第27章 新たなる旅たち
それから一週間がたち、いよいよお別れの時が迫ってきた。
あの温かくて優しい風が何処からともなく吹いてきて、お釈迦様のお使いが、浩太とかかしに会いにきた。
そして、浩太とかかしに優しく語りはじめた。
「浩太とかかしよ。
心の準備は出来たかな」
浩太とかかしは同時に答えた。
「大丈夫です。
出来ました」
「そうか、それでは暖かい風が吹いたら、浩太の体から、かかしの意識は消えていき元のかかしの体に戻るからな。
では、良いな。」
でも浩太にはこの一週間お釈迦様のお使いにどうしても聞いておきたい事があり、慌ててお釈迦様のお使いの言葉をさえぎった。
「ちょっと待ってください」
お釈迦様のお使いは、優しく浩太に話しかけた。
「なんじゃな、浩太、これで最後だからできることなら何でも聞くぞ。
でも無理な事は無理じゃからそこはこらえてくれるかな」
「はい、お使いの方、これが最後なので一つだけ教えてほしい事があります」
お釈迦様のお使いはどうやら浩太が無理難題を言ってくるのではなさそうなのでほっとした様子で、
「一つだけでよいのか?」
と浩太に訪ねると、
「はい、この1週間、かかしさんと出会ってから今日までのことを、何度も思い返して感じた事がありました」
「なんじゃな、その感じた事とは?」
「それは、かかしさんが、いつも優しくてまるで本当のお父さんの様な気がしてならないのです。
そこで本当の事を教えてもらえませんか?かかしさんの正体を本当はかかしさんがお父さんではないのですか?」
かかしも続ずけて口をはさんできた。
「使者の方本当の事を教えて下さい。
私もそこはずっと気にはなっていました。」
「うーむ、困ったな」
お釈迦様のお使いは少し困りながら重い口を開き始めた。
「分かった、二人共、本当によく頑張ったからご褒美という訳ではないが最後じゃから本当の事を教えよう。
実は浩太のお父さん、お母さんは事故で死ぬことは初めから決まっておったのじゃ。
でも浩太のお父さんとお母さんが悪いことをしたからということではないぞ。
そこはけっして勘違いをするでないぞ。
人にはカルマというものがあり、そのカルマが終わったからじゃ。
そしてその事故もカルマの一つなのじゃ。
それを乗り越えて更に上の次元へと、いってもらうためなのじゃ。
でも想定外だったのが、浩太お前さんじゃ。
いじめられて予定外に自殺をしようとしたことじゃ。
かかしの中にお前さんのお父さんの魂を入れ、みまもらせていたんじゃがまた自殺を考えないように今度は、お父さんの魂をお前さんの体の中に入れたのじゃ。
そこから先はお前さんも知ってのとうりじゃよ」
浩太はやはりそうだったのかと思いながら、
「実はかかしさんが本当のおとうさんならいいのになってずっと思っていたんです。
本当の事を教えてくれてありがとうございます。
これで思い残す事もないです」
浩太は深く深呼吸して全ての思いを心の中に押し込むと、かかしにそっとつぶやいた。
「今までほんとにありがとう、お父さん」
かかしは、恥ずかしいやら嬉しいやらで何も答えられず、それと同時になにか胸を締め付けられるような寂しいのか悲しいのか、これが人間でいう感極まると言う感情なのかと思える不思議な感覚に包まれていった。
そして、何処からともなく温かく優しい風が再び吹いてきて、浩太の意識の中から、かかしの意識が消えていった。
さよならを言う暇もないくらい、あっという間だった。
次回、第28章 帰って来たかかし、そして・・・
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