第26章 別れ

空手大会が終わり程なくしたある日、あの暖かくて優しい風がどこからともなく吹いてきた。


「浩太、かかしよ、聞こえるか。

ワシじゃ」


突然浩太の中にかかしと全く違う意識が入ってきた。


かかしは懐かしそうに答えた。


「お釈迦様のお使いの方、お久しぶりです」


浩太は突然の事に訳が解らずかかしに答えを求めた。


「かかしさん、いったい何」


かかしは浩太にお釈迦様のお使いを紹介した。

お釈迦様のお使いは、浩太がこの状況を理解したのを確認すると、


「元気だったか。

浩太とは、初めてじゃな。

ワシが浩太の中にかかしの魂を送り込んだお釈迦様の使いじゃよ。

かかしよ、お前さんの使命はなんだったか覚えておるかな」


かかしは少しの間記憶をたどって答えた。


「はい浩太を導く事です」


「そうじゃな、浩太はお前さんのまごころと本人の努力で随分たくましくなったとは思わないか」


かかしは、初めて浩太と出会った頃の事を思い出しながら、


「はい、かなりたくましくはなりました」


お釈迦様のお使いは浩太にも同じような事を尋ねてみた。

「浩太は、かかしと会うまでの自分と今の自分と比べてどうじゃな」


浩太は嬉しそうにお使いの方に答えた。

「はい、かかしさんのおかげでかなり変れました。

強くなれました。

ジャキーなんとか、じゃなくて、ジャッキーチェーンみたいに」


お釈迦様のお使いは浩太の話を聞くと少し言いにくそうに話し始めた。


「そうか、そうだな。

これでかかしの使命もこれで終わりじゃ。

かかしにはまた別の使命をお釈迦様から頂いておる。

寂しいとは思うが、浩太とお別れじゃ。

浩太もよいか」

浩太は突然の事で心の整理がつかず、少しパニックになった。


「え、なに、どうゆうこと。

嫌だよ、かかしさんとお別れってどういうこと。

意味わからないよ。」

お釈迦様のお使いは申し訳なさそうに、

「浩太よ少し落ち着け。

これは初めから決まっていたことなんじゃ。

でも、いきなりこんな話を聞いても浩太は納得できないだろうから、一週間だけ猶予を与える。

それまで、気持ちの整理をつけるのじゃ。

よいかな」

お使いの方はそういうと、あの優しい風と共に消えていった。


「かかしさん、どういうこと?

解りやすく教えて」


かかしは、この事を話さなかった事を引け目に思いながら答えた。


「実はこのことは初めから決まってたんだ。

浩太のことをサポートしながら強くする。

それが僕の役割だったんだ。

そして君が強くなったら僕の役割も終わりなんだ。

もっと早く浩太に、このこと話しておかなくてはいけなかったのだけど、僕も話そびれてそのままだったんだ。

ごめんね」


浩太はとても寂しく思いながら、

「ううん、でも突然のことで、やっぱり気持ちの整理がつかないよ」


「そりゃそうだね。

でもこれは、最初から決まっていたから、仕方がないことなんだ。

まだ一週間あるからその間出来るだけいろんな思いでを作ろう」


次回、第27章 新たなる旅たち

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