第28章 帰って来たかかし、そして・・・
田んぼに稲がたわわに実るころ、あのかかしが田んぼに帰ってきた。
浩太は毎日学校の行き帰りに必ず、かかしの前でとまり話かけるのが日課となった。
元の姿に戻ったかかしは以前と同じようにまた長い長い一日が始まった。
まず、朝一番スズメやカラスを追い払い、次に色とりどりのランドセルをしょった子供たちを楽しく見送り、そして以前と違うのは一人の少年が一目散に走ってきて、必ずかかしの前で立ち止まり話しかけてくること。
かかしは毎日毎日それが楽しみでならなかった。
そんなある日また、あの暖かくて優しい風が何処からともなく吹いてきて、お釈迦様の使いが、かかしに会いに来た。
「かかしよ、毎日どうじゃ、楽しいか?」
「はいお使いの方、浩太と一緒にいるときと比べたら退屈ですが、毎日毎日、朝と夕方、浩太が会いに来てくれるので嬉しくて嬉しくてたまりません」
「そうか、せっかくの楽しみを邪魔するようで悪いとは思うのじゃが、またおまえさんにある所に行ってもらいたいのじゃが」
かかしは、今度はお釈迦様のお使いが、何を言い出すのだろうとどきどきしながら答えた。
「え・・・・、今度は何処に」
「うん、ある夫婦にこんど赤子が生まれる予定なんじゃが、今度はその赤子としてお前さんに、第三の人生を楽しんでもらいたいのじゃ
この赤子として生まれ変るのは、浩太のことでいろいろと頑張ってくれたので、そのお礼じゃ。
今度は人間の子供として、生まれ変り人間として今度こそ悔いのない人生を送ってほしいんじゃよ。
もう一度人間として生まれ変るんじゃ、よいか」
「分かりました。浩太と別れるのは寂しいですが、またいろんな事を経験出来るならぜひお願い致します」
お釈迦様のお使いの方はその言葉を聞くと、安心して話を続ずけた。
「しかし、生まれ変る際、今までの記憶、つまり浩太との思い出や、かかしの時の記憶は消える事になるが大丈夫か?」
かかしはすこし考えて、
「それはすこしさびしい気がします。
その記憶はもったままではだめなのですか?」
お使いの方はかかしの気持ちが痛いほど分かるので、可哀そうと思いながらも話を続けた。
「人間の赤ちゃんとして生まれるのだから前世の記憶を持ったままというのは出来ないのじゃよ。
でもこんどはもっと幸せな事が待っていることは約束しよう。
それにお前さんが生まれてくる事で、その家族も幸せになれるんじゃ。
分かってくれ」
かかしは不本意ながらも答えた。
「お使いの方のお言葉を信じて生まれ変わってみます」
お使いの方はその言葉を聞いてふっと、安心した。
「そうか頼めるか。
ではもうすぐ暖かい風がふいてくる。
そうすればお前さんの意識はなくなる。
そして人間の赤ちゃんとして生まれてくる」
「分かりました。
浩太との思い出が消えるのは寂しいけど、今度は人間として、また新たに生きていくことが出来るのならぜひお願い致します」
神様はかかしの気持ちが変わらぬうちにと思い
「よし善は急げだ、良いか行くぞ」
かかしが、ちょっと待って下さい、と言う間もなく暖かく優しい風が吹いたと思ったら、意識がだんだん遠のいていった。
次回、最終章 誕生
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