なのか。
態度からして偉そうな人だと思ってはいたけど、そこまで実力がある人間だとは思ってもみなかった。
「それに…ルークが呪いに掛かっていることを他国に知られるのは避けたい」
「他国と、仲が悪いのですか?」
眉に縦皺を作り低い声を出すレオ。
国王がそんな表情を見せて他国という原因は凡人にはそれくらいしか思いつかない。どの世界でも国同士の争いというものはつきものなのだろうか…。
「あからさまに敵対している国はないがね…国一番の魔術師が弱っていると知ったら、チャンスだと攻めてくる国もあるかもしれない。それに、呪いがかかっていた魔具は本来収集リストに無かったもので、あの魔具がどうやって他の魔具の中に紛れたのかも調査中なんだ。偶然紛れたのかもしれないし、この国をよく思っていない国の策略の可能性もある。もし故意的にあの魔具を紛れ込ませたなら、内部の人間が関わっている可能性が高い…。不確定要素が多い今、ルークの呪いの件はこの国の人間にも気安く話せない」
話しを終えると、両手を広げてお手上げ状態だよというポーズをしたレオ。
国全体の危機にも関わらず、事情を知っている一握りの人間たちで、自国にも他国にも知られないよう内々に調査をするなんてとても大変に違いない。しかも、ゆっくりしている時間もないなんて…
レオは半年前にルークが余命1年の呪いをかけられたと言った。つまり、タイムリミットは残り半年。ルークが時間が無いとしきりに言っていた理由がようやくわかった。
「…君も巻き込んでしまって、本当に申し訳ない。君が元いた場所に帰す方法もこちらで調査する。君には大変申し訳ないのだが、少し時間をくれないだろうか?半年以内に…いやなるべく早くに君の帰還方法を見つけられるよう努力する」
レオの言葉に心が痛んだ。
呪いの調査だけでもきっと大変なのに、私を返す方法まで調査しないといけないのだ。この国の状況になんの役にも立てない私のために…。
しかも、希望が感じられないレオの言い方。無意識なのかもしれないが、少し諦めを含んだような言い方に、どう声をかけたらいいのかわからない。
「…大変な時に、ご迷惑をおかけいたします」
結局そんな風にしか返せなかった。
もし私にできることがあるのなら手伝いたい。けれど、話を聞いた限りだとやはり、私が役に立てることはなさそうだ。
無力な自分に落ち込んでいると頭に手が乗せられる。驚き落としていた視線を向けると優しい笑みを浮かべたレオがいた。
「香草さんが落ち込むことはない。非があるのは私たちの方だし、君は巻き込まれたのだから、何も悪くないのだよ。」
身を乗り出すような体制で、子供を安心させるように私の頭を撫でるレオ。そんな彼に私の少し恥ずかしさを覚えつつも心が温かくなっていく。家族以外でこんなにも安心できる優しさを体験したのはいつだっただろう?
別に優しさの無い生活をしていたわけではないけれど、彼の笑顔に久しく感じていなかった暖かさを感じた。
けれど、だからこそ余計に何もできない自分が申し訳なくなる。もし私に呪いを解けるような魔法が使えたら喜んで協力するのに…。
「ところで、君のいた異世界というのはどんな国なんだい?ルークが魔法がない世界と言っていたが、私には魔法がない生活が信じられなくてね…身の回りのことはどうやっているのかな?」
無力を痛感し何も言えないでいる私を気遣ってか、レオは明るい口調で話題を変えてくれる。どこまでも優しい気遣い。その気遣いを無碍にするわけにもいかないので私もまた、明るい口調で元いた世界の事を話し始めた。
「私の世界は科学という知識を使って、色々な物を作っていました。なので、魔法ほど早くはないけれど乗り物というものを使って遠くへ移動できるし、日常生活も水を出す道具や火をつける道具とか色々便利な道具があって…」
時折こちらの世界の事を聞きながら自分の世界の話をする。どやらこの国に「科学」に近い概念はないようだ。
レオは私の話ひとつひとつに目を丸くし驚き、そして時折、興味深そうに質問を投げてくる。
疑われ、不審な目で見られてもおかしくないのに、彼は私が異世界から来たと本当に信じてくれているようだ。優しい目で私の話を聞いてくれる彼に、私は思いつく限りの自分の世界の話を語った。
気づくと王様を目の前にしている緊張もほぐれ、私たちはたまに声を上げ驚いたり笑ったりしながら会話していた。この状況に置かれて初めて感じる、とても穏やかで優しい時間。
呪いの件は不安だけれど、とりあえずの生活は何とかなりそうな兆しに私の心はようやく穏やかになものになった。
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